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平凡な中学生は平凡なまま終わるのか?

令和のがんばれベアーズの初陣はまさかの「23-0」で大敗!

author: 村瀬秀信date: 2022/01/26

―2回のオモテー
こどもたちの物語
プロスポーツ界の最前線で戦うスポーツジムが作った中学野球チームは、はたして令和の“がんばれベアーズ”のような、ドラマティックな結末を迎えることはできるのだろうか? この物語はこれからどちらに転ぶともわからない、現在進行形で進んでいる完全ドキュメントな“野球の未来”にかかわるお話である。野球作家としてお馴染みの村瀬秀信氏が、表に見えるこどもたちのストーリーと、それを裏で支える大人たちの動きや考えを、それぞれ野球の表裏の攻撃守備ように交互に綴っていく。

目指せ全国制覇!
まずはキャプテンを決める!

春、僕たちは中学生になると、茅ヶ崎ブラックキャップスは本格的に動き出した。
チームの最初の集まりで、ユウギのオヤジがあたり前のようにこんなことを言った。

「やるからには目標は全国制覇だ」

全国制覇。それが一体どれほど大変なことなのか、その時の僕らにはまったく実感がなかった。それよりも、配られたばかりの真新しいユニフォームと、想像以上に硬くて重かった硬式ボールの感触に興奮した。すごい。帽子はニューエラで、ユニフォームはホームが黒でビジターがグレーだ。侍ジャパンと同じ素材を使っているらしい。ロングパンツのズボンもプロ野球選手みたいだ。中学生のチームでひざ丈と選択できるのも、はじめてのことらしい。

カッコよくあれ”
それがブラックキャップスのルールだという。チームの帽子やパーカーなどは一般向けにも販売されるらしい。なんでも、僕らが強くなれば茅ヶ崎の町にブラックキャップスの帽子をかぶった人たちが増えるそうだ。どうしよう。責任重大である。

僕らが一番初めにやったことは、キャプテンを決めることだ。「キャプテンやりたい人!」と聞いてみたら、小学生時代のキャプテンでもある「キズナ」。4番で頼りがいのある「タカシ」。兄貴が中学の生徒会長を務めるしっかり者の「リクト」、身体能力が高くて気持ちの強いガクが立候補したので、それぞれ「自分がキャプテンになったらチームをどうしたいか」をテーマにスピーチをして、部員による決選投票で決めることになった。

スピーチはそれぞれ個性があって面白かったけど、やっぱり小学生のチームでもキャプテンをやっていたキズナの言うことはちょっとレベルが違っていた。投票の結果も予想通り、やっぱりキズナがキャプテンにいるとしっくりくる。

最後にこのチームの約束ごとを3つだけ決めた。

① 自分に負けないこと
② 絶対に諦めないこと
③ 感謝の気持ちを忘れないこと

これだけを守ることができれば、3年後に僕たちが見える世界は今とは別のものに変わっているという。まぁ、みんなそんなに簡単にうまくいくわけがないとは思っていたのだけど、この気持ちが次第に「もしかしたら、本当に連れて行ってくれるのかもしれない」と思うようになっていたのは、このチームを支える人たちの顔ぶれがあまりにすごすぎたからだ。

すごい人たちに支えられるも
最初は強豪・市原ポニーに大惨敗!

別の日。僕たちは武蔵小杉にいた。
この町にはプロ野球選手も診ているスポーツドクター、馬見塚尚孝さんが「ベースボール&スポーツクリニック」を開業していて、現時点での僕たちの身体の状態を測定してくれるというのだ。身体測定なんて、これまで身長・体重ぐらいしかやったことがなかったけど、体組織から、ヒジのエコー検査や骨密度など、聞いたこともないようなありとあらゆるデータを測定してくれた。
そこで得られたデータから、これからの成長曲線の予想というものが作られ、それを元により良い身体をつくるための適正な食事やサプリの指導を管理栄養士の人にしてもらった。ごはんを食べること、身体をつくることも大事な練習のうちのひとつ。帰ってからお母さんにも協力してもらわなければ。

