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ウェルネス

スマホの代わりに土を触りたい!

いま、ユース世代が畑に集まる理由

author: 佐藤伶date: 2025/07/18

家族でも仕事仲間でもない、ただただ畑に惹かれた20〜30代が集まる鎌倉の畑コミュニティ「オイシクナーレ」。

体を動かしたい、太陽を浴びて時差ぼけを治したい、おいしい野菜が食べたい、土いじりしながら友達とおしゃべりがしたい。ユース世代が畑に集まる理由は、思っていた以上にいろいろなようだ。

「むしろ、畑がやりたいっていう動機で来る人は少ないかもしれない。でも、一回やるとみんなハマっちゃうんです」

いま、ユース世代が畑に惹かれる理由ってなんだろう? 「オイシクナーレ」の中でも活動歴が長い7人に聞いた。

オイシクナーレ

鎌倉で畑を運営するコミュニティ。固定種・在来種の野菜を中心に、できる限り農薬や化学肥料を使わない栽培を実践。週末を中心に活動中。写真上段左から聖莉香さん、綾音さん、春さん、芽生さん、下段左から大地さん、萌花さん、花生さん。

Instagram:@oishiku.na.re

友達づてで広がった畑初心者集団

──まずは、自己紹介をお願いします。

芽生:服部芽生です。ふだんは写真家として活動していて、「オイシクナーレ」の発起人でもあります。

萌花:私はもともと金融機関の職員として働いていたのですが今はお休み中です。芽生ちゃんの高校の同級生で、初期メンバーということもあり運営にも関わっています。

綾音:綾音です。保育士です。私も運営メンバーです。

花生:芽生の妹です。姉が畑を始めるタイミングでほぼ強制的にメンバー入りしました(笑)。普段はIT企業でマーケターとして働いています。

大地:大地です。自動車メーカーの営業をやってます。芽生さんとキックボクシングの習い事で知り合って、声をかけてもらいました。

:春です。芽生ちゃんと綾音ちゃんの友達で、クリニックで管理栄養士をやっています。

聖莉香:私は航空会社の客室乗務員をやっています。同級生の花生ちゃんが誘ってくれたのをきっかけに参加しました。

──みなさん、お仕事も参加のきっかけも結構バラバラなんですね。

芽生:昔からの知り合いや習い事、仕事で知り合った人、地域の人など、友達が友達を呼んで輪を広げてきました。完全な初心者集団です。

──そもそも「オイシクナーレ」が始まったきっかけを伺えますか?

芽生:私は仕事柄、地方に行くことが多いのですが、知り合った地域の人から野菜をいただくことが多かったんです。そんななかで、野菜だけではなくて苗をいただくこともちょこちょこあって。

最初は「なんで苗!?」と思っていたんですけど、本業が農家じゃなくても、小さな畑で自分たちで食べる分だけ育てている人たちが、けっこういるんだなってことを知ったんです。

でも、私はもちろん畑を持ってないしやったこともないから「苗をもらっても困るなあ」なんて思ってたら、習い事で知り合った人が「ちょっと畑やってみる?」と声をかけてくれて。

とりあえずその畑で1年くらい試行錯誤しながらやってみて、自分たちでもできそうだなと自信がついたので、場所を変えて2年くらいやってきたという感じです。

──最初は芽生さんお1人で?

芽生:いや、最初に畑を始めた場所が萌花ちゃんの家からめちゃくちゃ近かったので、「一緒にやらない?」とすぐに声をかけました。

萌花:もともと家の庭でハーブやお花を育てて、植物の成長を見守るのが好きだったんです。野菜を育てるのは考えたこともなかったけど面白そうだなと思って、芽生ちゃんや綾音ちゃんと3人で本を読んだり農業系YouTuberの動画を見たりしながら手探りで始めました。

──今はどのくらいの頻度で活動していますか?

芽生:基本は週1。平日はみんな働いているので、土日のどちらかでスケジュールを決めて、来られる人を募っています。

萌花:「今日やること」を事前に運営メンバーで考えて、その日集まった人たちで作業をする感じです。今日は8時スタートでしたが、もう暑いので来週からは5時半スタート。作業して8時にはみんなで朝ごはんを食べて解散、というのが夏の定番です。

朝から“いいことしてる感”が気持ちいい!

