「没展」。一度はボツにした世に出していないアイディアや作品を「これボツなんだけど」という言葉を免罪符に紹介してもらう他人のゴミ箱漁り連載。
キュレーターは、作家・斉藤ほのか。初回のゲストは、芸人にして小説・エッセイ・脚本など多岐にわたって持ち前の才能を使い倒している、Aマッソ加納さん。今回は、数年前――まだ加納さん自身も模索していた荒削りな時期のボツ案を中心に、その思考の原液をたっぷり浴びせてもらった。

Aマッソ・加納
1989年、大阪生まれ。ワタナベエンターテインメント所属。2010年、お笑いコンビ「Aマッソ」を結成。MBSラジオ『Aマッソのヤングタウン』(毎週木曜22:00〜)、テレビ東京『正解の無いクイズ』(毎週月・火・水曜17:30〜)にレギュラー出演。2024年、中京テレビ『スナック女子にハイボールを』では、初の連ドラ単独脚本を担当。著書にエッセイ集『イルカも泳ぐわい。』(筑摩書房)、小説集『かわいないで』(文藝春秋)など。今年6月〜7月にかけて、加納愛子単独ライブ「H15」を実施。お笑い芸人のみならず、脚本、文筆、演劇など幅広い分野で活動中。
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斉藤ほのか
2001年生まれ。主に作家・映像ディレクターとして活動。YouTubeチャンネル『ララチューン』『オダウエダ総合案内所』『100億年LOVE』などをはじめ、テレビ・ラジオ・雑誌など媒体を問わず、お笑いを軸とした様々なコンテンツに携わる。
最近の没企画:最後にゼラチンを入れて全部グミにする料理番組
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斉藤:この連載の初回は加納さん以外考えられなかったです。
加納:これは嬉しいですよ。
斉藤:というのも、私の周りだと加納さんが圧倒的に没量が多いんじゃないかと。
加納:マジでそうやね。

斉藤:加納さんって、「実現できるか」「自分たちがやったらどうなるか」みたいな現実的なことを度外視して、とにかく「面白そう」っていう純粋なアイディアが先行してるイメージなんですよ。だからこそアイディアの量も多いし、没も多いだろうなと。
加納:確かに、会議とかで「こういうのやりたくて」って言ったら「え、どうやってですか」って言われて、黙る、みたいなのは初期の頃はもうざらにあったっていうか。
斉藤:昔と比べたら今はだいぶ減りました?
加納:人生を重ねて学んできてはいるかな。今回この話もらってネタ帳を見返したら、2016年あたりがちょっと頭おかしくて。半分ぐらい絶対言っちゃいけないこと言うてるし……そりゃミスするかっていう怖い怖いネタ帳。様子がおかしかったです。


加納:ネタ帳開いたらその時々で「これにハマってるんやな」っていうのあるやん? こればっかり言うてるな、みたいな。この頃それが『アンハサウェイ』で。
アンハサウェイが来日した時に、空港でアンハサウェイのオタクが「アンハサウェイ~~~~~!!!!」って熱狂して、そのMAXの時に、冷めるっていう映像。熱量がMAXになった瞬間「アンハサウェイ推しって何?」って思って、ガンって冷めるみたいなのを空港で撮りたいと思ったけど、無理じゃないですか。
斉藤:アンハサウェイは誰かがやる予定だったんですか?
加納:いやアンハサウェイがやる予定やった。

加納:あと倫理的にも良くないやん。本人の前で冷めるって感じ悪いやん。




加納:『ウインドブレーカー』にはまってた時期があって。ウインドブレーカーって鳴るやん?音。
斉藤:シャカシャカしますね。
加納:あれのリズムネタ。
斉藤:リズムネタ!?
加納:思い浮かんで、家の中でウインドブレーカー着て色々やってみてんけど「何してんねん」ってなって。

斉藤:たしかにAマッソさん、リズムネタやってた時期ありましたね。
加納:誰しもあると思うけど、最初って絶対自分の強みを考えるやん。それであるキャリアになると、苦手なものと自分はどう向き合うんだろうっていうターンに入る。私もR-1出てみたり、リズムネタやってみたりみたいな。それはある種、没ルートを明確にしていくみたいな。
斉藤:実際やってみないとわからないですもんね。
加納:そういう片鱗みたいなのはネタ帳には散りばめられてたな。ちょっと可愛かった。模索してんなぁっていう。


加納:この前亡くなったけど長嶋茂雄さんが10年前ぐらいに病気になられて、病院で入院してるってニュースが出たのよ。で、その時に長嶋茂雄さんを元気づけるために野球場に行って、野球場の空気を袋に入れて病院に持っていくっていう。
吸いたいだろうと思って。で、たまたまバイト先の店長に野球場のチケットをもらったのよ。「これは……!」と思って行って、ビニール袋に球場の空気入れてるところ撮った後に……神宮であることに気付いたのよ。巨人なんやから東京ドームやん普通

加納:神宮の空気持っていってどないすんねんっていう。しかも長嶋さんに渡されへんし。

加納:でも撮るしかないから長嶋さんに嘘の電話かけて「ちょっと球場の空気あるんですけど……」ってオチてもないVになった。意味わからんよな。何がしたかったんやろ。
斉藤:でも一応撮り切ったんですね。そのVはどこかで流したんですか?
加納:覚えてない。撮ったけど流したか流してないか覚えてないのめっちゃあんねん。


