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Column

「志」を旗頭に、新たな価値を量産する

操る難しさ、楽しさを満喫しよう!

author: 長島 聡date: 2022/01/23

企業経営を専門とするコンサルタント業を長らく営んできたが、ほとんどのプロジェクトにおいて、「描いた通りにいかない」というもどかしさに悩まされてきた。もちろん、描いた戦略が全く機能しないことは流石に少なかったが、細部まで描いた通りに事が進むなど、ほぼ無いと言って間違いない状況だった。ただ、そんな状況の中でも、柔軟かつスピーディに戦術を変えながら、創意工夫しながら、巧みに成功へと導いていくプロセスがなんとも刺激的で楽しかった。そうしたプロセスを繰り返していくこと。おそらくこれがコンサルティングのひとつの醍醐味のようなものだと思う。

私にはそんな刺激的な状況を、日常の至る所で求めてしまう悪い癖がある。乗り物でもそうだ。電車や飛行機、バスやタクシーといった他人が運転する車はあまり好きではない。移動手段としてはとても便利で何度も何度もお世話になってきたが、特にタクシーでは、目的地に早く着くなどの創意工夫を自分が代わりにしたくなってしまうことが多々ある。常に自車の周囲をスキャンして、周囲の車に迷惑を掛けない間合いで、進行ルートを選択して試したくなるのだ。故に、状況が許すなら、なるべく自らの車を使って移動することを選択してきたような気がする。

こうした感覚は、これまでの車選びにも共通する。20台を超える二輪車や四輪車に乗ってきたが、ほぼ全ての車がマニュアルトランスミッションを装備した車両だったと思う。車が勝手にギアを変えていく、オートマティックトランスミッションに乗ると、とても大きな違和感に襲われたからだ。アクセルを戻したのにスピードが落ちない。車が自らの手と足となって走る感覚が持ちにくくなる。そんな理由でマニュアル車を選んできた。ギア、アクセル、ブレーキ、ステアリングで創意工夫しながら、思い描いたルートを思い描いた形で駆け抜けていく。運転を重ねるごとに難しさも感じながら、上達を感じた時の楽しさを求めて走るのが楽しい時間だ。

今回、こんな私のマニュアル好きを覚えていてくれた友人が、ホットハッチと呼ぶのに相応しい車でドライブに行こうと誘ってくれた。Rosso Abarthという鮮やかな赤のABARTH595だ。折角の機会なので、箱根までのロングドライブを楽しむことにした。東京・日比谷で車に乗り込み、まずは首都高を目指した。タイトなコックピットは、視界も良く、スポーツマインドがくすぐられる。最初は少し座面が高い気がしたが、すぐに馴染んだような気がする。アクセルやクラッチの感覚を一つひとつ確かめながら、車の癖をとらえようと頑張ってみた。ブレーキはよく効くし、タッチも良好だった。上手く操る努力をしていったのだ。

車内では、ここ数年話題の自動運転の是非についての議論になった。自動運転の便利さや運転支援機能の安全さは十分に理解していたが、私にとっては、運転支援機能の付いていない595の方が好きだと話した。もちろん、お酒を飲んだ時に運転代行を呼ばずに車が家まで運転して連れて帰ってくれるのは、ぜひともお願いしたいことだ。でも、それ以外では、自分の創意工夫を試したり、運転スキルの上達を感じたりしたいという願望が大きいのだ。最新の制御を積んだ誰でも簡単に走らせられる車より、何十年も昔の「じゃじゃ馬」を上手に運転できたらなんと楽しいだろうかと思ってしまう。

今後、自動運転が進化して、ハンドルもアクセルもない車が出てくるとは思うが、車がそれだけになったらどんなに寂しいだろうかと友人に投げかけた。友人は即座に同意してくれた。加えて、私は自動運転と逆の進化も欲しいと言った。もっと操作が難しい車が出てきてもいいと、以前より妄想していたのだ。もっと創意工夫の幅があって、上達するのに時間が掛かる車があってもいいと感じていた。扱えるまでにどのくらい時間が掛かるか分からないが、自分で各車輪へトルクを配分したり、前後左右のサスペンションの硬さを調整したりできたら、人の運転能力が再び高められるのではないだろうか。こんなエキセントリックな会話と昭和な音楽を楽しみながら、箱根までの道のりを軽快に進んで行った。

箱根に入ってからのワインディングでの595は水を得た魚のようだった。高回転を維持しながら、山道をぐいぐい進んで行った。車の軽さの重要性を改めて感じるキビキビとした走りだった。チューニングされたエンジン音は、なかなか響きが良く、操る楽しさを引き上げてくれた。コーナーを曲がる度に、次のコーナーではどんな挑戦をしようかと前のめりになっていった。いつの間にか無口になり、運転に集中している自分がいたのに気づいた。2時間弱のロングドライブを経て、目的地に到着した。その後、友人と共にカフェでお茶をしたが、自然に囲まれながら、久しぶりの楽しいドライブの余韻を楽しむことができた。

帰り道は渋滞だった。そんな中、ぼーっと考えたことがあった。ナビゲーションがない頃、一度通った道は頭の中にどんどん記憶されていったのを思い出した。よく渋滞する場所なども確実に覚えていた。そして、紙の地図を見て抜け道を考え出しては仲間に自慢していた。車の運転に限ったことではない。少し前までは、どんな物事に対しても、人それぞれが持つ小さな得意技や小さな創意工夫が世の中に溢れていたと思う。最近は、だんだん何でもかんでも便利になり、誰かの得意技はどんどん自動に置き換わっているような気がする。もちろん、便利になることを否定するわけではないし、その便利を享受したいとも思う。

でも、小さな得意技や創意工夫を飛び越して、大きな得意技や創意工夫をいきなりできるわけではない。だから、たくさんの小さな得意技や創意工夫を生み出せる「場」や「機会」を無くしたくはない。そうした「場」や「機会」を活用すれば、少しずつ大きな挑戦に立ち向かっていくことができると思うからだ。たくさんの人が、大きな挑戦に向かう前の予行演習を積み重ねていくことができると思うからだ。車を操る難しさと楽しさ。これも得意技を鍛え、創意工夫を実践するひとつの「場」や「機会」だと思う。冒頭のコンサルティングでも同じだ。便利を享受することだけに夢中にならずに、小さくてもいい、創意工夫を積み重ねていく癖をつけてみたらどうだろうか。イノベーションへの道が開かれていくと私は信じている。

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きづきアーキテクト代表
長島 聡

早稲田大学理工学部にて材料工学を専攻し、各務記念材料技術研究所(旧・材料技術研究所)にて助手として、研究に携わるとともに教鞭も執る。欧州最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーに参画し、東京オフィス代表、グローバル共同代表を務める。2020年には、きづきアーキテクトを設立。「志を旗頭に得意技を集め、新たな価値を量産する」をコンセプトに、共創を梃子にした事業創出の加速化を目指す。経済産業省、中小企業政策審議会専門委員など政府関係委員を歴任。スタートアップ企業、中小企業のアドバイザー、産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト WG3 産業構造転換分野 委員、Digital Architecture Design Center アドバイザリーボード、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授などを務める。
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