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Interview

Beyond SDGs vol.02:日本企業の99%が抱える雇用の課題

花屋が紡ぐ、SDGsのその先へ

author: 大畑慎治date: 2022/02/22

「Beyond SDGs」の第2回目は、原宿と天王洲で花屋「LORANS(ローランズ)」を展開する、福寿満希さんが登場。SDGsをBeyondしているローランズの活動をソーシャルマエストロ・大畑慎治がナビゲートします。

「特例子会社」という制度をご存じでしょうか。これは日本の全企業の約1%にあたる大手のみが利用できる、親会社とグループ企業が共同で障がい者雇用を行うことができる制度。一方で、それ以外の99%の中小企業は障がい者雇用において、課題を抱えているという状況にあるということを示しています。

そして、この99%の企業以上に、雇用環境において渦中にいるのは、障がいや難病と向き合う当事者たちです。原宿と天王洲で花屋を営む「LORANS.(ローランズ)」では、60名うち45名の障がいや難病と向き合う当事者が活躍し、代表である福寿満希さんは、店舗経営をしながらあらゆるソーシャルビジネスと向き合っています。

昨今、流行り言葉のように消費される「SDGs」という言葉を本質的に捉えられている人はどれぐらいいるのでしょうか。「ローランズ」の福寿さんにお話を聞くと、その深淵が見えてきました。

「花屋」を軸に広がるSDGs

大畑:「Beyond SDGs」では、「SDGs2.0時代」の中で社会や企業が一歩一歩力強く前進をしていくための一助となる記事をリリースしていければと思っています。

SDGsは、今やっと「認知」が広がってきてるんですけど、本当に重要なのはその先の実際に社会の「状況」を変えていくところ。今はそれを担うべき企業がまだまだ変わっていっていない状況なので、今日は、「SDGs 2.0時代」の経営や事業開発のマインドセットであったり、ロールモデルになるようなお話をお聞きできればと思います。

ということで、まずローランズの事業内容から入っていきたいと思います。

福寿:ローランズは、社会的な役割を基盤とした花屋を運営しています。「障がい当事者が働く花屋」と切り取られることが多いんですけど、花屋から出てしまう廃棄花のリユース・再資源化の活動や、障がい当事者が中心となって「お花屋さんのこどもごはん」という花と食を通じた子どもの居場所作り事業を運営したりしています。

大畑:さまざまな領域に挑戦をしていますけど、事業を展開していくときの軸はありますか。

福寿:中心にあるのは「花屋である」ということです。「花屋が雇用問題に取り組んだら何ができるのか」「環境問題や子どもの貧困問題に取り組んだら何ができるのか」など、花屋と異なるカテゴリーを掛け合わせると何が生まれるかということが軸になっています。

大畑:なるほど。お花屋さんの立場から、あらゆる社会課題へのアプローチを積み上げていった結果、今の事業ポートフォリオになっているってことなんですね。

日本の企業の99%が活用できない「特例子会社制度」

大畑:障がい者雇用においては、日本には企業が「特例子会社」を作ることができる制度がありますね。

福寿:そうですね。日本の企業には障がい者の「法定雇用義務」というものがあって、「企業は従業員43.5人対して1人の障がい者の雇用」が義務付けられているんですけど、それに悩んでいる企業の人事担当者も多いようです。

確かに、一般企業の健常者約50人のなかに、障がい当事者が1人で働くことになってしまうので、孤立してしまいやすいですし、会社側はどのような業務内容を依頼すればいいか分からず、うまくその人材を活用できずじまいになってしまうこともあります。

そこで「特例子会社制度」を活用して、大手企業は「障がい当事者の働きやすい環境を集約した子会社」を設立し、親会社やグループ会社全体の障がい者雇用を作り出すことで、グループ全体で法定雇用率の達成を目指すことができる制度になります。

大畑:障がい当事者が働きやすい環境を整えることで、一人ひとりが活躍しやすくなるし、同じ悩みを共有できる仲間が近くにいることで、孤立することも防げるということですね。

福寿:この特例子会社には、障がい当事者が働くために必要な配慮やノウハウが集約されていき、障がい当事者が働きやすく仕事を続けやすい環境をつくれるのですが、この「特例子会社制度」を利用できるのは、複数のグループ会社をもつほんの一部の大手企業のみなのです。日本の企業の99%がこの制度を利用できないのが現状です。

大畑:なるほど。そこで、「ウィズダイバーシティプロジェクト」があるわけですね。

福寿:はい。「特例子会社制度」を利用することができない中小企業のために発足したプロジェクトです。「事業協同組合等算定特例」という制度を活用し、障がい者雇用を促進したい中小企業が集まって、複数の企業が共同で雇用をつくることができる仕組みを作りました。

複数の中小企業と一緒に組合を形成し、各企業が組合に仕事を優先的に発注し、組合はその発注によって新たな障がい者雇用を創出していきます。そこで生まれた障がい者雇用は、組合に参加する企業の雇用として算定することが可能となるものです。

