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第一印象はダラダラで最悪だった

茅ヶ崎ブラックキャップスは半年間でいったいなにが変わったのか?

author: 村瀬秀信date: 2022/01/27

―2回の裏ー 
おとなたちの物語 「ポニーリーグ」
「ブラックキャップスの子どもたちを最初に見たのは5月だったかな。彼らがポニーリーグに参入したばかりで、試合の進め方もわからないだろうと思ったので、私のチームと練習試合を組んだんです。その時の印象は……うん。悪いですね。選手は挨拶もできない。グラウンドに入ってもダラダラダラダラしてね。指導者も含めて一体、何時間掛けて野球をやるつもりなんだろう……って思っていましたよ。これは大変だろうな、ともね」

二回表のこどもたちの物語はこちら

市原ポニーのオーナー那須勇元氏は、呆れたようにあの「23-0」の試合を思い出していた。両チームには野球での点差や実力差以上に、圧倒的な差があるのは誰の目にも明らかだった。何が決定的な差なのか。せっかくチームを作ったのであれば、そのことに早く気がついてほしい。だが、重要なことは自分たちで気がつかない限り、いくら口で言っても理解できないということを、那須は経験上よく知っていた。

「だから、せめてヒントを掴んでほしいと思って、試合中わざと印象に残るようにうちの選手に対して『3つの約束あったよね』としつこく言い続けたんです。うちは試合ごとに守るべき3つの課題を設定していて、この日は ①「攻守交替は全力疾走」 ②「決断力を持って思い切りよく」 ③「積極的なミスをしろ」だったかな。それ以外のことができなくても絶対に怒らない。試合の中で選手が意識してやろうなんて思えることは少ないです。最低限のテーマだけ与えてそれだけをできるようにするぐらいでいい。そういうことに気がついてくれるかなと思って」

試合後、那須は百の言いたい言葉を吞み込んで「まだまだ身体が細いですね」という言葉だけを伝えると、代表の竹下はすぐに「試合中にずっと選手たちに確認していた『3つの約束』って何なのですか?」と喰らいついてきた。

「もしかしたら、早いうちにいいチームになれるかも」

最悪な第一印象ではあったが、そんな感想を最後に得たことを那須はなんとなく覚えている。

勝ち負け以上に野球の楽しさが大事
アメリカ生まれのリーグならではの特徴

この市原ポニーのオーナー那須勇元氏は、リーグの大本である「日本ポニーベースボール協会」の事務総長も務めている。2019年の12月に「SUPER PONY ACTION パート1」なる改革案を発表して以来、少年・中学野球の旧態依然とした常識を次々と覆しながら、独自の進化を続ける“ポニーリーグ”の実質的な舵取りを行ってきた人物だ。

市原ポニーのオーナーで「日本ポニーベースボール協会」の事務総長・那須勇元氏

日本の中学硬式クラブチームには最大手の「シニア」「ボーイズ」を含む、4大とも5大とも言われる有名リーグがあるが、ブラックキャップスが加盟した「ポニー」リーグはチーム数でいえば4番目と規模は小さい。それでもアメリカ生まれのリーグらしく、日本独自の進化を遂げてきた他リーグとは一線を画した独自の自由な価値観の下で育まれてきた。

茅ヶ崎BC代表の竹下は野球界の古いしきたりに縛られない柔軟な考え方と、中学硬式野球界に新しい風を吹かせようとしている姿勢に賛同してポニーリーグへの参入を決めている。

「アメリカで生まれたということもあるんでしょうね。茅ヶ崎ブラックキャップスが【地域名+リーグ名】の通り一辺倒なチーム名でなく愛称をつけられたことも、ズボンにロングパンツを採用できたことも、ユニフォームにスポンサーのロゴを入れられたことだって、柔軟性のあるポニーリーグだから実現できたこと。あとは野球に対する理念にも賛同できるし、面白い試みもどんどんはじめているので、共に新たな価値観を生み出せるのではないかと考えています」

“PONY”とは“Protect Our Nation's Youth”の頭文字。『我々の国の宝である青少年の成長を守る』という理念を名前に冠したリーグである。その育成方法は「指導理念10か条」など独自の考え方があるのだが、なかでもリーグを象徴する特徴的な制度として、一度ベンチに退いたスタメンの選手でも再び出場できる「リエントリー制度」がある。“野球は試合に出て覚える”もの。試合に出てしか得られない経験や歓びから成長するという考えのもとに、子どもたちにより多くの出場機会を与える独自のルールである。さらには大会もリーグ戦が中心のため試合数が驚くほど多いのも特徴だ。

そんなリーグが、近年の少子化・野球離れ、若年層での故障や燃え尽き症候群など、数多の問題を踏まえた上で現代の野球事情に合わせたリーグに生まれ変わるべく高らかに改革を宣言したのが2019年の「SUPER PONY ACTION」。サブタイトルは~障害予防と無限の可能性の探求と育成~だ。そこに取り上げられた、大きく分けて4つの取り組みが非常に面白い。

①「学年別投球数制限の導入」

最も大きなトピック。肩ひじの故障問題から長年議論がされてきた若年層の球数制限をリーグとしていち早く取り入れる形となった。試合での球数だけでなく、投球=8割強度という定義。1週間での投球数の規定。同日の連投、投手捕手兼任の禁止など細かく規定された。

