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北海道・真駒内にそびえ立つ巨大なカヌレ!?

「あなたを待っています」巨大頭大仏ドームから建築を考える

author: 高橋 正明date: 2023/01/29

北海道、札幌市の中心部から車で1時間弱、真駒内(まこまない)の平野に鎮座するコンクリートの大仏がある。正式名称を「頭大仏(あたまだいぶつ)御廟」といい、2016年に完成した。大仏を囲むようなドームと周辺の建築を設計したのは、世界的に活躍する建築家・安藤忠雄氏。札幌の人気の観光名所であり、観光バスの立ち寄りスポットで、SNS発信者にとって格好の撮影場所である。国内外から好奇の目で見られ、その形状から大仏ロボの秘密基地と評される。訪問者の大半は観光客であり、霊園の仏事以外の目的で施設を見学に訪れる人は少数だろうと思われる。札幌が冬支度を始める12月初旬、ここを訪れた筆者はいわば珍景とも扱われる、このシンプルで不思議な建物から建築について考えてみた。

建築には明解な設計文法がある

壮大な建築は容易に人を寄せ付けないことが多い。ヴェルサイユ宮殿を訪れたことのある人ならメインの宮殿に行き着くまでの道がいかに長く手間取ったかを覚えているだろう。宮殿ならまずはそれを建てた権力の権化であり、馬車を持たず徒歩でたどりつくことなど想定されない。寺院もまたそうだ、山道や階段で一旦人を遠ざける。壮大な伽藍はその存在感で人を圧倒し、聖なるもの威光を体現する。それはまた建築、建造物が本来的に持ちうる特質でもあるのだが。

この頭大仏のドームもそう簡単にはアクセスできない。駐車場から迂回して参道の入り口へ、さらにその参道を50mほど歩くと水庭(約16 m×60m)の水庭に行き着く。本来ならば、水庭のヘリを、左右いずれかから迂回してさらに直進することになる。訪れる人は水庭に映る空や雲を見ながら、浄化されて非日常の世界へ入る。そのための結界が水庭という趣向だ。

ここに水が張られるのは11月から4月の間で、筆者の訪問は冬だったため単に雪に覆われた空地となっていたのは残念。荘厳な気分は味わえなかった。水庭とは建築でよく使うもので、英語でいえば「リフレクション・プール」。周囲を鏡面のように映し込む環境的な演出装置である。

自然との調和を目指す安藤建築で、水との親和性をもつ構造や水庭はミュージアムなどでしばしば用いられてきた。京都の高瀬川沿いにつくられた親水空間的な商業施設「TIME‘S」や代表作のひとつとして知られ、あたかも水に浮いているかのように見えるアメリカの「フォートワース現代美術館」も思い出される。最近の例では秋田県立美術館にも水庭がある。

ここの水庭では左右両端には円柱形のパビリオンがあり、向かって左側はカフェ&ショップ(安藤氏の作品集も販売している)、右が頭大仏御廟(供養施設と納骨堂)となっている。

水庭を挟んだ二つの参道の端にはゲートのような柱と壁があり、ここだけを見ると鳥居や古墳や大陸系の墓所を連想する。また上空からみたGoogleの俯瞰画像では古墳を思わせる。水庭に水が張られればいかにも安藤的な風景が見られる。

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参道をさらに40mほど直進するとやがて山道はトンネルとなって大仏殿へと続く。

地上でありながらも地下に潜るような雰囲気が、また安藤建築の「地下的志向」を感じさせる。安藤建築では地階が効果的につくられインパクトを感じさせるものが多い。筆者の個人的なイメージとして言うなら、安藤建築の多くはどこか荘厳な「地下墓地」とでも言いたくなるような空間が少なくない。

時に広々としながら、時に狭く、時に天井は高く、また時に低い——。あたかも胎内めぐりのような空間がさまざまなスケールとボリュームで構成されている。

先に述べた訪問者を迂回させる水庭について言えば、そのトラフィックは表参道ヒルズの内部での”じれったい”(順路にあえてショートカットを設けない)回遊トラフィックを連想させる。安藤建築の作品リスト中で「頭大仏御廟」がどのように扱われているのか知らないが、はからずも安藤建築のエッセンスをシンプルに集約しているのは面白い。

ブッダとモアイとストーンヘンジ

あえて薄暗くしたであろう照明のない横長のコンクリートのトンネルを抜けるとドームである。胎内めぐりの終着に大仏があるわけだ。ウィキペディアによれば、アプローチから13.5mあるらしい。大仏はコンクリート製で高さ13.5m、重量1,500t。上にはまるで世界最大の石造建築物、ローマのパンテオンのような円形の開口があり、そこから頭を少しばかり外に出すかたちで鎮座している。周囲は打ちっぱなしコンクリートの壁。

