menu
close
loading...
Special特集
close
Tags
share:
  1. top/
  2. Column/
  3. アートを通して考える人と自然の共生
Column

林信行が語るArtistic Inspiration vol.3

アートを通して考える人と自然の共生

author: 林 信行date: 2021/08/07

昨今の感染症の増加は、人間による自然環境の破壊が一因と言われている。昨年にはWWF(世界自然保護基金)が『失われる自然とパンデミックの増加』という報告書で、この関連を裏付けた。2011年のスティーブン・ソダバーグ監督の映画「コンテイジョン」は、コロナ禍の世界を予言したような正確な描写が目立つと評判だが、そのラストシーンでは自然破壊がいかに感染症を生み出すかをわかりやすく描いていた。

ミノムシがつくるブランド服のremix

西洋で発展した科学文明は自然を支配、制御することに重点を置いてきた。そしてその科学文明を基礎とした現代人は、たびたびそのしっぺ返しにあってきた。実際、コロナ禍直前の世界では、異常気象の猛威を巻き起こす地球温暖化の抑制が切迫した課題となっていた。

今、世界ではワクチンの接種が広がり、さまざまな国がコロナ後の世界に向け歩調を速めている。だが、我々がこのまま問題の多かった経済優先で自然を破壊し続ける世界に戻っていっていいわけがない。では、我々は自然とどのような距離感や共生関係を保てばいいのか。

そのヒントのいくつかは日本にある気がしてならない。西洋化が進んだ明治維新以前、日本では資源が足りない中で、いかにスマートかつ美しく生きるかの技がいくつも編み出された。日本の気候風土に合わせて工夫した使い方ができ、無駄を生まない日本建築や着物などはその最たる例だろう。もっと遡ると、有史以前に1万年以上つづいた縄文時代にも、自然をうまく味方につけ、生活に取り入れ、世界にも類を見ない平和な農耕社会を築いてきた痕跡がある。この時代には、既に犬を家族のように扱って、家族と共に埋葬する文化もあったという。

今回はそんな日本の現代アーティストの作品を通して、自然とヒトとの新しい関係性について思索してみたい。

犬の毛を私がまとい、私の髪 を犬がまとう/AKI INOMATA。ペットと人との関係についてあらためて問い、具象化するための作品。2020年2月に東京ミッドタウン六本木で開催された「未来の学校祭 “脱皮 / Dappi ―既成概念からの脱出―”」で撮影。

まず最初に紹介したいのは、生物の助けを借りて作品をつくるAKI INOMATAだ。彼女が2014年に発表した「犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう」はまさに犬と飼い主の親密さをテーマにしていた。INOMATA自身の髪の毛と、愛犬チェロの毛を数年にわたって集め続け、INOMATAの髪で犬用の衣服をつくり、愛犬の毛でINOMATA用の毛皮のコートをつくった作品だ。お互いの毛をまとい散歩をしている様子のビデオまである。

INOMATAは、この作品で「都市の環境に不似合いで奇異な動物を飼育することや、手に余って放棄することが横行し、大量の駆除や殺処分が行なわれる」という今日の人と愛玩動物との関係性に改めて目を向けさせたかったという。

貨幣の記憶/AKI INOMATA。5大通貨のお札に肖像画が描かれた 福沢諭吉、ジョージ・ワシントン、カール・マルクス、エリ ザベス女王、毛沢東の胸像を真珠にしてしまった作品。2021年春、MAHO KUBOTA GALLERY での「貨幣の記憶」展で撮影。なお、カール・マルクスは生誕200年を祝った2018年に擦られた記念のお札「0ユーロ」紙幣に肖像が描かれている。

