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ベイスターズカップ予選突破が目標も

ブラックキャップスの全国大会出場へは道険し

author: 村瀬秀信date: 2023/01/23

プロスポーツ界の最前線で戦うスポーツジムが作った中学野球チームは、はたして令和の“がんばれベアーズ”のような、ドラマティックな結末を迎えることはできるのだろうか? この物語はこれからどちらに転ぶともわからない、現在進行形で進んでいる完全ドキュメントな“野球の未来”にかかわるお話である。野球作家としてお馴染みの村瀬秀信氏が、表に見えるこどもたちのストーリーと、それを裏で支える大人たちの動きや考えを、それぞれ野球の表裏の攻撃守備ように交互に綴っていく。

〜 五回の表 こどもたちの物語 〜


心と身体が成長した
ブラックキャップスだが…

時間は突然1年ほど進んだ今月のこと。

2022年12月4日。
茅ヶ崎ブラックキャップスは今年の目標に届くまで、あと1イニングと迫っていた。神奈川県の中学硬式野球4リーグの垣根を超えてナンバーワンを決める「ベイスターズカップ」。そのポニーリーグ代表決定戦。茅ヶ崎ブラックキャップスは、2013年のベイスターズカップ創設以来、10年連続で代表を勝ち取っていた横浜旭峰ポニーを相手に、4-2とリードしたまま最終回を迎えていた。

ブラックキャップスは先発したユウギが立ち上がりに2点を失うも、2回にタカシ、岸リクトの長打にオノマ、ガクの足を絡めた攻撃で、4点を取って逆転。その後、立ち直ったユウギが5回までを零封。ハジメを挟んで最終回のマウンドはガクに任された。

経験したことのない緊張感とうれしさに、キャッチャーのオノマは震えで手元がおぼつかなかったという。センターに入ったハジメは「ボールが飛んでくるな」と弱気になりかけていたし、途中交代でセカンドに入った深井リクトも「自分がエラーして負けたらどうしよう」という考えが頭を過ったという。最も緊張したのは最終回のマウンドを任せられたガクであろう。

あるいは1年前であれば、緊張感とネガティブ思考に支配され逆転負けを喫していたかもしれない。だが、この最終回を含め多くの子どもたちが「旭峰を倒して絶対にベイスターズカップに出場する」と強い気持ちを持ち続け、高揚するメンタルをコントロールしながらラストイニングに臨んでいた。

最後のバッターが空振り三振に倒れた瞬間、僕たちは目標という壁をはじめて乗り越えた。そして、やってきたことは間違いじゃないーーそう、確信することができた。

しかし、先出しの物語はここまで。本編はそれよりも1年前の、まだまだ未熟でネガティブ思考にやり込められて、自主練もやったりやらなかったりの、中学1年生の冬に戻るのです。

2021年のドリームゲーム

2021年12月12日。
この日、夢の試合が組まれた。茅ヶ崎ブラックキャップスvsDEPORTAREアスリート。ユウギのオヤジが代表を務める東京のDEPORTARE CLUBというパーソナルトレーニングジムに所属している本物のプロ野球選手たちが僕たちと試合をしてくれるというのだ。

横浜のグラウンドにいくと、本物のプロ野球選手がそこにはいた。北海道日本ハムファイターズの清宮幸太郎選手、千葉ロッテマリーンズの石川歩投手、唐川侑己投手、茶谷健太選手、埼玉西武ライオンズの十亀剣投手、東北楽天ゴールデンイーグルスの横尾俊建選手など、ユニフォームこそ着ていなかったけど、本物のプロ野球選手たちがいて、こちらを見ている。いや、それどころか、この人たちがこれから僕たちと試合をやってくれるというのだ。

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試合は、とにかくすごかった。いや、試合結果なんてどうだったか覚えていない。ただ、“プロ野球選手、すげえ”ということに打ちのめされた。ぜったいに手加減してくれているとはいえ、プロの選手が投げるボールの回転、バットを軽く振っても聞こえてくる音。捕球する姿に、身のこなしなどなど、やることなすことすべてがカッコよくて、超人的で、あまりにも遠い人たちのように思えた。

試合後には、ピッチャーと野手に分かれて野球教室までやってくれて、身体の使い方から、ケアの仕方、投球フォームに、スイングのチェックまで一緒になってやってくれた。

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最後に清宮幸太郎選手が僕たちにこんな言葉を贈ってくれた。「中学生の冬は成長できる時期だと思うので、みんなこれからたくさん練習がんばってください。僕たちはいつも応援しているので一緒にがんばりましょう!」

とんでもないクリスマスプレゼントをもらった僕たちは、これでモチベーションが上がらないはずがない。家に帰って教わったことをノートに書いてから、バットを振って寝た。

あの選手たちみたいに、毎日毎日努力を続けていければ絶対にプロ野球選手になれるーー。

だけど、“継続は力なり”とはよく言ったもので。年末年始はクリスマスにお正月でたのしいことばかり。
外は寒い。バットを振るのはめんどくさい。勉強……といいつつゲームもやりたいし。
年が明け、2月になり、3月になり。気がつけばもうすぐ春だった。

14戦4勝10敗。茅ヶ崎ブラックキャップスの初年度。僕らの中学1年生の公式戦の結果は目に見える数字だけなら惨敗に終わった、のだろう。

だけど、成長しているという実感は誰もが少なからず持っていたと思う。

ベイスターズカップ予選、全敗

4月。僕たちは中学2年生になった。
本当なら新入生が入って来て僕たちは先輩になるはずなのだが、正直、今いるメンバーの強化だけで手いっぱいなので、新1年生の部員は取らずに今季も僕ら14名だけで活動することとなった。おそらく、僕らが思ったような成長を示すことができていないから新入部員を取る余裕がないんじゃないだろうか。

