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Interview

DESIGNART TOKYO 2023:UNDER 30 鈴木舞

日本の粋と伝統技術に学ぶ、粋プロジェクトクリエイター・鈴木舞

author: 高橋 正明date: 2023/08/22

「DESIGNART TOKYO」で毎年注目を集めるのが、30歳以下のクリエイターを選出する若手支援プログラム「UNDER 30」。「DESIGNART TOKYO 2023」の会期(2023年10月20日〜10月29日)を前に、Beyond magazineでは、この「UNDER 30」部門に選ばれた国際色豊かで才能あふれる5組のクリエイターのインタビューを敢行した。

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日本の空の玄関口として都心からのアクセスが良い羽田空港。そのエリアは江戸時代には富士山を臨む一面の葦原の干潟だったという。今では観光やビジネスを促す東京の多面な顔の一つである。「DESIGNART TOKYO 2023」に出展される鈴木舞さんにとって、東京らしい場所の一つとして挙げてくれたのがこの羽田空港だ。

プロダクトのデザインや開発から、ブランディングを手がけ、自身のブランド「生粋 -namaiki-」を立ち上げた鈴木舞さんへのインタビューは、ときどき頭上を低空で横切る飛行機の爆音をBGMに、羽田空港に隣接する天空橋にに今年の秋にグランドオープンする羽田イノベーションシティのカフェで行われた。

デザインを核にコミュニケーションを考える

──自身のブランド「生粋 -namaiki-」を立ち上げた経緯に、「粋」に触れた原体験として幼い頃に始めた書道が、最初に日本文化に強く惹かれる体験だったそうですね。

鈴木:はい、9歳の頃に友人に誘われて地元の書道教室に通ううちに、どんどん書道の世界に惹かれていきました。はじめは単純に筆で文字を書くことに面白さを感じていましたが、続けていくうちに書道の心に魅力を感じるようになり、当時小学生で取得できる最高段の四段まで取得するするほどでした。

「字は体を表す」という言葉があるように字を見れば、その人の人となりがわかるという意味です。急いで乱雑に書いてもていねいに書いても同じ言葉かもしれないですが、書にはその人の性格や心が現れる。言葉では嘘をつくことができても、心は嘘をつくことができない。

つまり、「書を通じて心で会話している」のです。だから自分にとって「書道」の美しさは、美しい文字を書くことだけでなく、書を通じた何かとの心の会話であるということです。そんな書道の心に惹かれたのをきっかけに、日本古来から伝わる文化や精神に魅力を感じるようになりました。

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──今回のデザイナートでの展示に組子のドレスを展示されますが、伝統工芸を色々と活かす仕事をされている中でもとりわけ組子に惹かれたのはなぜでしょうか。

鈴木:書道をきっかけに、ずっと日本古来のものづくりにも興味がありましたが、なんとなくの興味で終わっていました。きっかけは就職先が決まって、社会に出て自分は何を残せるのだろう、と漠然と考えていた大学4年生のころ、「死ぬまでにはどうしても見ておきたいもの」を見たいと思いました。

そのときに浮かんだのが「組子」で、組子はもともとその幾何学形態に興味がありましたが、立体の組子の存在を写真で知り、とても驚き、島根の職人さんに会いに行くことにしたのです。

夜行バスで14時間、徒歩で3時間半歩いて山奥の工房でお会いした職人の門脇和弘さんは、遊び心のあふれた方で、作品のことだけでなく、島根に残る昔ながらの生き方や、自然と共存する暮らし、遊びから生まれる知恵などを体験させてくれたのです。

まるでタイムスリップしたかのような感覚で、東京で生まれ育った自分には想像もできない世界が広がっていました。夏は水舎を作って川で遊んだり、秋は栗を拾って栗ご飯をつくる、バスも3時間に1本で不便さがあふれたなかに、豊かなお宝の世界を見せてもらった感覚でした。お話しするのも島根の暮らしを体験するのも面白くて、何度も遊びに行っていました。次第に職人さんから「組子を組んでみる?」とやり方を教えていただくうちにどんどんはまってしました。

──鈴木さんは法政大学デザイン工学部の出身で、海外でも活躍されて広く知られるデザイナー・安積伸氏の研究室にいました。安積氏のもとで、クリエーション、テクノロジー、マネージメントの3分野からアプローチしてクリエーションを学ぶことを教えられたといいます。

例えば、学生時代にはウェブサイトやものを動かすためのコードも自分で書いてみたりすることを学んだ。もともとものづくりは大好きだったが、理系のセンスもあったようです。