今春、MAHO KUBOTA GALLERYで行われた個展「貨幣の記憶」では真珠貝とコラボレーションをした。「近代以前には貨幣としても使用された貝殻を現代の通貨と結びつけ貨幣の化石を作りだそう」とした試みだという。日本円、ドル、ユーロ、ポンド、人民元といった5大通貨のお札に肖像画描かれた福沢諭吉、ジョージ・ワシントン、カール・マルクス、エリザベス女王、毛沢東の胸像の真珠をつくるという作品だ。原始時代、非食用の貝に意味や価値を見出す人類の祖先がいた。彼らの心を打ったのは希少性なのか、自然の造形美への畏怖なのかは知る由もないが、原点まで遡れば現代社会の歪みを生み出している資本主義経済も、原点は自然とのコラボで生まれていたのだろうか。

girl, girl, girl . . ./AKI INOMATA。ミノムシにSOMARTA, UN3D., VIVIENNE TAMといったファッションブランドからもらった服をつくったときの端材を与えてミノをつくらせた作品。8月31日まで二子玉川の玉川高島屋で行われている「GRAND PATIO Library&Art」の前期展示で撮影。

AKI INOMATAは、他にも面白い作品が多いがあえてもう1つ「girl, girl, girl . . .」という作品を紹介したい。ミノムシとコラボした作品だ。その名の通りミノムシは小枝や葉などを集めてミノ(巣筒)をつくる習性がある。メスは、一生をこのミノの中で過ごし、このミノを使って蛾に成長したオスを引き寄せるのだという。この様子を、おしゃれな服で男性の気を引く人間の女性になぞらえたのが本作だ。SOMARTA、VIVIENNE TAM、UN3Dといったファッションブランドの服づくりで余った布の端切れをもらい、それをミノをつくっているミノムシに与えた。

できあがったのは、ブランドのドレスと同じテキスタイルでつくられたオシャレなミノ。ミノムシの雄どころか人間の目まで奪う美しさ、華やかさと楽しさがある。

広がるバイオファッションという新領域

BIODEGRADATION /ANREALAGE 2019AW。微生物が好んで食べる植物由来の糸と、そうではないリサイクル用の 糸を混合して服を つくり、あえて虫に食わせてつくった。「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」に応募した作品。8月末で閉店する福岡市天神の商業施設IMSで開催されたアンリアレイジ展覧会「AとZ」にて撮影。

実はつい最近、虫とのコラボによるファッションを別の場所で見た。日本を代表する若手ファッションデザイナー、森永邦彦が率いるファッションブランド、ANREALAGEの歩みを振り返ったアンリアレイジ展覧会「AとZ」でのことだ。予備校時代にファッションの世界に魅せられ、世界的活躍をするに至った森永のデザイナー人生を振り返る回顧展。虫とのコラボをした作品は、2019年、ファッションブランド帝国、LVMHの「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」のファイナリストに選ばれた際の作品として紹介されていた。

最近、ファッションの世界でも「サステイナブルやエシカル」と言ったキーワードが重視され、プライズでも重点項目となっていた。しかし、アンリアレイジのブランドとしては、そうした言葉が持つイメージを裏切る必要があった。そこで森永が選んだのがわざと服に穴を開けたり、色落ちさせる「グランジ」ファッションだった。「穴あきニット」のように緻密に計算して穴を開けるようなことはしたくなかった、という森永が目指したのが自然に虫が食った「穴あきニット」だ。

こうしてできあがった2019年秋冬の「BIODEGRADATION(生分解)」と名付けられたコレクションでは、ジャガード織り機をプログラミングして、微生物が好んで食べる植物由来の糸と、そうではないリサイクル用の糸を混合して服をつくった。残すべきところはリサイクル用の糸で構造を残し、微生物に食わせるところは、微生物が自然に虫食い穴をつくって花柄のレースやチェック模様を浮かび上がらせるという、まさに生物とのコラボで生まれた作品だった。

Biological Tailor-Made/Kazuya Kawasaki。2017年に開催されたYouFab Global Creative Awardsのファイナリストに選ばれ、AIやバイオテクノロジーを使って衣服を作り続ける川崎和也(Synflux主宰)の名を一躍有名にした作品。2018年に開催された慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2018「After the Next Society」にて撮影。

実は最近、こうしたバイオロジー×ファッションは多くの人が注目する領域の一つになりつつある。

もう少しアート寄り、サイエンス寄りなアングルからのチャレンジもある。現在、スペキュラティブ・ファッションデザイナーの肩書きで活躍をしている川崎和也が2017年のYouFab Global Creative Awardsで発表した作品の名前は「バイオロジカル・テイラーメイド」。3Dスキャンした身体を元にした型紙の上でバクテリアを培養。そうすることでできたバクテリアセルロースという繊維を衣服にするという作品だ。

