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成長するのは子どもだけじゃない!?

減りつつある“親の負担”はどこまで必要なのか?

author: 村瀬秀信date: 2023/01/23

プロスポーツ界の最前線で戦うスポーツジムが作った中学野球チームは、はたして令和の“がんばれベアーズ”のような、ドラマティックな結末を迎えることはできるのだろうか? この物語はこれからどちらに転ぶともわからない、現在進行形で進んでいる完全ドキュメントな“野球の未来”にかかわるお話である。野球作家としてお馴染みの村瀬秀信氏が、表に見えるこどもたちのストーリーと、それを裏で支える大人たちの動きや考えを、それぞれ野球の表裏の攻撃守備ように交互に綴っていく。

〜 五回の裏 大人たちの物語 〜

少し前までの野球界の話。クラブチームの野球は、親のバックアップがなければ運営していくことは容易ではないと考えられていた。チームの活動を支えるため、監督コーチが指導に集中できるように、保護者はお茶出しや車出し、審判をやったり、弁当を作ったり、その他あらゆる雑用のため当番として練習に出ることが当然の義務としているチームが多く、掛る費用にしても月謝以外に道具代や遠征費など、とにかく野球というスポーツは親の負担が大きいといわれてきた。

昔と違って共働きが増え、経済状況も落ち込んでいる現在の日本の家庭環境では、親の負担はなかなかに侮り難い。これを野球人口が減少する一因として問題視する向きもあり、近年では筒香嘉智選手など、第一線で活躍するプロ野球選手が声を上げ、ここを見直す動きが活発化している。

しかし実際、どこのクラブチームも、現実的には旧態然りとした慣習からなかなか抜けだせないようである。特に古くからやってきたチームほど体制が受け継がれ、染みついた慣習を改めることも容易ではない。

茅ヶ崎ブラックキャップスのキャプテンであるキズナの母、西村里美さんは言う。

「小学生の時に所属していたチームは伝統があって、保護者の当番もカッチリあるチームでした。まぁ、これもやれば面白いんですけど、やっぱり大変といえば大変で特にキャプテンの母は“キャプ母”といって、保護者をまとめなければいけない立場だったので、それなりに忙しかったんですね。中学になれば硬式野球のクラブチームは保護者の負担がもっと大変になるという話を聞いていたので、パパとも話して『それなら部活でいいよね』って感じだったんです。ところが竹下さんがまったく新しい中学生のチームを作るというので……ホラ、あの人面白いことやるじゃないですか。それで乗ってみようとなったんです。実際に雑用なんかはクラブが全部やってくださって保護者はやることがほとんどなくなって、ちょっとびっくりしていますね」

ブラックキャップスの方針はできるだけ保護者に負担を掛けない、ということではじまっている。そのためお茶当番や車出しなど保護者に頼ることはなく、遠征や合宿も基本的に竹下代表、阪口監督、渡辺ヘッドコーチ、岸コーチの4名が選手を車に乗せて移動しているという。

さらに月謝もトレーニングジムやグラウンドの確保、専門分野のプロフェッショナルなコーチを揃えながら、一般的なクラブチームの平均である1万円と値段設定も破格だ。これが実現できていることは、そもそもの方針として、チーム起ち上げ時に、経済産業省による学校の部活動に代わる地域クラブの実証事業として“茅ヶ崎ブラックキャップス”の運営方針がテストケースに採択されたことが大きい。代表の竹下はいう。

「部活動を学校から地域主導に移す上で課題となるのが“指導者の質”と“財源”の確保。これを実現させないと、クラブチームの運営は難しいでしょう。ブラックキャップスの場合は、監督の阪口やヘッドコーチの渡辺、スプリントコーチのマロンなどが、トレーニングのプロフェッショナルであるデポルターレクラブの社員であるということ。そして、財源としてスポンサー企業からのサポートに加え、チームのグッズを開発、販売して、売上の一部をチームの運営費に回すような仕組みを作っています。それ以外の、野球界に昔からあるようなお茶出しや雑用なんて、監督コーチがそれぞれやればいいこと。ふんぞり返って威張っている大人の意識こそ一番いらないもの。そういうところから変えていかないと」

2020年12月。茅ヶ崎ブラックキャップス創立時の父兄への説明会で、竹下代表は以下のような話を保護者全員にしている。

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「ブラックキャップスは基本的に強制することは何もありません。お茶当番もありません。試合の時は他のチームのように父兄全員で朝集合してみんなで一緒に行くようなこともしません。練習も試合も見学は自由です。なので、チームのことは我々プロに任せてください」

