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見た目だけがいいクルマの時代はもう終わり!

カーボンニュートラル&フリーなアウディ浜松が発信する「カッコよく走る」という価値観

author: 田中 謙太朗date: 2023/03/31

1909年の創業以降、ドイツ車史の名プレイヤーであり続けるアウディは “Vorspurung duruch Technik”(独語:技術による前進)を合言葉に、先進的なテック企業として新たな価値観を示してきた。欧州域内から始まり、現在は世界的なムーブメントであるカーボンニュートラルに関しても、世界で初めて「2026年以降発売の全車EV化」を宣言した自動車メーカーである。

そんなアウディがカーディーラー・ショールームとして国内で初めて、カーボンニュートラル化と太陽光発電由来のカーボンフリー電力の供給を開始する。時代の先駆者であり続けるアウディが見据えるクルマを取り巻く価値観の変化とは。

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アウディの日本支社であるアウディ・ジャパンは「Audi Sustainable Future Tour」と題して、日本における脱炭素の取り組みを紹介する活動を行なっている。過去2回の活動では、バイオマス発電によって地域内におけるエネルギー自給率の20%の引き上げに成功した岡山県真庭市、日本初の商用地熱発電所が設置された岩手県八幡市にスポットが当てられてきた。

そして今回、3回目の「Audi Sustainable Future Tour」の舞台となるのが、浜松市のアウディブランドのカーディーラー・ショールームである「アウディ浜松」だ

カーディーラー・ショールームとして初のカーボンニュートラル化

2023年1月27日、「Audi Sustainable Future Meeting」にて、「アウディ浜松」のカーボンニュートラル化が発表され、静岡県浜松市によるESG戦略が示された。

「アウディ浜松」を運営するサーラカーズジャパン代表取締役の坂爪譲治氏によると、屋上に新設された400枚のソーラーパネルによる年間発電量17万3000kWhの自家発電によって、通常営業における電力エネルギー消費を賄うことでカーボンニュートラルを達成する。

加えて、カスタマーの自家用EVでの“ゼロカーボン・ドライブ”を実現するため、同施設に併設された出力150kWのEV用急速チャージャーからは太陽光発電によって生産されたカーボンフリーな電力が提供されるとのことだ。

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 400枚のソーラーパネルを取り付けたカーディーラー・ショールーム「アウディ浜松」の空中写真

サーラカーズジャパンは、東海地方を中心とした生活基盤サービスを提供するサーラグループの一員である。中核となるエネルギー事業に加え、カーライフサポート、ハウジング、プロパティマネジメントなど、グループ全体で2,000億円以上の売上を数える巨大企業体だ。

自然エネルギー発電のネックとなる発電量のバラツキに対しては、同グループのサーラeエナジーからのカーボンフリー電力の買い取りにより対応するとのこと。今回のカーボンニュートラル化は暮らしの中のエネルギー供給から利用までの流れを一貫してデザインできるサーラグループの強みを最大限に活かした取り組みであるといえる。

店内で発電電力量が表示されるディスプレイ。当日は降雪のため少々不調気味

アウディジャパン代表取締役のマティアス・シェーパース氏は、アウディブランドにおけるカーボンニュートラルの価値とカーボンフリーな電力の供給の意義を次のように語る。

「“Vorsprung”(訳:前進の意)の合言葉の通り、アウディは固定概念を打ち壊し、より良い未来を自分たちの力で切り拓いてきました。現代の自動車産業における変化の原動力であるカーボンニュートラルの話題に関しても、その姿勢をもって臨んでいます。世界初となる『2026年における完全EV化の宣言』に加え、すべての工場の2025年におけるカーボンニュートラル化を目指すことを2020年に発表しました。

今回、カーボンフリーな電力を供給できるようになる『アウディ浜松』の取り組みにより、アウディによるゼロカーボン・ドライブが実現できるようになりました。再生可能エネルギーを中心とした急速充電ネットワークがこの日本で整備されることは、アウディにとってもカーボンニュートラルにおける日本での強い味方を得ることになり、非常に喜ばしいことだと思っています」

150kWのチャージャー

また、今回提供される充電器の出力である150kWという数字から、アウディが日本におけるEVインフラの拡充を重視し、EV車種における日本市場の拡大に対する本気度がうかがえる。

日本の高速道路などで一般的に提供されているチャージャーの出力は最大50kWであり、バッテリー容量71kWhのアウディ「e-tron」でいうと1時間半前後かかる計算だ。しかし、150kWの出力があれば、30分で満タンになるので、ちょうどパーキングエリアでの休憩をするくらいの時間で満充電できるというわけだ。

この例からもわかるように、短時間での充電を可能にする大容量チャージャーの拡充は日本におけるEV市場を開拓する上では必要不可欠といえるミッションだ。アウディジャパンはポルシェジャパンとの共同開発による150kWのチャージャーの拡充を推進しており、2023年内に正規ディーラー102店舗に配備するとの発表がされている。

実際に、日本におけるEV市場を非常に重視しているようで、本国によるEV販売台数のノルマよりも日本法人の設定するノルマの方が高いとのことだ。充電網の整備とグリーンエネルギーの利用につながる今回の取り組みは、“主戦場”の日本におけるEVインフラを整えるという意味で、アウディにも大きな利益が生じるといえるだろう。

アウディジャパン代表取締役社長のマティアス・シェーパース氏

豊富な工業資源が生み出すESGの街を創り出す! 浜松市が描く“RE100”のビジョン

「Audi Sustainable Future Meeting」には、浜松市行政からも副市長の長田茂喜氏とESG担当者として浜松市カーボンニュートラル推進事業本部長の村上隆康氏も参加した。