4月9日。2022年度のベイスターズカップ予選が行われた。神奈川県にあるボーイズ、シニア、ヤング、ポニー各リーグが垣根を越えて戦う大きなカップ戦。

ポニーの予選は4チームのトーナメント戦なのだが、 茅ヶ崎ブラックキャップスは、初戦から9年連続本大会出場を 決めている強豪・旭峰ポニーとの対戦だった。(※本来は総当たり戦なのですが、グラウンド確保状況が1日しかなかったため、この時はトーナメント方式でした)

試合は3回まで2対1とリードも先発したガクが4回に2本の長打と3連打の猛攻に合い5失点。あとを受けたユウギも打たれ、反撃も及ばず5-9で力の差を見せつけられてしまった。

敗戦のあと、竹下代表が円陣で僕たちに言った。「最初の目標として、まずは旭峰ポニーを倒して、来年のベイスターズカップに出場するぞ」

ベイスターズカップは、神奈川の中学硬式野球の強豪チームが出場する貴重な大会だ。僕らの世代の野球エリートがわんさか出場するのだから、ここに出場しなければ、そもそもジャイアントキリングを起こす舞台にも上がれないということだ。僕らにとって最初の一歩目となる目標が定まった。

5月15日。ポニーリーグの関東連盟長杯大会。ここで3月の練習試合で(メンバーを落とした第二試合とはいえ)はじめて勝つことができた、強豪SKポニーと公式戦での初対戦となった。フルメンバーのSKとのガチンコ勝負は、僕たち茅ヶ崎ブラックキャップスの力が今、どれぐらいのものなのか確認する意味でも絶好の機会だった。

試合は一方的な展開で、あっという間に終わった。
26対0。
ボロボロのボロ負けだった。フォアボールにエラーでランナーをためて、痛打を浴びる。相手のバッターは気持ちよくバッティングを楽しむように打ちまくって、点数がどんどん入っていく。僕らは為す術もなく、ただ翻弄されていた。そんな中にあっても、4番のケンタロウだけがひとり気を吐いていたのが、すげえなと思ったけど、正直、ほかの選手は気持ちが折れてしまっていたと思う。

目標の一歩目で僕たちは大きくつまずいた。悔しいけど、まだまだSKみたいな強豪と戦うには全然力が足りていなかった。悔しいけれど。

6月、再出発だ。チームに頼もしい仲間が加わった。茅ヶ崎市内にある硬式野球チームからワッチョが加入したのだ。ワッチョは左投げ左打ち。前のチームではキャプテンを務めていたほどの実力者で、中学は僕らと同じ浜須賀中。昔から顔見知りで仲もよく、バッティングをすれば、挨拶代わりにライトの高いネットをいきなり超えていく当たりを連発し、守備だって内外野ともに安定している。

実力は折り紙付き。明るいキャラクターでもあるワッチョが、いきなりレギュラーに食い込んできたことでチームの競争意識も刺激され、なんだかいい感じの雰囲気になってきたように思う。

そして、この頃からユウギのボールに変化が見られた。1年前は100キロぐらいしか出なかった球速が、120キロを超えるまでになってきたのだ。制球力はまだまだだけど、ユウギも佐藤コーチの指導の下、いよいよピッチャーらしくなってきた。

何より、この1年間、チームで一番練習してきたのがユウギであることは誰もが知っている。

自分のお父さんが代表をやっているこのチームでは、怒られ役になるのはユウギだ。チームに結果が出なければ皆の前でユウギが怒られ、厳しい言葉に晒される。しかもユウギの場合は、グラウンドにいる時だけでなく、家に帰ってからも走り込みにシャドーピッチングに筋トレにと、毎日かなりの自主練をしている。そんなユウギにやっと結果がついてきたことは、チームにとっても明るい材料だった。

その一方で、なかなか決まらないのがキャッチャーだった。チーム発足以来、キャプテンのキズナがずっと守ってきたが、身体の成長期が遅いせいか、まだ肩が十分にできあがっておらず、相手の仕掛けてくる盗塁をことごとく成功させてしまっていた。

そのため、代わりに身体が大きく肩の強いキシリクトがキャッチャーを試してみることになった。

ブロッキングやキャッチング、リードであり、何よりチームを引っ張っていくキャプテンシーはキズナが一番なだけに、本人も悔しい思いをしているのは手に取るように分かった。

打撃陣の方ではタカシが柵越えのホームランを打って眠れる大砲が覚醒したかと思いきや、それ以降大振りが目立つようになって打撃不調に陥ってしまった。

一方でキシリクトは力がついてきたようで、この頃からホームランを連発するようになって、バッターとしては頭一つ抜けているケンタロウと4番を争うところまできたようだ。1番ワッチョに2番ガクと俊足巧打の二人が塁に出てクリーンナップで返す、チームの形みたいなものがいよいよできあがってきた。

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そんな矢先に僕らは“全国レベル”という本当の目標“日本一”に至るために倒さねばならないチームであり個人の力を思い知ることになるのである。

【つづく】

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作家・ライター
村瀬秀信

1975年神奈川県茅ケ崎市出身、旅と野球と飲食のライター。著書に「止めたバットでツーベース 村瀬秀信野球短編集」(双葉社)「4522敗の記憶~ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」(双葉社)「気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」シリーズ(講談社)など。文春野球の初代コミッショナーであり株式会社OfficeTi+の代表。
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