雑用はすべてチームが請け負う。見学もチームへの参加も何もしないも自由。しかし“自由”というほど難しいものはない。保護者に求められることはあった。

親たちの見たブラックキャップス

6月に茅ヶ崎市内のクラブチームから移籍してきたワッチョの父はブラックキャップスに入部しての感想を、“限られた中でやれることをやっているチーム”だと評してる。

「親なんてものは子どものためになるとね、照明付きの専用グラウンドが欲しい、マシンやマイクロバスを購入したり、先輩もいればそりゃいいだろうし、贅沢をいえばキリがないんですよ。でもこのチームが素晴らしいのは、決して突出して恵まれた環境ではないなかでも、工夫してできることの中で勝負していること。たとえば平日にはオンラインで身体の動かし方を指導したり、雨の日は亀山さんの会社の倉庫を改造した練習場で練習させてもらったりね。金をかけて環境を用意してというやり方だって竹下さんならできるんだろうけど、今はそれはやらない。保護者には負担を掛けない。だけど過保護すぎないように、自分たちのことは自分でやって強くなろうとしている。何よりチームが明るいのがいいですね。息子も同じ中学で仲のいいメンバーがブラックキャップスにいて、自分らしさを全面に出して生き生きしているというか、明るく野球をやれているように感じますね」

ブラックキャップスのメンバーは、茅ヶ崎の浜須賀地区。少年野球の三ヶ丘から11名、隣の平和からタカシとガクとキシリクトの3人が来ていた。中学はキズナとタカシ以外は全員浜須賀中学である。故に保護者同士の関係性も非常にいいとキズナの母は言う。

「キズナは三ヶ丘で1人だけ中学が違ったんですよ。だからブラックキャップスができて一緒のチームで野球ができるって大喜びだったんです。それに保護者さん同士も小学生時代から知っていて仲もいいですし、コロナ禍になってなくなっちゃいましたけど、以前は保護者同士で集まりなんかもありましたしね。いい雰囲気だと思っていますよ」

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しかし、一方で自由が故に難しい一面もあるという。チームの手伝いをしているうちに、コーチとしてチームに帯同するようになったキシリクトの父は言う。

「ブラックキャップスは親の負担がないチームです。それはすごいことなんだけど、一方で保護者の関係はよそのチームに比べたら薄いんじゃないかなとは思います。たしかに、コロナで顔を合わす機会が少ないこともありますが、説明会で竹下さんからチーム方針の話があったように、あんまり親がチームに関わることはしないほうがいいって遠慮している節があるのだと思います。練習を見に来る人は見に来るけど、参加しない人は本当に顔もわからない。もしかしたら『今週は○○さんがお茶当番』とかルールがあった方が、もうちょい親同士の交流も生まれるのかもしれませんよね。

“親の負担がない”とはいっても、それは親が何もしなくていいというわけではない。いくらいい環境があって、良い指導者がいて、密度の濃い練習をできていたとしても、まずは本人がどれだけ野球に本気になれるのか。そしてそのためにはやっぱりグラウンド以外のところで、親がどれだけ子どもの練習をサポートできるかで違ってくるんじゃないかと思うんです」

チームが見られる技術練習は土日と木曜日の週3日。差がつくとすれば、子どもたちがそれ以外の日をどう過ごすかである。この時間をどれだけ自分で考えて練習できるかで、個人の成長度は大きく変わる。

とはいえやることいっぱい中学生、進学のために塾に行く子もいるし、世界と共に興味も広がり、やりたいことだってたくさんある反面、集中力もまだそこまで発達してはいない。そんななかで、野球にどこまで真剣に取り組めるのか。

前回も書いたように習慣化させるには66日間やり続けることが必要だという。最初はチームの決まり事として、毎日100回のスイングを66日間続けることを義務にして、保護者の人に見届けてもらうこともやった。しかし、その後、義務化をやめて自主練習を個人の裁量に任せると、やはりやる子どもとやらない子どもに分かれてしまったという。

この1年間で特に成長が著しい選手はやはり、この個別の時間をしっかりやってきた子どもたちである。キシリクトの父はいう。

「本当の理想のチームって、選手とスタッフと保護者。この三つの車輪がそれぞれ協力して噛み合ってこそうまく回っていくのだと思うんです。子どもたちがやる気になってきた。ならば親同士もね、もっとコミュニケーションを取って、『うちの子はこういうものを毎日食べているよ』『こんな自主練をしている』とか良い情報を共有し合ったり、『なかなか朝起きられない』『やる気のない時はこうやって声を掛けている』とか、悩みを話せたりすればね。もっとチーム全体で活気づいてくるんじゃないかな」

これは高校野球の指導者から聞いた話であるが、強豪チームに入りたいと希望する選手は、本人であり、そしてそれを見守る親も、「上手くなる」「日本一になる」「プロになる」など目標が明確にあり、そのための“やりぬく覚悟”もできているという。