テレビなどでもお馴染みのアーティストで研究者の、落合陽一が率いるDigital Nature Groupが2017年のMedia Ambition Tokyoで行った展示では、岩崎里玖、佐藤裕太、鈴木健太、鈴木一平そして落合陽一の5人のクレジットで「Silk Print」という作品があった。

Silk Print /Digital Nature Group。落合陽一 率いるDigital Nature Groupで岩崎里玖、佐藤裕太、鈴木健太、鈴木一平がつくったカイコを3Dプリンターにして絹のランプシェードをつくらせた作品。Media Ambition Tokyo 2017で撮影。

これは絹を吐き出すカイコを3Dプリンター代わりに使って、(服ではないが)ランプシェードをつくらせた作品。カイコはでっぱりのない平面に置くと、繭をつくらずに糸を吐き続ける性質があるらしく、この状態のカイコを3Dプリンターのプリンターヘッド代わりに利用してつくらせた形だ。

bioLogic。熱の影響を受けて形が変わる納豆菌を培養し、服についている弁の開閉をさせたダンサー用のスーツ。Lining Yaoがコンセプトを作り、納豆菌を正しい向きで埋めるための専用の納豆菌プリンターも開発。New Balanceなども協力した。ぜひ公式ページの動画を見て欲しい。

同様の試みとしてはMIT(マサチューセッツ工科大学)のMediaLabに所属する有名な研究者、Neri Oxmanが2013年に6500匹のカイコを計算して用意した骨組みの上に放ちつくらせたSilk Pavillionというプロジェクトもあった。

同じMIT MediaLabでは、さらに高度な他生物の利用も提示されている。「bioLogic」というダンサー用の衣服だ。石井裕が率いるTangible Media Groupの研究者、Ling Yaoがコンセプトを作ったもので、熱くなると形が変わる納豆菌の性質を利用して、ダンサーが踊って体温があがってくると服についている弁が自然に開いて放熱をするという機能を持った服になっている。

納豆菌が熱でどう変化するかをコンピューターで調べ、その変形によって弁が引っ張られるように、納豆菌を服の繊維に埋めていく。膨大な作業ではあるが、グループは専用の機械を開発してその作業を自動化した。

熱で弁を開閉させるような機構は、センサーやマイクロマシーン(微細な機械)を使っても実現できるだろう。しかし、そうしたマイクロマシーンを開発し大量につくるのと、納豆菌を培養するのではどちらがコスト的に安いかは容易に想像がつく。

中には、生物をまるで道具のように扱うこうした試みを聞いて残酷と思う人もいるかも知れない。しかし、人類が他生物の性質を利用して役立ててきた例はこれが初めてではない。

日本酒や醤油づくりに必須な「発酵」のプロセスも微生物の性質を利用したものだ。もっと大きな生物で言えば馬や牛と言った家畜は動力のない時代に農耕で使われていた。警察権や盲導犬の活躍は今日でも目にすることが多い。

では、他生物の利用はどこまでが許されて、どこからはよくないとされるのか。それを形にして提示し考えさせるのが、今回、紹介したバイオアートの作品だったり、バイオファッションデザインという新領域だ。

人と象の争いの終結描いた
アップル社のドキュメンタリー

人間と他生物の共生のあり方と大風呂敷を広げた物の、文字数の関係から今回は衣食住のうちの「衣」の例しかとりあげられなかった。しかし、「食」はまさに他の生物との関係がもっとも密接な部分だし「住」においても、20世紀に爆発的に増えた鉄とコンクリートでの建築を見直そうとするさまざまな動きが出始め、「建築(バウ)」、「生命(ビオ)」、「学問(ロゴス)」 を組み合わせた「バウビオロギー(建築生物学)」といった言葉も出てき始めている。