──健康的で楽しそう! 今日集まっているメンバーは活動歴が長いと聞いています。皆さんが畑にハマった理由を教えてください。

大地:僕は最初、芽生さんに分けていただいた野菜に釣られて始めました(笑)。畑仕事は結構、運動になるのがいいなと思って続けています。土を耕すときや草刈りするとき、機械が結構重いからそれなりに体力を使うんです。

平日にキックボクシングの習い事を入れていたんですけど、残業でサボっちゃうことが多かったので、今は毎週の畑作業が体力維持のベースになっていますね。

聖莉香:私は客室乗務員として働いているので、狭くて人の多い密閉空間にいる時間が長いんです。それを考えると広くて人が少なくて、空気のおいしい空間にいられるこの時間がすごく幸せ。

時差があると体の調子も狂うから、太陽を浴びてリフレッシュできるのがめっちゃいいですよ。とにかく気持ちがいい!

大地:そう、気持ちがいい! 洗われる感じというか、“いいことしてる感!”がある。この気持ちよさが大変さを上回るから続けられています。

花生:私もふだんの仕事とは真逆の環境です。基本室内で電子機器しか触ってなくて、自然のものに触れるのは、極端に言えば、お手洗いのお水くらいです(笑)。土に触れて、風を感じて、畑は自分の1番身近にある現実逃避できる場所だと思います。

あとは、ものにもよりますが、野菜って種や苗を植えてから収穫までの“季節ごとのサイクル”が自分にとってはすごく心地いいなと思っています。普段の仕事では、何年もかけてようやく形になることが多くて「これ、なんのためにやってたんだっけ......」とたまにわからなくなる時があって。

でも野菜は季節のうちにちゃんと育って、形になってくれる。しかもおいしい! 成果が見えやすいって、すごく嬉しいことだなと思います。

──おいしいって大事ですね!

芽生:オイシクナーレの中に「料理部」っていう部活があって、冬は豚汁、夏はカレー、バーベキューとか、収穫した野菜をみんなで食べる機会も設けています。「料理部」といえば、春ちゃんだね!

:私はふだん管理栄養士の仕事をしているので、食材にはもともとこだわる方だし料理を考えるのも結構好きなんです。収穫した野菜で料理して「こんなふうに使ってみたよ~」とみんなによく共有しています。

料理部の活動の様子(オイシクナーレ提供)

綾音:私たちはできるだけ自然に近い栽培をしているので、予想外にたくさんできちゃったり、今回のきゅうりみたいにすごい大きくなっちゃったりして驚くことが多いけど、それを「どうやったら上手に消費できるかな?」ってみんなで知恵を出し合うのも楽しいです。もうスーパーで野菜を買わなくなりました!

:みんなで作ったものだと思い入れがあるから、味わって食べられるし、採れたてはみずみずしくて本当に格別においしい! 食が豊かになるな~と思います。

萌花:スーパーでは見れない野菜の姿を見れるのもおもしろいです。実はパクチーのお花って可愛いんだなあとか、二股とか変な形の野菜も愛しいです。

──今年の夏はどんな野菜を育てているんですか?

芽生:夏は結構種類が多くて、きゅうり、おくら、ナス、ピーマン、にんじん、じゃがいも、トマトなどの夏野菜、空芯菜やモロヘイヤなどの夏の葉物、生姜、あかしそ、パクチー、唐辛子、パセリなどの香辛料もみんなで消費できる分だけ栽培しています。

誰が来ても出ていってもOK

──逆に畑をやっていて大変なことってありますか?

芽生:最初はほんと失敗することばっかりでした。いくらネットで調べても実際やってみないとわからないことが多くて。やっぱり鎌倉に適している野菜や品種というものがあるから、他の地域でやっていることを真似てもうまくいかなかったり。

実は私たちには本業農家の師匠がいるんです。若い人たちが畑に集まっているのがめずらしいのか初めの頃から温かく見守ってくださっていて。自分たちで調べつつも、わからないことは師匠に聞いて、一緒に作業をしています。

