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「志」を旗頭に、新たな価値を量産する

コンサルという仕事の未来と本質

author: 長島 聡date: 2021/10/11

企業が持続的に収益を生み出していくために練るのが事業戦略だ。一昔前は競争戦略とも言われてきたが、熾烈な競争の中で、いかにして勝ち残るかを経営陣が考え抜いて作り上げる。そんな戦略づくりの一旦を担うためにアメリカで生まれたのが戦略コンサルタントだ。日本には、40年前くらいから一部の大企業に認知される存在になった。その後、大企業の戦略作りに若い頃から取り組めるという魅力もあってか、日本でも数十年前くらいから人気の職業になってきた。果たして現在の若者に対しても、そのポジションを維持しているのだろうか。

ざっくり分けると、これまで戦略コンサルタントには、「先生」と「パートナー」の2種類があったと思う。それぞれが、どのくらいの比率で世の中に存在しているかは定かではないが、私が経営していた会社には、「パートナー」を志向するコンサルタントが多かったように思える。もちろん、どちらが良い悪いではない。クライアントには好みがあって、「先生」にしか頼まないクライアントもある。もちろん逆のパターンもあるし、テーマによって使い分けるクライアントもいた。

クライアントが「先生」を活用する場合は、ベンチマークを起点として戦略を構築することが多かった。視野が広く、経験も豊富なコンサルタントが導く「正解」を欲しているのだ。その「正解」を叩き台にして、自社の戦略を考えていく。ゆえに、これまでの成功パターン、これからのトレンドやその先頭を走る強者の戦略など、世の中に既に存在するありとあらゆるファクトを綿密に調査して、手堅い王道の戦略を論理的に取りまとめていく。隙がないかも徹底的にチェックしていくと共に、世の中の流れを読みきれない部分については、シナリオに分けて戦略を組み立てていく。

「先生」がよく求められるテーマは、業務改革やコスト削減など、既存業務の効率化が多い。クライアントの業界以外でも同様の経験をしてきたコンサルタントは、明らかに、効率化に資する方法論の数が多いからだ。このクライアントには、どれが効きそうかの目利きもできる。しがらみのない第三者という強みも発揮でき、合理性を突き詰められる。従って、自前でやるより、効率化やコスト削減の効果が確実に大きくできるのだ。クライアントは、費用を掛けてでもすぐにでもやるべきだと感じているのである。

一方、クライアントが「パートナー」を求める場合、新価値創出が多い。まずはやりたいことのヒアリング、つまり話を聞くことから始める。クライアントのチームが持つ仮説やこだわりを引き出すのが最初の仕事だ。ただ、それらは誰にでも伝わる状態で整理されていない場合も多い。かなり抽象的なままで、質問力や妄想力無しには理解できないのだ。従って、ヒアリングを重ねる中で、具体的なシーンの絵を描いたり、やりたいことのイメージを色々な方向に広げたり、頭の中にあるものを言語化することに注力する。

多くの場合、コンサルタントも自分だったらこれをやりたいと、アイディアをどんどん加えていく。単に関連するファクトを集めればどうにかできるものではないので、中々作業の終わりは見えない。また、クライアントとの共同作業が基本なので、相性が悪かったりすると致命傷になる。困難を乗り越えて、うまくやりたいことの輪郭が固まれば、ようやくビジネスモデルの具体化に入れる。そこからは、世の中に既にある顧客価値との違いを際立たせるために、様々な工夫をしていくのだ。

こんな戦略コンサルタントの世界だが、世の中が多様かつ複雑になっていく中で、今後どのような需要の変化が起こるのだろうか。引き続き、「先生」を求めるプロジェクトや効率化をテーマにしたプロジェクトは多いと思う。新たな事業を興していくためには、ヒト・モノ・カネといったリソースが間違いなく必要になるからだ。ただ、今後明らかにニーズが増えてくるのは、新たな価値の共創を求められるプロジェクトではないかと思う。既にその兆候はある。様々な企業がオープンイノベーションやスタートアップ投資に積極的だ。ただ、なかなか既存売上に並ぶ可能性を感じさせる事業を生み出せず、スタートアップ支援に留まっているのが現状だ。