一方でまだ目標への努力の域が“自走する”までに至っていない子どもに対しては、親はどこまで言えばいいのか、悩んでいる人も多い。ワッチョの父もそのうちの一人だ。

「毎日家で口うるさく練習しろと言うんですけど、これがなかなか難しい。いろんな人に相談しているんですが『うるさく言ったら逆効果だ』と諭されるのであまり言わないように心掛けてはいるんですけどね。そうすると子どもはやらないでしょう。『プロ野球選手になりたい夢があるなら、毎日やらなきゃなれるわけないよ』とイライラしちゃって、思わず口うるさく言ってしまう。ケンカになって、もう最近では『プロ野球選手になりたい』という夢も僕にいわなくなってしまった。やる気を引き出すため、子どもにどこまで言えばいいのか、すごく難しいですね」

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これは多くの野球少年の親が直面している問題であろう。かく言う筆者も小学三年生の息子と毎日「自主練をやれ」「やりたくない」の押し問答でケンカが絶えず、些かノイローゼ気味である。口を出すなと言われても、言わなきゃ何もやらない。時期が来れば勝手にやる気を出して、自走しだすとはいっても、一体どうすればいいんでしょうね。

そんな話をガクの母である芦澤幸恵さんにすると、「やっぱり家では口うるさくいわないほうがいい」と教えてくれた。芦澤さん自身、学生時代に強豪校でソフトボールに本気で打ち込んできた経験から「やる気になったら黙っててもやる」ということを身をもって知っていること。そして、ガクの場合は小学生の時にこんなことがあったのだとか。

「ガクは昔から家の中が大好きで、お兄ちゃんについていく感じで野球をはじめてもずっと砂をいじっていたり、NiziUを踊ってみたり、隙あらばサボるような超ぐうたらな子どもだったんです。元々グレーゾーンにいるような特性のある子なので、小学校で野球は終わりだなと思っていたんです。2年前6年生の時の緊急事態宣言で学校がない時も、ずっとソファーに転がって動画を見ているようなね、そんな超だらけた子だったんです。それが……ですよ。緊急事態宣言が明けた時、立ち上がったと思ったら『えっ!そんなに大きくなったの!?』ってこっちが戸惑うぐらい、急激に背が伸びて、足まで速くなって、久しぶりにしゃべったと思ったら、声変わりまでしていた。それから一気に野球に対しての意識も高くなって、レギュラーを獲ったと思ったらどんどんやる気をだして。ブラックキャップスも『絶対にやりたい』って言いだしたんです。いままで注目されたこともなくて、掛けられる言葉も『ちゃんとやれよ』ぐらいしか言われなかったのが、試合で結果を出せるようになった、いいプレーをしたことでみんなが褒めてくれる。それがやりがいになって、本人もモチベーションになっているのでしょうね。あとは、チームメイトがガクの特性を理解して、サポートしてくれていることも大きいと思います。子どもの成長のきっかけは、いつ、どこに、そのスイッチがあるかわからないですが、必ずそういう時は誰にでも来るんじゃないですかね。ガクはその時にチームメイトや周りの人たちに上手く乗せてもらえたんじゃないでしょうかね」

子どもは勝手に成長していくもの。自然にやりがいを見つけ、自然に強くなろうとする。ただ、そんな子どもの急激な成長に驚かされたガクの母でさえも、レベルが上がってくるとそれはそれでまだ物足りなさが出てくるようだ。

特に現在は昔取った杵柄でブラックキャップスのスコアをつけるなど身近な場所でチームを見ているからか、このチーム全体を見渡した時、まだまだ足りないと感じている。

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「子どもたちはこの1年で本当に成長したことは間違いないです。監督やコーチに指示されたことはできるようになってきています。でもこれが、本当に日本一を目指すというのであれば、試合に勝ってうれしい、負けて悔しいだけじゃなくて、もうひとつ上までいってほしいんです。今日の試合でどこが足りなかった。あのピッチャーを打てなかったら、自分で『残って打ち込みをやりたい』って言ったっていいし、守備の連係ができなかったから『ノックしてください』とか、『家ではこれぐらいやってこよう』とか、みんなから話が出るような、そのあたりまで行ってほしいんですよ。あとは、誰かが自発的にそういうことを言い出せるようになってくれたら……とは思うんですけどね」

ブラックキャップスは野球エリートではない集まりからはじまった。それは選手だけではなく、各家庭においても、星一徹のような“何が何でもプロ野球選手に仕立て上げる”と野球を叩きこむような親なんていない。どこにでもある子どもにフツーの幸せを願う親が、成長していく子どもに何をすればいいのか、迷いながら見つけていく学びと成長の実験場でもある。

強いチームと言うのは、親たちがお茶出しや送迎で首脳陣をサポートするのとはまた違う、子どもの意識と共に、親自身が子どもにどう声を掛け、サポートしていくのか。共に成長していかなければならない大切な部分なのかもしれない。

【六回へつづく】

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作家・ライター
村瀬秀信

1975年神奈川県茅ケ崎市出身、旅と野球と飲食のライター。著書に「止めたバットでツーベース 村瀬秀信野球短編集」(双葉社)「4522敗の記憶~ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」(双葉社)「気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」シリーズ(講談社)など。文春野球の初代コミッショナーであり株式会社OfficeTi+の代表。
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