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楽しい夜も寂しい夜も、そのまなざしで

辻凪子が見つめる、夜と映画と東京の街

author: 久保泉date: 2025/10/10

毎日どんなことがあっても訪れる夜という時間。大勢で乾杯する夜も、一人でゆっくり過ごす夜も、全部忘れたくない。変わりゆく東京という街にも、変わらない夜が、今日もやってくる。

俳優・辻凪子さんが故郷の大阪を離れ、東京へやってきたのは6年前。「喜劇女優でありたい」と語るまっすぐなまなざし。映画のことにひとたび触れれば、止まらない会話。彼女と街を闊歩しながら、夜の在り方について考えてみた。

辻凪子

1995年生まれ、大阪府出身。幼い頃よりMR.ビーンに憧れコメディエンヌを目指し女優へ。 京都芸術大学映画学科卒業後も、年に1本はオリジナル映画を製作するなど映画監督としても活動中。 間寛平が座長を務める劇団間座にも所属し、舞台、映画、ドラマへの出演と幅広く活躍中。 ドラマ出演作にNHK連続テレビ小説「わろてんか」「ブギウギ」「おむすび」、テレビ東京「晩酌の流儀」、テレビ朝日「しあわせな結婚」など。

Instagram:@tsujinagiko
X: @0nn_nn0

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夜は、私にとって自由な自分だけの時間

朝ドラや映画、舞台で独特の空気を放ち、存在感のある辻凪子さん。夜は好きか嫌いか尋ねてみると、意外な反応が返ってきた。

「私、夜道を怯えながら歩くくらいビビリで……。危険意識を持ちながら歩きますが、夜そのものの楽しみ方は知っている人だと思います。私にとって、夜は自分だけの自由な時間ですから」

自由な夜の楽しみ方、一体どんなものを知っているのだろう。

「レンタルビデオ屋さんでしか借りられない映画を借りに行って、家で観ることです。最近は高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』を鑑賞しました。大人になって観ると、自分の青春時代が蘇ってきて、思わず重ねてしまいましたね。心に沁みる作品を、部屋を真っ暗にしてカフェラテを飲みながら、じっくり観る。配信では観られない作品をわざわざ借りに行くのがまた特別で。借りられているときがあるのも、待ち遠しくなって楽しみが増すんですよ」

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辻さんは、東京だからこそ感じられる、夜の楽しみも知っているという。

「日比谷野音(日比谷公園大音楽堂)でライブを聴いたり、神宮球場で野球を見たりするのは最高ですよ! 先日は大好きなハンバート ハンバートのライブに行きました。鈴虫のBGMが鳴りながら奏でられる音楽が心地良くて。野球観戦はビールを飲みながら楽しんでいます。東京は人が多くて、時間にも追われていて好きじゃなかったんですけど、日比谷野音とか神宮球場とか好きなスポットを見つけ始めたら、悪くないなと思えました」

少しずつ東京の街が好きになってきた辻さん。一人で過ごす夜に、かならずやっていることが2つあるそう。

「ストレッチとお風呂に浸かることですね。30歳になって腹筋を割りたくて筋トレを始めたのですが、筋トレだけだと身体が硬くなってしまうからストレッチも必要だと思って。ストレッチをやると気持ちいいんですよ~」

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「あとは“ツムラのくすり湯 バスハーブ”を湯船に入れて浸かるのも最高です。銭湯やサウナにもよく行きますね。行くのが面倒だなと思うことがあっても、銭湯に行って悪かったことってないじゃないですか。幸福度増し増しで帰ります。銭湯のスタンプラリーも30個埋めました! 風邪引いちゃったけど……」

苦しくても悲しくても、終われば次へと進む

苦しかった夜を聞いてみると「意外と楽しかった日より覚えているものですね」と微笑みながら話す。

「中学生のころ、彼氏に振られた夜のことを思い出しました。家族に言えないから、お風呂に入りながら泣いたんです。誰にも気づかれないように一人で悲しみに浸りましたね」

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「初主演映画の撮影現場のこともよく覚えています。深夜の山奥、極寒の中で、死体を埋めに行ったあとのシーンで寄りの表情を撮っていたのですが、初主演で緊張もあって、なかなかOKが出なくて……。感覚的には80回くらいテイクを重ねた気がします。撮影途中ですごく泣きましたね」

撮影現場や舞台挨拶、オーディションで失敗したり後悔したりすることも多々あるけれど、逃げ道を知っているという。

「終わったことだから次に行くしかない。現実逃避するのもひとつだと思っていて、そんなときは映画館に駆け込みます。映画館にいる時間は、暗闇の中で、物語に入るしかない。強制的に全部忘れられると思うんです」