成熟した社会の中で新たな価値を生みだす。難易度の高い取り組みだけに、クライアントには業界のベンチマークではなく、非常識を届けることが求められる。クライアントは、業界の非常識や新たな視点を取り込んで、新たな価値、未来の常識を生み出すことなしには、成長の道を開くことができないからだ。これまでのコンサルタントは、事業の成功パターンをクライアントに上手くカスタマイズして戦略に仕立ててきた。これからは社内外を問わず、既に世の中にあるものを巧く組み合わせて、社会に望まれる価値を素早く生み出していくことが求められる。さらには、こうした新価値創出のプロセスを通じて、クラアントが事業化のコツや仲間を次々に獲得していくことが大事となる。

未来のコンサルティングの中で、コンサルタントに最も求められる能力は好奇心だと思う。能動的に多様な企業や商品・サービスに触れて、それぞれの機能や用途について自分なり手触りを持っておける能力だ。加えて、日常の生活の中でふと感じた「生活を、社会をこうしたい、こうなったらいいな」を、頭の中にストックしておく。自分だけでなく、様々な人の「いいな」を集められるとなお良い。また、いざという時にこれらの気づきを引き出し易いように整理しておく工夫も必要だ。そうすれば、クライアントからの相談に対して、瞬時にたくさんの使える選択肢を頭の中から引き出せるからだ。様々なクラアントとのプロジェクトを重ねていくうちに、指数関数的に使える選択肢が増えていくのを実感するだろう。

最後に、コンサルティングという事業の事業構造について触れておく。これまでは大企業相手、しかも多くは既存事業というスケールがはじめから効く事業をベースにプロジェクトを実施していた。生み出せる収益インパクトは当然のように大きい。故に、プロジェクト当たりの単価は極めて高く設定できた。

これが新規事業となると、はじめから大きな単価は期待できない。本質的には先行投資能力の高い大企業でも同じだ。そうなると、やるべきはより多くのプロジェクトを並行して手がけることだ。その分単価を低くできる。もし前述の通り、瞬時に選択肢をたくさん出せれば、生産性は極めて高まり、低いプロジェクト単価でも問題ないはずだ。時間単価はむしろ高くできるかもしれない。どうしても不足する分は、ストックオプションなどの成功報酬的なものを加えておけば良い。タイミングは後になるが、大きなゆとりが生み出せる可能性もある。

どれだけのコンサルティング会社がこうした事業構造に移行するかは未知数だが、これからは好奇心があり、新規事業の立ち上げ経験が多数ある人材が求められると思う。人や企業をつなぎ合わせるハブになれる人材だ。でもふと思う。こうした人材はこれまで以上に企業や組織に属する必要はないかも知れない。最初にこうした人材になるために、戦略コンサルタントという職業を選ぶのはもちろんありだ。

でもある程度、力を付けたら自らの活躍するフィールドは自らで選んで欲しいと思う。ただ、自分が卒業した会社との繋がりも必ず維持して欲しいと思う。自分が使える強力な選択肢のひとつとしてどんどん活用していく。コンサルティング会社とそんな付き合い方のできる人材が増えるのが楽しみだ。世の中にどんどん新たな価値を創造して欲しい。

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きづきアーキテクト代表
長島 聡

早稲田大学理工学部にて材料工学を専攻し、各務記念材料技術研究所(旧・材料技術研究所)にて助手として、研究に携わるとともに教鞭も執る。欧州最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーに参画し、東京オフィス代表、グローバル共同代表を務める。2020年には、きづきアーキテクトを設立。「志を旗頭に得意技を集め、新たな価値を量産する」をコンセプトに、共創を梃子にした事業創出の加速化を目指す。経済産業省、中小企業政策審議会専門委員など政府関係委員を歴任。スタートアップ企業、中小企業のアドバイザー、産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト WG3 産業構造転換分野 委員、Digital Architecture Design Center アドバイザリーボード、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授などを務める。
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