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Column

「志」を旗頭に、新たな価値を量産する

多様性とは、「総論賛成、各論自由」の世界観

author: 長島 聡date: 2021/07/06

現代社会は、まるで“多様な価値観の洪水”だ。個人がSNSで発信し、個人の価値観にも急激な変化が生まれている。一方で、漫画「鬼滅の刃」のように多様な世代から支持されるヒット作も生まれている。多様な価値観を持つ人々が、自由に発想しながらも、共通認識を生み出すことにより、未来を切り拓くことの重要性を説く。

「出すぎた杭は打たれない」の真意

空気を読む、同調する、忖度する。日本社会で、たびたび取り上げられてきた人々の行動を表す言葉だ。おそらくZ世代からすると、「何故そんなことするの?」と感じてしまう不思議な行動だろう。多様性と変化は積極的に受け入れればいいだけなのに···。

高度成長期だった昭和の時代には、組織がやると決めたことをやり遂げれば成功できるという感覚があった。個人の考えを強く表に出すことは敬遠されていた。「出る杭は打たれる」といった言葉すらあったのだ。リーダーの考えと違った行動をすると、組織の中で打たれてしまうという意味だ。もちろん、そんな時代にもこうした慣習をものともしない経営者もいた。松下幸之助さんは「出すぎた杭は打たれない」と言い、吉越浩一郎さんに至っては「出ない杭は土の中で腐る」とまで語っている。

当時は良いものを作れば売れる時代だった。自分が属している組織で、自分の役割に真剣に向き合っていけば、結果が自ずとついてきた。情報も限られている中で、単純で画一的な価値観が生まれていた。明らかに異なる価値観が交わるといったことは少なく、平穏に暮らすことに慣れていたのだ。でも、この十数年、スマホが普及するにつれて、SNSで個人の発信が増加するにつれて、急激な変化が降りかかってきた。多様な価値観の洪水だ。昭和の世代の多くの人の感覚はこんな感じだと思う。松下幸之助さんや吉越浩一郎さんはこうした変化を予感し、組織に警鐘を慣らしてきたのだと思う。

「多様だけれど、類似性がある」とは?

改めて、多様性という言葉の意味を調べてみた。Wikipediaでは、「幅広く性質の異なる群が存在すること。性質に類似性のある群が形成される点が特徴で、単純に「いろいろある」こととは異なる」とある。ここで、気になるのは「性質に類似性のある群」という言葉だ。多様性なのに「類似性」という単語が出てくるからだ。類似性があるなら一緒にいても何も不思議はないし、自然だ。であれば多様性は敢えて「受け入れる」ものではないはずだ。でも昨今、世の中では「多様性を受け入れよう。尊重しよう」となる。ルールまでできる。何かが変だ。

筆者が自らの手で建築中のタイニーハウス。

「多様だけれど、類似性がある」とは一体どんなものだろうか。どんな類似性が、「人が群をなして持続的に発展する社会」を生み出せるのだろうか。それぞれは尖っていてもいい、違うことをしてもいい。でも、それぞれがそれぞれの方法で向かっている「最終的に目指したいゴール」は同じである。こんな姿ではないだろうか。ふと直感した。ここで言う「目指したいゴール」はSDGsだ。地球規模で俯瞰して、人々の意思で作られた、誰もが思う本質的かつ実現可能なゴールだからだ。

この目指したいゴールはとても壮大で遠い。ならば、やるべきことは、一歩ずつでも前に進むことだ。これまで起きてきたことに悩むのではなく、ゴールに向かうために起こしたいことを考える。全員が何かを始めて、ひとつのやり方に固執せず、やり方の違う人同士でも手を組んで、より大きな一歩にしていくことだ。常に自分のしていることが、最終ゴールに近づくために少しでも役立っているかを自分に問いかけ、修正をかけていく。あとは日々の貢献を不断に積み重ねていけばいい。そうすればみるみるうちに社会はみんなの未来へと変わっていくと思う。

全体の姿を想定しながら、ノコギリと金づちを手に、ひとつ一つの部品を組み上げていく。

対話を通して、「総論」を形成する

世代を超えて共感を生んだことで、大ヒットとなった漫画「鬼滅の刃」。

話は変わるが、日本には漫画の文化がある。筆者ももちろんファンの一人だ。色々読んだが、ワンピースからは能力の異なる仲間の絆や能力の組み合わせが生み出す無限の可能性を、鬼滅の刃からは目的を共有して進む人の強さと諦めない心を、進撃の巨人からは視野を広げて物事を俯瞰することの大事さを学んだ。多くの人がこうした世界観に共感し、憧れすら抱いていると思う。共感した世代は、バブル世代、ゆとり世代、ミレニアム世代、Z世代などと幅広い。「多様だけれど、類似性がある」状態は必ず生み出せるはずだ。

「総論賛成、各論反対」。これもよく聞く言葉だ。人が嬉しいと感じる状況自体を嫌いという人はまずいない。単に人が嬉しいと感じる具体が人によって異なるから起きることだ。特に目先の利害や取り分を物差しにするとややこしくなる。これからの時代、ここを変えていきたい。「総論賛成、各論自由」。こんな感覚が必要だと思う。総論をしっかりと議論して、対話して、共通認識にまで高める。あとは個々人が自律的に、総論に役立つことを進めていく。総論に役立っていることであれば他の各論も尊重していく。共通の各論ならもちろんチームを組んで一緒に進めてもいい。世代を跨いだ対話で社会を、未来を切り開いていきたいと思う。 

建築中のタイニーハウスを眺める筆者。小さな空間の中に作り上げる世界観を思い描いて、自ら材木を切り、釘を打っていく。
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きづきアーキテクト代表
長島 聡

早稲田大学理工学部にて材料工学を専攻し、各務記念材料技術研究所(旧・材料技術研究所)にて助手として、研究に携わるとともに教鞭も執る。欧州最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーに参画し、東京オフィス代表、グローバル共同代表を務める。2020年には、きづきアーキテクトを設立。「志を旗頭に得意技を集め、新たな価値を量産する」をコンセプトに、共創を梃子にした事業創出の加速化を目指す。経済産業省、中小企業政策審議会専門委員など政府関係委員を歴任。スタートアップ企業、中小企業のアドバイザー、産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト WG3 産業構造転換分野 委員、Digital Architecture Design Center アドバイザリーボード、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授などを務める。
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