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「最新の映画もチェックしますが古い作品にインスピレーションをもらえますね。逆に新しいというか。CGなんてない時代の映画は、人間の創作をより感じられて好きです。人が何時間もかけてつくったものはいいですよね」

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夜に似合う映画3選

夜を連想する映画を尋ねてみたら、3つの作品を挙げてくれた。

「大林宣彦監督の『HOUSE ハウス』。夏休みに女の子たちがおばちゃまの屋敷に行くというお話なのですが、夜にさまざまな怪奇現象が起きるんです。スイカが女の子の顔になったり、ピアノや布団に食べられたり……。独創的で面白いですよ」

「高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』で、たぬきが妖怪たちになって百鬼夜行するシーン。それは漫画家の水木しげるが監修しているそうで、大好きなんです」

「私も出演している『夜のまにまに』。付き合っていない男女が朝まで散歩をする物語で、夜が似合ういい映画です」

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映画の魅力は、お芝居を始めてより一層感じられるようになったそう。

「どんなに辛いことがあっても、映画が、ファンタジーが、違う場所に連れて行ってくれると思うんです。例えば伊丹十三監督は、現実を面白く描く映画、大林宣彦監督はファンタジーを描く映画が多いです。大林監督は“嘘を真にする”とおっしゃっていて、その言葉を私は信じています。物語をつくるなら、娯楽にしたい。辛い物語ではなく、楽しませて届けられたら」

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30歳、初めての一人芝居に挑戦

2026年1月に、新宿・プーク人形劇場で一人芝居を上演する。辻さんが作演出を直談判したのは、映画監督の長久允さんだった。

「30歳という節目の作品です。一人芝居は初めてだし、最後かもしれない。人生の挑戦だと思っています。舞台は年に1本、渾身の作品に出ると決めているのですが、29歳のときに来年は一人芝居にしようと決意しました」

「一番好きな作家さんに作演出をお願いしようと思ったとき、長久允さんだと思ったんです。長久さんの映画を今まで観てきて、自分の好きと最も合っていて。現実社会を描きつつもファンタジーでアート。ワンカットずつ丁寧で、奥深くて。企画書に想いを書いて、直接お会いしてお願いしたら引き受けていただけました」

一人芝居の舞台を控える今、お芝居に対してどのように向き合っているのだろう。

「仕事として責任は持ちつつも、仕事だと割り切らないようにしています。ものづくりを楽しむこと。見返りを求めずに、挑んでいる気がしますね。一作品ずつ、違う自分でいたいです」

どんな自分になってみたいか尋ねると笑顔で「おばあちゃんになってみたい」と返ってきた。

「樹木希林さんがテレビドラマで20代のときにおばあちゃん役を演じたんです。それが本当におばあちゃんにしか見えないほどお上手で。私も演技でおばあちゃんになってみたい」

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「それにコントをやってみたいですね。普段は恥ずかしいけれど、役に入ってしまえば全然恥ずかしくない。お芝居って、何にでもなれるから面白いですね」

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演じる上で、意識して持っているものがあるそう。

「頑張って持ち続けようと思っているものがあって、自信と勇気と好奇心です。自分を信じないと、何もできないじゃないですか。ダメだ~って思うこともあるけれど、信じないと何も前に進まないので、自分を騙しながらやるしかない。一人芝居も、まだ稽古が始まっていないので、稽古を通して自信をつけたいです」

「自分が演じる上で楽しむことも心がけています。子どものころの気持ちを忘れないようにしていて。30歳になったけれど、大人になりたくない!」

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最後に、夜にやってみたいことを聞いてみたら、楽しい答えが返ってきた。

「叶うなら、月に行きたいです! 生きているうちに。月に行って、寝転がって、起きて一周歩いたりして。あとは『この夏の星を見る』という映画を観てから星を見たくって。本物の星でも、プラネタリウムでもいいなと思っています。いつも映画からもらっていることばかりです」

【一人芝居情報】

2025年1月15日(木)から1月18日(日)計7公演を予定
場所:プーク人形劇場
作演:長久允
出演:辻凪子

Text & Edit:久保泉
Photo:番正しおり

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文筆家・編集者
久保泉

詩を書き、物語をつくる編集者。1994年生まれ、長崎の海が見える街で育つ。ブックレーベル「bundle」編集、演劇プロジェクト「aizu」主宰。好きなものは、光と花束とスパゲッティ。
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