加納:ほんまに分かれへんことが多いねん、私って。これって面白いんやっけ、面白くないんやっけっていうのが分からん状態っていうのがあって。
でも自分もこのスポットを持ってて、他のみんなもこのスポットを持ってて、他のヤツのこのスポットを愛でるみたいなターンもあって。
斉藤:面白いが確定してないけどやってみたいことみたいな。
加納:そう。で、昔からやってるいもちゃんっていう作家がいるんやけど『カレー鬼』っていうの考えてきて。シェフがカレーを持って追いかけてくる……あれ、どっちやったっけ、逃げんねやったっけ。
斉藤:面白いかの前にルールが朧げ。
加納:私のおもしろの範囲が狭くてわかれへんけど、でも一旦やってみるかと思って撮って、上がってきた映像見て、「……ごめん、わからへん。」

加納:「ごめんね、わかるのにまだ時間かかるかもしれない」ってゆっくり諭して。
斉藤:それ撮ったのはいつですか?
加納:3~4年前?
斉藤:3~4年経った今、わかるようになりました?
加納:より遠ざかったな。もうムカついてるまであるね。貴重な時間を『カレー鬼』なんかに、っていう。


斉藤:こういうことはしょっちゅうですか?
加納:しょっちゅうやね。
斉藤:怖い。まず編集者になんて発注したんですか。
加納:なんか「自分の理解のちょっと外側で着地すればいいね」ぐらいの。
斉藤:え、そんな漠然とした注文……?
加納:「で、まあ、ちょっと頭が取れてたりとかすんのかな」みたいな。現場で確定は出してない。私も不安やから。「自分の頭が取れてて、相手のここ(手元)にあるのかな」とか。セコいんやけど。
斉藤:怖い。それを言われて編集の方は「なるほど」っていう顔をしてるんですか。
加納:「なるほど」は言ってない。一回も。
斉藤:ですよね。
加納:なるほどとは言ってないけど一旦編集してみて、出来たの見せてもらって、「……そっかそっか。お互い成長が必要かもしれないね」って。お前もなっていう、その、巻き込んで。

斉藤:その成長が必要っていうのは、現場でそれを止められたらよかった?
加納:そう。お互いに止められたよねっていう。
斉藤:理解の外側の完成形も見たかったですけどね。
加納:あかんのよ。斉藤ちゃんみたいに前向きに楽しんでくれる人ばっかりじゃないから。
斉藤:悔しい。前向きに楽しめる人間をこの連載で育てていきたい。




加納:ここ10年くらいで倫理もちょっとずつ変化していってるやんか。だから自分としても「やめとこうか」っていうジャッジが割と手前になってきて、あんま良いイメージ持たれへんやろうからやめたやつは、ババアが……。
斉藤:あ、「ババアが」って言ってる
加納:あえてね。ババアってさ、ババアみたいな服着てるやん?
斉藤:着てますね、ババアだけが着てる服。
加納:それって「ババアをやろう」ってなったわけやん。だから、「何歳からババアみたいな服着てます?」っていうのを聞いていくっていう企画。
斉藤:めちゃくちゃ良い。どこからババアになるのか知りたいですもん、いずれババアになる身として。
加納:そうそう、ババアになるからロケで聞きたいと思ったけど…誰かが止めたんやろうね。


加納:言い方がむずいのよ。ババアっていうのが1番おもろいから「ご年配らしいお洋服を着てますよね」とか言ってもおもろないし。
斉藤:より皮肉にも聞こえる。知りたいけどな~どこで買ってるのかとか。
加納:そうそうババアみたいな服を。
斉藤:今の所加納さんはババアみたいな服を着る予定はあるんですか。
加納:いや~どう思う? なくなっていくんちゃう? ババア丸出しの服が。
斉藤:廃れるんですか!? 私は自分にもババアみたいな服を着て紫のメッシュを入れる日が来ると思ってますよ。
加納:来んのかな。それは祝日なのかな。
斉藤:めでたい日にはなるでしょうね。でも加納さん、年々着てる服とか華やかになっていってるじゃないですか。
加納:そうね。それはもうめちゃくちゃわかりやすくて、口紅の色もどんどん濃くなるやん? それって色素がなくなんねん。
斉藤:色を足したくなるんだ。
加納:足し算になんねん。それはもう30歳で気づいて40、50は未知数やから……。
斉藤:じゃあ今はババアへの道中ですか?
加納:そうそう。
斉藤:絶対ババアになる時教えてほしいです。今日から、みたいな。
加納:わかった連絡するわ。「今日からババア入らしていただきます」っていう。
斉藤:助かる~。

斉藤:昔のものが多かったですね。
加納:そうやな。今はどの仕事もちゃんとしなあかんけど、売れる前はもう誰にも見つからずにこっそり40点取るみたいなのができたから。
斉藤:なるほど。私も今のうちに失敗をいっぱい通らないといけないですね。
加納:いや、斉藤ちゃんはあんま80点切る人のイメージがないから、そもそもそんなことをせずに行ける人なんかもしれへんし。こういう失敗もあるっていうのを私を側から見ててくれれば。
斉藤:加納さんと同じ失敗は回避して、華やかなババアになった時は後に続きます。
加納:「こっちおいで」って言うわ。華やかババア路線。