その年、地球が変わった/Tom Beard。この連載では私の写真のみを掲載するつもりだったが、この映画だけは素晴らしかったので特別扱いで写真はないが紹介したい。2020年コロナ禍で若い労働力が戻ってきていたからこそ実現できたインドでの人と象の共生の物語はこれからの地球環境を考える上で非常にインスピレーショナルだと思う。

最後に、ちょっとだけ「服」の事例から離れ、このコロナ禍に誕生した「人と自然」の素晴らしい共生の事例を紹介したい。

実はこのコロナ禍、1つのドキュメンタリー映画に衝撃を受けた。「その年、地球が変わった」というわずか48分のドキュメンタリー映画だ。監督はそこまで有名ではない英国のドキュメンタリー映画監督、Tom Beard(トム・ベアード)。ただし、ナレーションは自然ドキュメンタリーのナレーターとして世界的に有名なDavid Attenborough卿(デビッド・アッテンボロー)が務めている。制作はあのアップル社で、同社の動画配信サービス、Apple TV+用に製作したものだ。私はこの映画こそが2021年のアップルの最高傑作になると確信している。今年、同社がどんなiPhoneを出しても、歴史を超えて振り返られることが多いのは、この映画の方だと思うからだ(それだけにApple TV+でしか見られないのは、少しもったいない気がしている)。

映画の8割は、コロナ禍における世界各国での自然の回復の様子だ。日本からも奈良の鹿たちの映像が登場する。もはや、回復は難しいと思われていた自然の営みが、人間がわずか半年間、活動を控えただけでここまで蘇えるのかという驚きの連続だった。

しかし、一番衝撃を受けたのは最後のインド、アッサム州で象との共生を探った試みだった。同州のある農村では毎年、収穫時期になると山から象が降りてきて農民たちがつくった作物を食い荒らして甚大な被害を与えていると言う。現地の農民にとっては死活問題だ。実際にインドではこうした人と象との争いで年間400人の人間と100頭の象が命を落とすという。そんな中、自然保護活動家のMeghna Hazarika(メグナ・ハザリカ)とDolu Bora(ドゥル・ボーラ)の提案で、ある村で人間用の作物とは別に象が住む森林に近い耕作地に象用の作物をつくる田んぼをつくり、収穫時期の前にはその作物を象に捧げる儀式をも行うと言う案だった。ちょうどコロナ禍で若い労働力が、村に帰省していたので、彼らが中心になってこの作業を行ったと言う。

まるで太古の農耕社会のようだが、果たしてこれが功を奏す。夜、村人たちだが恐る恐る見守る中、象用の作物を食べて十分に満足した象たちは人間用の農作物を一切荒らすことなく森林の奥へと消えていくのだった。このシーンに感動して映画を巻き戻してもう1度見ると、そもそも象の生息地の95%が人間の開発によって侵食されていたことが触れられていてハっとさせられた。

これと同じことが何十年にもわたって世界規模で、行われ続けてきたのだと思う。

コロナ後の世界、これまで通り経済合理性と科学で自然を支配する世界に戻るとしたら、それは目も当てられないほど愚かしいことだ。まだ終わらないコロナ禍は、今からでも人と自然の共生のあり方を再考する猶予を与えてくれており、インターネットでも見つけられるバイオアートの作品群が、そうしたものについて考える良いヒントを与えてくれている。


author

テクノロジージャーナリスト
林 信行

未来の風景を求めて1990年にテクノロジージャーナリストとして活動を開始。パソコン、ネットインフラ、ネットビジネス、スマートフォン、タブレットの最新トレンドや企業動向を取材し、さまざまな媒体で発信。アップル、グーグルなど米国IT大手の経営者やデザイナーの取材で知られる。iPhone登場後は、テクノロジーと良いデザインの両立の重要性を訴え企業向け講演やコンサルティング活動を開始。現在はAI全盛時代を見据え「22世紀に残すべき価値」を基軸に現代アート、地域と伝統、教育など広範なテーマを取材。ソーシャルメディアを中心に発信中。REVOLVER社社外取締役、ダイソン財団理事、金沢美術工芸大学客員教授。
contactcompany&staffadvertisingterm of useprivacy policy
Follow us!!
Copyright © Connect Beyond. All Rights Reserved.