中小企業からすると、直接雇用が難しくても、仕事を発注することで法定雇用率の達成を目指すことができるので、いつか自社雇用を実現するための一歩を踏み出す選択肢になっていければと思っています。

ローランズが取り組む障がい者雇用の現実

大畑:もう少し事業開発のリアルな実態についてお聞きをしていきたいです。ローランズのように、より社会課題に直結した部分で事業開発をしていく場合、通常より大変なこともあると思うのですが、これまでどんな課題やハードルがありましたか。

福寿:一番大変だったのは、起業3年目です。もともと花が好きで集まってきたスタッフが大半のなかで、障がい者雇用をする方針を打ち出すと、ほぼ全員が辞めてしまいました。世の中の”障がい”に対する偏見や思い込みが存在するのを目の当たりにした瞬間でもありました。

それまでの業務を動かしてきた人がいなくなってしまったので、会社は3年目でも実質ゼロスタート。人との別れと、もう一度イチから会社を構築していかなきゃいけないっていうのが重なって、その時期はけっこう辛かったです。

大畑:それは心理的にも経営的にもショックが大きいですね。その後の再構築は、どうやって進めていったんですか?

福寿:求人票に、「障がい者雇用を積極的に行なっている会社である」ということを書きました。すると、そこに共感する花職人の人たちが集まり、理念を共有することってとても大事だと実感しました。

でも、はじめは健常者と障がい者で仕事を分業していく難しさがありました。すでに花の職人として、花を愛し緻密な仕事をやってきているスタッフから見ると、障がい当事者の仕事のていねいさや、やる気が伝わりづらかったりして、最初は理解し合えない部分がありました。

障がい当事者に対しても、どこまでが「配慮」で、どこまでが「優遇」なのかの線引きがすごく難しくて。何でも手伝ってあげることがいいと思っていましたが、それは本人のやれることを奪っていたり、自分がやらなくてもいいという状態をつくってしまったり。

大畑:それって本当に現場のリアルですね。その状態をどうやって克服したんですか。健常者と障がい当事者のマネジメントにポイントがありそうですがどうでしょう。一般企業が障がい者雇用を進めるうえでのヒントになる気がします。

福寿:まず、障がい当事者のスタッフを特別扱いしていた点が問題でした。健常のスタッフも家に帰ると、介護があったり、子育てがあったり、働くうえでいろんな課題を抱えています。全員がいろんなことを抱えているから、「特別な配慮」が必要だったのは健常者、障がい当事者問わず、「全員」だったんです。

自分がどういう課題を持って働いているかとか、何と向き合いながら働いているかとか、障がいの有無関係なく従業員同士で話しました。すると、今まで誰かに助けてもらうことを待つ姿勢だった人が、自分からわからないことを聞きに行くようになったり、忙しい人のお手伝いをしにいくようになりました。

大畑:お互いが開示することで、溝が埋まっていったんですね。

福寿:私のすきな絵本の『ぼく モグラ キツネ 馬』(飛鳥新社)に、「いままでにあなたがいったなかで、いちばんゆうかんなことばは?」っていう問いに対して、その答えに「たすけて、という言葉だよ」という一節があるのですが、まさにそうだと思いました。

障がい者雇用の現場って、支援する側とされる側に別れてしまうことが多いのですが、支援する側は、強くいなくてならないと思って「助けて」とか「できない」って言いづらいと思います。でも、特別なのは一人ではなく、全員。お互いに弱みを伝えることができ、お互いが誰かのために行動していけるようにすることが大切だと思います。

大畑:福寿さんがマザー・テレサのように見えてきました。

企業を志す人が陥る「万年起業準備中」

大畑:ソーシャルビジネスに挑戦したいと思っていてもなかなか一歩を踏み出せない人たちのためのヒントやメッセージはありますか。彼らがもっと動き始めたら、社会ももっと良くなると思います。

福寿:「起業したい」「社会事業を作りたい」という方はけっこういっぱいいますが、本当に行動に移す人は一握りだと思います。「万年起業準備中」にならないように、と願っています。

本気なら、人生で自分が一番若いとき、つまり今、行動して立ち上げるのがいいと思います。家族ができたり、年を重ねると守らなくてはならないものが増えていくので、その前にやっちゃうことが大事。

すでに大事なものがあるのであれば、今の仕事をしながら、すきま時間を使ってでも叶えたいと思っているかどうか。私も事業をスタートしたときは働きながら空いた時間や週末に花の勉強をして、手元に貯金100万円と賃貸1Kの部屋の一角からの事業スタートでした。

すきま時間もつくれず時間がないということであれば、もっとほかに優先したいことがある状態だと思います。本気ならいい訳は作らない。できない理由より、できるための工夫を探して欲しいと思います。

大畑:なるほど。では、福寿さんを突き動かすものとして、社会正義以外の部分で、個人的な欲望みたいなものってあったりします?