最初は少し緊張していたのですが(笑)、今では私たちが集まると、その季節の野菜を分けてくださったり。私たちにとって、とても頼りになる存在です。

萌花:大変なことといえば、やっぱり虫かな......。私、本当に虫がダメで。自然に近い栽培だとどうしても「これは食べれないね」ってくらい虫がたくさんついちゃうことがあって、それはもうトラウマ級。その後3日間くらいは黒い点が虫に見えちゃう後遺症が残ります(笑)。

芽生:虫は萌花ちゃんが1番ダメだね(笑)。

萌花:まあでも、多少慣れてきてるのかな......。家に虫がいるのは耐えられないけど、畑にいる分にはちょっと見過ごしたり、さっと掃けたりすることはできるようになりました。

──家族でもなく、職場の人たちでもないコミュニティをうまく成り立たせる上で、何かルールや意識していることはありますか?

芽生:友達づてのコミュニティではあるから信頼できるし、優しい人たちが自然と集まってくれていて、特にルールはないですね。無理せず楽しくやるのが1番だと思ってます。来たいときに来て、忙しいときは無理しなくていい。誰が来ても出ていってもOK。生活の延長に畑がある暮らしを多くの人に体験してもらえるのが大事かなって。

でも、これがもし生産して販売するとかってなると話は変わってくると思います。形や品質を揃えるためには相当な手入れが必要になるので。農家さんってほんとうにすごい、と毎回思います。

私たちはあくまで自分たちで食べる分を作るだけだから、たとえ変な形になっちゃっても、虫に先を越されたりしても、まあそれはそれでいいかなって。週1でできる範囲でやっていければいい。

萌花:たまにしか来れない人でも、その日の作業を手伝ってくれたら全然OKだよね。気楽に参加できる体制にはできていると思います。

作業中は誰もスマホを見ないし、見たいとも思わない

──今回、「オフライン」をテーマにした特集で畑にお邪魔したのですが、みなさんはオフラインが恋しくなることってありますか?

:スマホを触ってるだけですごく時間が経っているときは、損したなって気持ちになります。

萌花:ずっと同じものを見てると時間感覚がなくなって「今日何してたんだろう......」って。そういうときにオフラインを求めるかな?

芽生:家でPCにずっと向き合っていると、脳みそが熱くなって、ショートしそうになることがあって。

それでいうと、畑は完全にオフラインだよね。今日も作業してた数時間、誰もスマホ触っていないし、触りたいとも思わない。畑にくるとリセットされる感覚があります。

大地:スマホの代わりに土を触ってくるとなんか落ち着いてくるんだよね。

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萌花:SNSで人の近況を眺めてると、自分と比べて焦ったり落ち込んだりしちゃうことがあるけど、畑で作業してると自然に意識が自分に向く感覚があります。精神の健康にもすごくいい。

綾音:作業中はみんな無心でやってることが多いよね(笑)。あとは、ここに来れば必ず友達がいるから、日常の何気ない話とかも聞いてもらえる。

聖莉香:友達とご飯行こうってことはあるけど、「畑で会おう!」ってなかなかないですよね。気持ちのいい自然の中で作業しながら話せるのはすごく楽しいです。

──オフラインになる手段としての畑っていいですね。

芽生:そうですね。リフレッシュになるからとか、運動になるからとか、オフライン的な体感や人とのつながりを求めて畑に来る人がほとんど。だから、畑の知識がなくても「オフラインの趣味が欲しい!」くらいの精神で始めるのも全然アリだと思います。

──畑に興味がある人は何から始めるといいと思いますか?

芽生:ホームセンターで苗を買ってプランターで育てて、1回食卓に並べてみる。新鮮だし、自分で作ったものだから、いつものご飯よりおいしく感じられるし、それを一度でも体験すると、もっとやってみたいなってモチベーションが上がると思います。

あとは市民農園、農業体験とか、調べてみたらいろんな形の畑があると思うので、そこにちょっと遊びにいってみるのもいいと思う。畑って意外と暮らしの延長線上にあって、自分のペースで始められるんだなってことが伝わると嬉しいです。

──今日は素敵な時間をありがとうございました!


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ライター・編集者
佐藤伶

95年生まれライター・編集者。webマガジンの編集を経験した後フリーランスへ。「小さな主語」を大切に、主にインタビュー記事を執筆。 関心テーマはメンタルヘルス、女性の働き方・生き方、家族やパートナーシップ。趣味は旅とバレエ。犬も猫も好き。
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