背後に回って像の全体をみると灰色の「巨大なカヌレ」のようだ。もともとは、大仏が先にでき、屋外に置かれていたが、霊園を経営する公益法人が、開園30周年を記念する事業として安藤忠雄氏に設計を依頼した。大仏殿を建て、この大仏全体を覆っていたら、どうなっていただろうか。大仏を生かす手法としては弱かっただろう。

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総面積は54万坪と、北海道では最大規模の広大な霊園で、安藤氏が「これほど広大なランドスケープは初めてだ」というほどのビッグスケール。そして、誕生したのが何万株ものラベンダーに覆われた丘からちょこんと頭の先を覗かせる大仏のドーム。これでこそ頭大仏たるゆえんであり、アピール度が高い。

その隠れ具合は絶妙だ。頭の上に雪が綿帽子のように積もった大仏の写真は特に好まれるとみえて、ネットのあちこちで散見される。

大仏の周囲、大仏の足元には普通サイズの石仏などが配置されているが、ここはある意味で展示空間であり、中国語、タイ語などさまざま言語でのメッセージが書かれた献灯や絵馬などがあり、やや雑然とした印象である。大仏の前に集合して写真を撮る外国人観光客も多いが、彼らの滞留時間はさほど長くはない。屋外なので冬の寒さはそれなりだ。

冬の訪問ゆえに想像するしかないが、春から初夏にかけて丘のラベンダーが開花した頃に見れば、さぞ圧巻だろう。真駒内滝野霊園のパンフレットのキャッチフレーズは「ラベンダーと大地の合同葬」である。

来た道を戻れば、霊園入り口のモアイ像が見える。バスでの来園時には列をなして並ぶ総勢33体のモアイ像に出迎えられた。こちらも撮影スポットとして人気のようだ。さらにはストーンヘンジまである。これが実は永代供養墓なのだと知って少々驚いた。

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御廟で7年間経ったお骨がここに合葬され、ストーンヘンジの銘板に俗名が刻印される画期的な仕組みなのである。ブッダとモアイとストーンヘンジ、万物に神が宿るという汎神論の国、日本では違和感なく受け入れられるスマートな霊園である。

人は建築に集まる

今回、頭大仏へは地下鉄·真駒内駅からバスで来たのだが、来る途中に、実はもっと大きな仏像にも遭遇していた。日本最大、全長45mの黄金色に輝く寝仏、涅槃仏である。冬でありながら、そこだけがまるでタイのような奇妙な風景。場所は頭大仏からそう遠くない佛願寺という寺である。

佛願寺大涅槃聖堂の涅槃仏は、1980年代後半にオープンしたリゾート施設のモニュメントとしてつくられたものらしい。このバブル物件が破綻した後、どういう経緯か本来の居所を見つけたかのように佛願寺に安置されることになった。当初はそのキッチュさに地元民を呆れさせたブッダだが、今や信仰の対象、観光スポットとして、何がしか地域興進に貢献することになっている。頭大仏と連動してすでに人気があるのかもしれない。

建築物というものは不思議なものである。現代建築の巨匠、フランク·O·ゲイリーがスペインの衰退都市、ビルバオに建てた美術館、グッゲンハイム·ビルバオは、ゲーリーの代表作のひとつとされ、観光の目玉ともなった。人口35万人の都市に、今や年間100万人の観光客が訪れる。建築を知らない人でも、くねった巨大な帯を束ねたようなその形状に魅せられるようだ(ゲーリーは最初陶芸をやっていたのだが、そのことが腑に落ちるような陶土の塊を思わせる外観だ)。

日本なら隈研吾氏の設計した角川武蔵野ミュージアム(2020年完成)も巨岩のような外観と巨大な本棚劇場が多くの巡礼者を集めている。

偉大な建築、優れた建造物はまず遠くから眺めてみるのが建築鑑賞法のコツだというが、逆に言えば遠くからでも目立つものは、実際に訪れてどんなものなのか確かめたくなるから、それだけでアドバンテージとして強い存在感がある。人はそういう建物に惹かれ、集まる。その建築がどういう意図でつくられたのか、また時を経てどう使われていくのか、それは時代とともに自由に変わっていく。

頭大仏の丘を覆うラベンダーの花言葉のひとつは「あなたを待っています」である。頭大仏も訪れる人が安藤建築のエッセンスや建築の持つパワーを感じてくれるのを待っている。

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高橋 正明

建築、デザイン、アートを取材するライター、翻訳者、キュレーター。オランダのFRAME誌や英、米、独、香港、マレーシア等国内外の雑誌媒体に寄稿。『建築プレゼンの掟』『建築プロフェッションの解法』『DESGIN CITY TOKYO』など著書多数。翻訳書に『ジェフリー・バワ全仕事』『カラトラヴァ』などがある。近著は『MOMNET Redifininfing Brand Experience』。建築家を起用したDIESEL ART GALLERYでのキュレーターや韓国K-DESIGN AWARD審査委員なども務めた。2018年からJCD(商環境デザイン協会)主催のトークラウンジ「タカハシツキイチ」のモデレーターを続けている。東京生まれ、独英米に留学。趣味は映画。
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