世の中の起業家をみていると、「めっちゃ儲けたい」とか、「もっとモテたい」とか、そういう社会正義以外の個人的な欲望も本当はあったりして、それが意外と個人を強く突き動かしているように見えるケースもあるんですよね。福寿さんのなかにも、実は何かそういう欲みたいなものがあったりするのかなと。

福寿:劣等感っていうのはあるかも知れないです。私、実は劣等感を感じることがすごく多くて。SNSを見ていても、人の活躍を見ると世の中に置いていかれてるような感覚になったりします。その劣等感に打ち勝ちたい、という気持ちが、もっと頑張ろうという活力のひとつになっているように思います。

大畑:面白いですね。すごく共感します。僕も起業家や論客、芸人さんを見ていて、こういう挑戦やこういうコメントは僕にはできないなってジェラシーを感じることがあります。劣等感の解消って、結構いろんな人に当てはまる視点かも知れないですね。

福寿:あと欲ではないんですが、やっていく「意味」が見つけられていれば、事業を進めていく推進力になると思います。自分の価値観を無視して考えればめっちゃ儲かる、みたいな話ってあるんですけど、それをやると自分の信念を曲げることになるし、結局、続かなくなっちゃう。

大畑:「企業」って経営者の価値観がそのまま形になってしまったようなものなんですよね。事業内容とか、会社のルールとかだけじゃなくて、経営におけるすべての意思決定に経営者の価値観が反映されているから、会社を見れば、経営者がどんな人なのかわかってしまうくらい。

そういう意味では、価値観に迷いがなければ意思決定のブレもなくなるし、それが事業の推進力にもつながっていくってことはよく理解できます。

最後に、ソーシャルビジネスの面白さってどこにあると思いますか。

福寿:「本当に必要なもの」を「本当に必要な人に届ける」ことができることだと思います。

ボランティアだと優先度が下がって、「また今度」になってしまうのであんまり好きじゃないんです。でもビジネスであれば「最優先事項」として進められるし、そこに雇用が生まれずっと継続をしていく。

自分が離れても、自分が作った仕組みを誰かが回してくれていれば、必要なものが足りてない場所に必要なものがずっと届く状態を続けることができます。

大畑:まさに。ビジネスの社会実装は、SDGs実現のためのもっとも重要な部分なので、最後にその意義を改めてお聞きできてよかったです。

本日は貴重なお話を、どうもありがとうございました。

撮影:吉岡教雄

大畑慎治の「Beyond SDGs」POINT of VIEW

今回、福寿さんのお話から2つの大切なポイントを感じました。

1つは「目の前の1つの幸せに執着する」重要性。

ベンチャーや新規事業では、うまい仕組み、効率化、スケールのような部分に目が行きがちだけど、ソーシャルビジネスの本質はそこではない。深刻な社会課題ほどディープに向き合うことが重要で、まずはきっちりと目の前の幸せを形にしていくことにこだわるのが、本当のソーシャルアントレプレナーだなと。

もう1つは、「人生にはベクトルが大切」だということ。

福寿さんが起業3年目にゼロスタートの挑戦ができたのは、目の前の損得勘定よりも、より良い未来社会に向かいたかったから。「今のスカラーの量ではなく、未来に向かうベクトルの方向」を考えることは、アントレプレナーにとっても、個人の「ここちよい」人生にとっても大切なことなんだと改めて思いました。

福寿さん、どうもありがとうございました。

ローランズ┃LORANS
福寿満希┃Mizuki Fukujyu


1989年、石川県出身。23歳で「株式会社LORANS.」を設立しフラワービジネスを開始。「花や緑を通じて社会課題に貢献する」を企業理念に花やカフェサービスのほか、廃棄花を紙に変えるプロジェクトなどを実施。ダイバーシティ推進に取り組み、スタッフ65名のうち7割は障がいや難病と向き合うスタッフを雇用し、運営している。2019年から東京都と連携した国家戦略特区事業「ウィズダイバーシティプロジェクト」を開始。中小企業の障がい者雇用促進を目指し、障がい当事者の活躍の場を広げる。2022年春には、就労移行支援施設「フラワーアカデミー」開所予定。


企業名:株式会社LORANS.
所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷3丁目54-15 ベルズ原宿ビル1F


author

ソーシャルマエストロ
大畑慎治

ソーシャルグッドの社会実装プロデューサー。メーカーのイントレプレナー、ブランドコンサル、新規事業コンサル、ソーシャルクリエイティブグループで一貫して、新たな事業や市場を生み出す仕事に従事。2016年以降は、SDGs、サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、エシカルなどの領域の企業変革、事業開発、ブランド開発、プロジェクトプロデュースなどを手がける。現在、O ltd. CEO、Makaira Art&Design 代表、THE SOCIAL GOOD ACADEIA(ザ・ソーシャルグッドアカデミア) 代表、IDEAS FOR GOOD 外部顧問、感覚過敏研究所 外部顧問、おてつたび ゆる顧問、MAD SDGs プロデューサー、早稲田大学ビジネススクール(MBA)ソーシャルイノベーション講師、ここちくんプロデューサー などを兼務。
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