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メタバースビジネス最前線

VRChatというメタバースで、“世界”を作り続けている蕎麦屋さん

author: 武者良太date: 2022/03/31

メタバースと呼ばれる世界の1つ、VRChat。ここには多くのワールドクリエイターという創造神が存在します。VRヘッドセットをかぶって3D CGで描かれたバーチャルな空間に降り立つと、360度全方位が自宅とはまるっきり違った世界。フォトグラメトリやLiDARスキャンを用いて作られたフォトリアルなワールドもあれば、ブロックを組み上げたようなボクセルワールドもあるし、数多のパーティクルが踊り跳ねるようなワールドもあります。

焚き火を囲えるワールドではリラックスした時をいつまでも過ごせますし、テーマパークのライドアクティビティのようなワールドでは次から次へとやってくるアクションシーンの連続にドキドキハラハラが止まりません。一人で、ソロツーリングのようにいろんなワールドを旅するもよし、友達が集まる部屋ワールドで雑談にふけるもよし。数多くのclubワールドで毎日のように開催されているDJイベントやライブイベントをはしごするのも楽しい時間です。

これらの、VRChatの楽しさを支えてくれているのがワールドクリエイターです。しかもこの神様、これがなんと無償でワールドを天地創造し続けています。

個人の発想力から生まれたとは思えないワールド

テレビ番組に出演したときは共演した芸人さんから「なぎらけんいちさんですか?」と言われたVR蕎麦タナベさん。実は奥さんにプレゼントするために作ったアバターをご自分用に改変して使っている。

そんな神様の一人がVR蕎麦タナベさん(@sobatang1)です。私たちがいま住まう現実世界では、東京都文京区本郷にある「手打ちそば田奈部」で日々美味しい蕎麦を打っているそば職人さんですが、仕事を終え自宅に戻り、奥さんと食事をして一息ついてからは精力的に様々なワールドを作り、VRのなかで友人とコミュニケーションするVR蕎麦タナベさんへと変身。ご覧ください。VR蕎麦タナベさんが作ったワールドの数々を!

東京ビッグサイトや幕張メッセで開催される大規模展示会のような「FakeVR-Expo2020」 よくよく見ると、ありえなさすぎのVR機器ばかり展示されている。

日本の風物詩1つである荒ぶる成人式。さらにアクセルを底まで踏み込んだ「Yancha-seijinsiki」

大地震が起きたときの視界や街の状況、注意するべき事柄を学べる「VR-Hinankunren」

生真面目な雰囲気を漂わせながら、リアルだったら物申す系の方が毎日来られて数時間は説教してきそうなツッコミどころだらけの区役所ワールド「vrc-kuyakusho」

多くのVRChatユーザーから寄せられたデータで作られた、VRChatユーザーのVRChatユーザーによるVRChatユーザーのためのワールド。無茶、無謀、無秩序が重なりあいすぎて、マツコ会議放映時にマツコ・デラックスさんが「何だファンタズムって!?」と叫んだ「fantazumu7-test7」

真面目なワールドもありますが、基本的には右を向いても左を向いてもネタばかり。イタズラ心が爆発しているというか、アクセル全開でカッとばしている気配が濃厚で楽しさあふれるワールドばかりです。

そんなVR蕎麦タナベさんですが、実は企業からの依頼でワールドを作成することもあります。いわばワールドクリエイターのプロフェッショナル。NHKの番組内で使用するワールドや、日産自動車のバーチャルショールーム、渋谷スクランブル交差点&渋谷センター街と佐世保市のさせぼ四ケ町商店会&佐世保島瀬公園を結んでバーチャル映画祭の会場となるワールドを作るなど、精力的に取り組んでいます。

銀座にある日産自動車のショールーム「NISSAN CROSSING」をバーチャル化したバーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING」 細部に至るまで精巧に再現したミラーワールド、デジタルツインともいえるワールドだ。

屋内に展示されている日産アリアは日産自動車提供のデータによるものだが、建物そのものの意匠は本物とそっくりになるように、VR蕎麦タナベさんがハンドメイドで仕上げていった。

メタバースのワールドがもつ重要性

VR蕎麦タナベさんをワールド作りに駆り立たせる原動力の1つ。それはワールド作りは会話のツールになるということ。

「VRChat以前にAltspaceVRというVR SNSにログインしていました。あるとき、AltspaceVRで知り合ったノルウェーの友達に、『AltspaceVRはWebGLでワールドが作れる』ということを教えてもらったんです。そこで富士山やカツ丼、カレーとか海外の方から見て日本をイメージしやすい写真を自分のワールドに置いてみたら、海外のユーザーが声をかけてくれたんです。『タナベはじめまして。面白いねこれは何だい』って会話が進んだんです」(VR蕎麦タナベさん)

VRChatはメタバースと呼ばれる以前は主にソーシャルVRと呼ばれていました。VR+Chatという言葉からも想像できるように、他のユーザーとの会話などを楽しむ社交性を重視したVRアプリです。ゆえに友達がいないと、TwitterやFacebookみたいに使いこなすのが難しい。もしVRChatにログインしている時間を豊かにしたいと思うのであれば、いろんな人が集まっている場に赴いて「こんにちわ、はじめまして」からはじめるのが大事ですし、VR蕎麦タナベさんのように他の人の視線を惹きつけるワールドを作って、会話のキッカケとするのも大事です。

「あるときAltSpaceVRで、カナダ人のユーザーから『ちょっと俺のワールド見てくれよ』と誘われました。そのワールドはただ、360度カメラで撮った彼の家の写真だけがあるワールドでした。何でこういうワールドにしたのか。2016年にバングラデシュでテロが起きたのですが、そのユーザーはたぶん、現地の領事館の人だったと思うんです。あの事件があって家族を先にカナダに退避させたところ、カナダ政府は『VRの中で集まって団らんしてくれ』とVRのヘッドセットを彼と家族に支給したそうなんです。それを聞いた瞬間、彼の作ったワールドの重要性に気がついてちょっと泣いちゃいました」(VR蕎麦タナベさん)

今は離れて暮らしている家族とも、VR空間の中でならいつでも会うことができる。「リアル空間で会って離せばいいじゃないか」とVRやメタバースを揶揄する人もいますが、すぐに会うことのできない人だっているわけです。

コロナ禍の収束がまだ見えない現在。VRヘッドセットの売れ行きが大いに伸びました。またVRChatをはじめとするメタバースへ参加する人も急増しました。これからもメタバースのなかでは、人と人が出会い、話し、笑い、楽しむ時間が繰り広げられるのでしょう。

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ガジェットライター
武者良太

1989年にフリーライターとして活動開始。株式会社三才ブックスに入社して編集職に就き、退職の後にフリーライター/カメラマンとして活動再開。2021年で執筆・編集歴32年。現在注視しているフィールドはIT、IoT、スマートフォン、デジカメ、モビリティなど。1971年生まれ。元Kotaku Japan編集長。
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