②「芯で捕らえなければ飛ばない国際標準バット(USAバット)を導入し、バットに頼らない打撃力の向上。投手負担の軽減。強襲打球の危険から回避などを目指す」

③「試合中に怒声や罵声など人が不快と感じる指導や応援など言動マナーがあった場合にイエローカードを発行する」

④「スマホで簡単にスコアがつけられる「EASY SCORE」の導入で、父母が担当していたスコアラー仕事を軽減」

旧来の野球界が抱えていた問題を、「それおかしいよ」と言ってしまうような爽快さ。昔の常識が幅を利かせ、身動きが取れなくなっている団体が多い野球界のなかで、ポニーが意欲的な改革を打ち出せたのも、アメリカ原産で、チーム数も少なかった故か。はたまた少子化などによるリーグ存続への危機感が時代を進めたのかはわからない。だが、この改革は野球界にとって、革新的な一歩となった。那須が言うには、ポニーリーグはこの2年間で新規加入が40チームを数え、大手リーグの中で唯一加入がプラスになっているそうだ。

「最初は反発もありましたが、ほとんどのチームがリーグの理念に共感してくれて、新規のチームもどんどん加入してくれています。成長期で身体が大きく変化し、また選手によって成長速度が違う中学生の段階では勝敗なんて二の次三の次。技術も身体ができてからですよ。小・中学生の野球はスポーツです。競技性を追い求めていすぎやしないですか? 人生の勝負、早すぎませんか? 大事なのは成長を見守ってあげること。アメリカでは小中学生に技術なんか教えません。“野球は楽しい”ということを学んでもらうこと。そして監督の仕事は怒鳴ることじゃない。みんなを公平に試合に出すことだけです」

日本の野球界における諸悪の根源は“野球刑務所”であると那須氏は言う。一度入れば、朝から晩まで野球漬けで勉強も他のスポーツもしない。やっと出所できたと思ったら持っているものは何もない。そんな野球刑務所に入所させられていた受刑者が、同じように野球刑務所に子どもたちをぶち込む。そんな連鎖はもう終わらせなければならない。

「野球人って共通の悪いところがあるんです。褒められない。その代わりに叱り方、悪いところを見つけるのがみんな得意。本当はね、選手がうまくできたならちゃんと褒めて、野球の楽しさを伝えてあげることでしょ。楽しくて夢中になれば、その先に自発性が生まれる。そうなったら放っておいても強くなるんです。いま、市原ポニーでは、監督も父兄も笑顔で選手と話をしている。昔じゃ考えられないですよね。練習の外ではダラーっとしてもいいんです。でも『行くぞ』と言った次の瞬間にはスイッチが入る。笑顔の中でも、こういう野球をやれるようになるんですよね」

チーム設立の時点では野球も態度もボロボロだったブラックキャップスだが、幸いにもまだはじまったばかり。これから本当の意味で強いチームになるためには、何が必要になると那須氏は考えるのか。

「ポニーリーグに所属するそれぞれのチームの色を決めるのは、それぞれの責任者です。ブラックキャップスがやろうとしていることは、非常に革新的で面白いチャレンジだと思います。ただ、野球チームというものは“こういうチームを作る”という明確なビジョンを掲げて、指導者・父兄・子供たちそれぞれのバランスを取りながら、みんなを目的のゴールに向けて走っていかせることができる神様が必要なんです。神様……というと独裁者のように悪く聞こえるかもしれませんが、『合議制でみんなの意見を尊重して』なんてこの野球界でやっていたら答えなんて永遠に出ない。そんなへっぴり腰では子どもも育ちません。チームの良いときも悪いときも責任を取れる存在。あとはその神様が、本当に子どものことを笑顔で見守れる愛情のある人であること。まぁ、こんなことを言う硬式野球団体の中の人は、なかなかいないでしょうけどね(笑)」

半年後に再会した茅ヶ崎BCは
印象が180度と変わった!

半年後の秋、10月――。
市原ポニーは大会の予選リーグで再び茅ヶ崎ブラックキャップスとまみえることとなった。結果は10対0。点差こそ縮まったが、野球の質の面ではまだまだ市原ポニーには遠く及ばない。そんなことを改めて思い知らされた結果に、半年間の練習の成果を楽しみにしていたブラックキャップスの指導者たちは、自分たちには何が足りないのか、考えに考え抜いていた。しかし、対戦相手となった那須の印象は180度違っていた。

「野球の質、それこそバットを振るとか、速い球を投げるとか、筋力や技術的なものはまだまだこれからです。いや、そんなもの以上に、中身の部分での成長に驚きました。まず挨拶。返事の声にしても全員が声を揃えているし、行動の面でもあのダラダラしていた子どもたちが、全力疾走をしている。ユニフォームの着こなしもよかったね。それに、あの細かった子供たちの身体が比べものにならないほど大きくなっていましたよ。ちゃんと食べて、寝て、練習してきたんだろうね。野球の勝敗なんて、この時期の子どもにはどうだっていい。僕たちの真の目標は子どもたちに成長してもらうこと。そういった意味では、この半年の育成合戦で僕はブラックキャップスに完全に負けました。半年の間にこれだけ変わったチームは見たことがないですよね。これだけ変わるなら、お子さんがいるなら入れた方がいいですよ(笑)」

辛辣な言葉を放っていた那須が手のひらをグルリと返して賞賛するほどの変化。この半年の間にブラックキャップスの子供たちに何が起きたというのか。竹下には思い当たる節があるという。

「きっと、強化合宿が大きかったのだと思います。あれ以降、子どもたちの目の色が確実に変わりましたから」

それは夏の新潟で行われた生まれて初めての合宿。2泊3日の野球漬けな日々の先に子どもたちは何を見たのだろうか。

[つづく]

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作家・ライター
村瀬秀信

1975年神奈川県茅ケ崎市出身、旅と野球と飲食のライター。著書に「止めたバットでツーベース 村瀬秀信野球短編集」(双葉社)「4522敗の記憶~ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」(双葉社)「気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」シリーズ(講談社)など。文春野球の初代コミッショナーであり株式会社OfficeTi+の代表。
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