副市長の長田氏は以下のようにコメントした。

「浜松という街は、元来自動車の街です。市民一人当たりの自動車保有台数は政令指定都市の中で最も高い値を記録し、市の工業製品出荷額2兆円の中の40%が輸送用機器が占めています。この浜松でクリーンなエネルギーの利用を促進する新たな取り組みが生まれたということは、ESG戦略を推進する行政にとっても自動車利用の盛んな市民にとっても非常に価値のあることだと考えています」

浜松市には東海工業地域の一角をなす大規模な工業団地があり、国際拠点港湾の清水港を筆頭に15個の港湾が存在する。商工業を主産業とする愛知県豊橋市とも近く、輸入品、部品組み立ての際の輸送コストが低く抑えられることもあって工業における成長の要素が数多く揃っていることが特徴的だ。実際に、ヤマハ、スズキ、河合楽器製作所、ローランドなどの世界的メーカーが名を連ね、東京や大阪に負けない産業的なポテンシャルの高い地域である。

「浜松市は、地形的に多様なエネルギー源を確保しやすい構造になっています。日本トップクラスの日照時間に加え、バイオマス発電が可能な森林面積の広さ、7500本の河川・農工業用水による水力発電など、再生可能エネルギー導入における大きなポテンシャルを秘めています」と、村上氏は浜松市におけるエネルギー戦略を語る。

浜松市は「浜松市域“RE100”」と題して、市内の総消費電力に相当する電力量以上の電力量を市内の再生可能エネルギーによって生み出す状態を2050年までの達成を目指す、と2020年の浜松市エネルギービジョンの改定の際に宣言を出している。2023年初頭の段階では市域内の電力需要(4990GWh)に対して63.9%(3180GWh)の電力生産を記録しており、現在主軸となっている大規模水力発電(2330GWh)に加えて太陽光と風力による電力生産量を増やすことが求められる状況だ。

青;“RE100”とは浜松市独自の定義である。既存の大規模企業による環境目標イニシアチブであるRE100とは異なり、その事業体のバランスシートにおける再生可能エネルギーの割合を高めるものではなく、市域全体における電力消費に対するカーボンオフセットとして実施する。

“RE100”の達成のため、「浜松市スマートシティ推進協議会」による官民連携の推進や浜松市の企業との共同出資を行う「浜松新電力」によるエネルギーの地産地消システムの形成を促進するとのことだ。「浜松新電力の狙いは、日本版シュタットベルケ(公的企業)となり電力事業で得たものを地域に還元することが目的です」と、村上氏は力強い意気込みを語った。

左から、長田氏(浜松市副市長)、神野氏(サーラコーポレーション代表取締役会長)、シェーパース氏(アウディジャパン代表取締役社長)、坂爪氏(サーラカーズジャパン代表取締役社長)、村上氏(浜松市カーボンニュートラル推進事業本部長)

「カッコいいクルマに、カッコよく乗ること」を実現するために

また、発表後の質疑応答にて、シェーパース氏から新たな価値観が提示されたことが印象的だった。

「アウディ『e-tron』を考えてみてください。これまでは『見た目がカッコよければいい』、『性能が高ければいい』という時代だったかもしれませんが、最近のお客様はそうではありません。

『カッコよく走る』という自分の価値観を演出するために、電気で走るクルマを選ぶ時代になっています。私たちにとっても、カーボンフリーな電力を提供することで『カッコいいクルマにカッコよく乗って欲しい』という願いがあるのです」

これまでのクルマは、内外装やエンジン音から美的センスを、そして運転技量でドライバーとしての能力を示してくれていた。ある程度の価格であるが故に、その人の気質を映す鏡という性質があったことは間違いない。しかし、これからの時代は「どのクルマをどのように乗るか」に加えて、シェーパース氏が話したように「どんな燃料を使うか」ということも新たな価値観として主流になってくるのかもしれない。

この記事を書くにあたって、アウディのことについて調べた中で興味深いことがあった。アウディのエムブレムである「フォーシルバーリングス」は、もともとアウト・ウニオンというメーカーのエムブレムなのだ。

1932年、世界恐慌の影響で多くのドイツ企業が消滅の瀬戸際に立たされたとき、ホルヒ、アウディ、ヴァンダラー、DKWという4つの企業が合併してアウト・ウニオン(自動車連合)が結成された。そのアウト・ウニオンこそ、現代のアウディの直接の前身であり、そのエムブレムが「フォーシルバーリングス」なのであった。

小型大衆車のDKW、中型モデルのヴァンダラー、大型モデルのアウディ、ラグジュアリーモデルのホルヒ、と各社の個性を活かした協力関係が構築された

創業当時の4社の団結のように、「協働の精神」は現代のアウディにも見てとれる。“ゼロカーボン・ドライブ”という「新たな時代のカッコいいクルマの乗り方」を実現させるには、静岡県に加えて地域に特化したサーラグループとの協働が必要不可欠だ。

新たな時代を新たな価値観で拓くための協働を可能にする精神こそ、アウディがブランドとして時代を超えて愛される理由なのである。

Interview:川端由美
Photo:村山世織 取材協力:アウディ

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ライター
田中 謙太朗

2001年東京生まれ。早稲田大学在学中。共同通信社主催の学生記者プログラムに参加したことをきっかけに執筆を開始。その後、パナソニックのイベントへの登壇など、記者としての活動と並行して、英自動車雑誌『Octane』の日本版にて翻訳に携わる。主専攻である土木工学に関連したまちづくりやモビリティに加えて、副専攻に関係するサスティナビリティに関する話題など、これからの時代を動かすトピックにアンテナを張る。
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