未来のために貯金や投資をすることはもちろん大事だけれど、時には人生を変えるような、大きな買い物をすることも必要だ。仕事をグレードアップするもの、生活を豊かにするもの、遊びを満喫するもの…。気になるあの人は、何をどんな決断で買ったのだろう。
今回、人生最大金額の買い物を教えてくれたのは、フォトグラファーの井崎竜太朗さん。写真を生業にしていくなかで、彼が選んだ買い物とは?

井崎竜太朗
福岡県出身。2016年より拠点を東京に移し活動し、広告、ファッション、音楽シーンなど様々な分野で撮影をしながら、自身の作品制作や展示活動にも力を入れている。近年では、“色と形の採集”をテーマとした『ensemble』、『sampling』などの展示がある。2022年9月に2作目となる写真集『ONE ANOTHER』を出版。
Instagram:@izryu
HP:https://www.izakiryutaro.com/
30歳になってできた余裕。写真を学びに行こうと思った
人生最大金額の買い物は、名古屋で開催されていた写真のワークショップに通ったことと暗室を作ったことですね。ワークショップの費用や東京から名古屋までの移動費、暗室を作るために購入した引き伸ばし機やその他の用品、そして暗室のために引っ越しも……。約100万円の金額をかけました。もちろん一瞬でなくなった金額ではありませんが、トータルでは人生で一番お金をかけたと言えますね。

名古屋市内にある〈.LAB RAINROOTS〉という暗室兼ギャラリーで、月に1回で全11回のワークショップがあって。それをネットで見つけて応募したのが始まりです。東京でも単発のワークショップを受講したことはあるのですが、 “写真はこうじゃないといけない”という考え方はあまり僕には合わなかった。しばらく月日が経って、もう一度暗室について学びたいと思ったとき、ネットで見つけた〈.LAB RAINROOTS〉の教えや掲げている文言に心がフィットしたんです。

プロセッサーなどの大きな機械ではなく小さなトレーなど手作業でカラー写真を現像できることや、最終的に暗室を作るプランを相談に乗ってくれることがそのワークショップの内容でした。僕に合ってそうだし、いいかもと思って受講しようと決めました。2023年の秋から講座が始まりました。

僕は、写真にまつわる学校にも通っておらず、スタジオ勤務も経験していないので、独学で今にいたります。自分のためになることや経験にプラスになりそうなことには、お金を払いたいと徐々に思うようになりました。
20代の頃は主に本から写真を勉強して、実践し、がむしゃらに生きてきて仕事も少しずついただけるように。30歳になってお金にも時間にも余裕が持てたとき、きちんと写真を学びに行こうと思ったんです。

それに、紙に焼き付けて像を作るというオールドスタイルに憧れがあって。現代の技術ではコンピューター上で像にすることが可能です。ですが実際に自分の手でやってみたらどうなるだろう、と興味がありました。その領域に行ってみないと、自分の気が済まなかったんですね。そういう内側の気持ちも存在します。

ワークショップに通うことは、割とスパッと決断しましたね。というのも、受講前、既に引き伸ばし機を買っていたんです(笑) 自分で暗室を作ることに対して、後に引けなくさせていましたね。ある意味で悩んだりせず、衝動的だったのかもしれません。
どこまでいっても、写真へお金を費やしていきたい

大金をかけてワークショップを受講して、もちろん写真や暗室作業について深く学べたことも良かったのですが、それ以上に知り合いが増えたことは嬉しかったですね。仕事では一度きりの出会いが多く、プライベートでもなかなかこの年で新しいコミュニケーションは生まれなくて。
同期の3人とは毎月会うので仲も深まり、ワークショップ後も連絡を取り合ったり、東京に遊びにきてくれたり。〈.LAB RAINROOTS〉にも、名古屋での撮影があればふらりと寄って、何時間も話し込むこともあって。展示もさせてもらいました。それに、東京から名古屋へ月に1回行くことはメンタルフレッシュになっていたように思います。

お金を費やさないと得られなかった、知識や出会いは本当に、人生で得たものの中で大きいです。知識は、絶対に無駄にならないから。ですが学んだ知識をそのままアウトプットするのではなく、いかに自分仕様にするのかは大切かなと思っています。

これからお金をかけたいのは、やっぱりどこまでいっても写真にまつわることです。展示も、写真集の制作も、お金が必要です。そこにかけていきたいと思っていますね。今は3年ぶりに作品集を作っています。
今後、時間にも余裕が出来たら、英会話を学びたいですね。撮影でモデルともコミュニケーションがとりやすくなりますし、海外で写真を撮るときに、必要だと思うので。

自分で自分に満足することは、永遠にないと思うんです。自分が良いと感じるものが、別の人から見たら全然良くないということがある、それが写真の世界なので。第三者視点を持ちつつも、誰かの軸ではなく自分が良いと感じるものを、大切にしていたいです。
Text&Edit:久保泉