そして、本格的な練習がはじまった。
練習は週5日が基本。日曜日はポニーリーグの大会か練習試合があるので、月曜日は完全休養。火曜日はZOOMを使ってのオンライントレーニング。画面の向こうでトレーナーの人がストレッチや体幹のトレーニングを1時間程度教えてくれる。水曜日はラチエン通りにある林水泳教室のジムでウェイトトレーニングやティーバッティング。木曜は平和学園の河川敷グラウンドで基礎練習。金曜日はお休みで、土曜日が文教大学のグラウンドで実践練習だ。

トレーニングはユウギのオヤジのジムで活躍しているプロのパーソナルトレーナーの人が指導してくれた。トレーニングとひとくちに言っても、身体をつくるトレーニング、末梢神経? を鍛えたり、身体を上手に動かすためのトレーニングなど、とにかくいろんな種類がある。大人になるまではウェイトトレーニングはやらない方がいいとか、背が伸びなくなるとか聞かされていたけど、プロの人に聞くと全然そんなことはないらしい。大事なことは正しいトレーニングを適正な量行うこと。選手ひとりひとり、身体の大きさや成長期に入っているか入っていないかの違いで、回数もぜんぜん変わってくるのだとか。ちなみに家での素振りなど自主練習のノルマもなしというのも意外だった。

あとびっくりしたのは、月に1回走り方を教えに来てくれるマロン・アジィズ航太スプリントコーチだ。この人、100mで日本記録を作った山縣亮太選手のコーチもしているらしい。僕らの前で試しに100mを走ってくれたのだが、アップもしないでいきなり走って10秒4。「はじめて野球のボールに触った」って言いながらボールを投げたらこれも100m以上飛んでいった。まるで忍者だ。

「強いフィジカルと体の使い方がわかるようになれば、どんな競技でも応用できる」

そんな言葉も納得である。最大の疑問は、なんでこの人が選手じゃないのかってことだけど。

こんなに凄い人たちの指導を受けていたら、もしかして、僕らもかなり強くなっているんじゃないだろうか。そんなことをうっすら考えるようになっていた頃、茅ヶ崎ブラックキャップスの初めての試合がやってきた。

……と、意気込んだのも最初だけだった。結果は……23-0。

ぼろ負けだった。攻撃も守備も、驚くほど何もできないまま試合は終わった。試合後。いや、試合中から僕らは黙りこくっていた。もしかしたら、いい試合ができるかもしれないなんて思っていたのが恥ずかしかった。正直、ここまで力の差があるとは思わなかったから。

練習を習慣化するのに66日
プロってそんなことまでわかるのか!?

「なぜ負けたと思う?」

試合後の円陣で阪口監督が口を開いた。僕らは黙ったまま動けなかった。

「同じ中学1年生になんでこんなに差が開いてしまうのか。彼らとは何が違うと思ったか気づいたことを言ってほしい」

監督の言葉にキャプテンのキズナが口を開く。

「市原の選手は、声がすごい出ていました」

「声が出ているとなんでいいんだ?」

監督が再び聞き返す。

「チームが盛り上がるからです」「指示が通りやすくなります」「相手に圧力を掛けられます」

みんなが答えを返しはじめた。

「ならば、やろうよ。やったほうが絶対にいいよね」

そんな調子で、僕らの当面の目標が決まった。市原ポニーに勝つ。いや勝てずともいい試合がしたい。そのためにはどうする? 必要なことをみんなで話し合った結果、「意味のある声を出すこと」「ポジションまで全力でダッシュすること」そして、まるっきり打てなかった市原のピッチャーのボールを打つためには、家で素振りをしないと打てるわけがないという結論になった。回数は100回。それを66日続けることに決めた。ユウギのオヤジが言うには、なんでも人間の行動が習慣化するまでに必要な日数が66日間なのだそうだ。そんなことまでわかるのか。なんというか……プロって本当にすごい。

[つづく]

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作家・ライター
村瀬秀信

1975年神奈川県茅ケ崎市出身、旅と野球と飲食のライター。著書に「止めたバットでツーベース 村瀬秀信野球短編集」(双葉社)「4522敗の記憶~ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」(双葉社)「気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」シリーズ(講談社)など。文春野球の初代コミッショナーであり株式会社OfficeTi+の代表。
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