鈴木:その視点は今も生きていて、クリエーション、デザインといっても形をつくることだけでなく、それをどう実装するかまで考えます。

ノンバーバルで、国境も年齢も関係なく手で触れて感じることのできるモノをつくりたいという思いから進路も選びましたが、プロダクトというモノづくりをすることだけでなく、それを通しての人とのコミュニケーションにも興味が湧き、美大でなく大学を選びました。

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──卒業後は広告代理店に行かれましたね。

鈴木:デザイナーになるという選択肢も悩みましたが、「考える」ということがとても好きだったので、広告代理店のプランナーになりました。

統合ソリューション局というところにいたのですが、例えば、新作の商品を売るためにどのような戦略が必要か、ビジョンを叶えるために企業のイメージはどのような方向にするべきかなどの戦略の企画と、中身の企画、そしてそれらを作った後にどのメディアで露出するべきか考えるメディアプランニングを担当していました。

広告だけでなく、アウトプットの形にとらわれず、お題に対しての戦略とアイディアを多視点から出してクライアントと共に実行するという仕事でした。

──まさに今の鈴木さんの仕事にそのまま通底したキャリアですね。今回手がけた組子のドレスについて教えてください。

鈴木:これは建築、ファッション、プロダクトの3領域を横断する作品です。2022年にお披露目した組子のドレスは立体に組むことで強度が生まれ、自立するものでした。建築の一歩手前のものとして、あの大きさになりましたが、そのまま拡大することもでき、自立する構造体になるわけです。

そうすると、パビリオンのようなものにもなりますし、内装設計に使えるものになります。組子では小さいものから大きいものまで作れるので、その領域展開が面白いと思い、今回はファッションを軸に置いて提示できたらと思いました。建築とファッションとプロダクトをベン図で描けば、三つの円の図の重なった部分が組子になります。

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そもそも立体の組子というもの自体が珍しいもので、例えば、立体組子でつくった球体はすべてのピースが組まれることで完成し、一番強い強度で成立しています。ドレスも球体のように「つなぎ目のない構造」なので強度が強く、最小単位である六角形のユニットの構造が連なっていることが重要なのです。

22cmの球体から始まって、次にそれをカットした半球体をスケールアップしてつくり、ドレスにしていく。また、この六角形のパーツ自体を大きくし、組み合わされるピースの数を増やせば、いくらでもスケールアップすることができます。

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この六角形のユニットは、筆者にはバックミンスター・フラーのユニットを連想させた。フラーはアメリカの建築家、発明家。人類と地球の調和を唱えた未来学者で、その名で呼ばれるフラードームは三角形や六角形の曲面分割の反復で構成され、建築や都市を覆うものとして構想された。

ファッションも「人間がひとり入れるサイズ」のプロダクト

──鈴木さんは、身にまとうものであるファッションも「人間がひとり入れるサイズ」のプロダクトとして考えます。そのまま大きくすればドーム形状にもできるし、空間演出に使えると言う。大学での卒業研究で、この球体のパーツのすべてを3Dモデル化していたそうです。

鈴木:面白いことに、立体組子の制作過程では、ヒトの手の方が機械より優っている部分があるのです。普通ならデジタル上で計算しパーツを設計して組み上げて検証した方が早く正確に計算できるはずですが、人間の手作業の「あいまいさ」が、デジタル上では破綻している形状でもヒトの手では実現可能にするのです。

こういう伝統技術を一般に広めるには、時間もかかるし、マネタイズするにも距離感が長くなるので、小さい活動であっても長く続け、きちんと育てていくことに意味があると思い組織でやるのでなく自分でやる道を選びました。

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──そういう鈴木さんは、好きなデザイナーとしてまずイッセイ・ミヤケを挙げる。

鈴木:イッセイ・ミヤケの遊び心が好きです。日本人のデザイナーで、日本らしい技術や考え方を尊重した丁寧なものづくりの隙間に、国境を越えたユーモアが織り交ぜられていて、グラフィックの表現ひとつに対しても、思わず微笑んでしまいます。製品も着るという概念に囚われ過ぎず、プロダクトの要素が強く、上から見ると平面的に見える折り紙のようなものに見えたり、遊び心からできているように感じます。

最近では、ケイニノミヤ(二宮啓)さん。コムデギャルソンの中でブランドをやられていますが、最近のお仕事のなかに、私から見てユニット構造が組子的だと思うものもあり、これはやりたかったなぁ、という悔しさもあります(笑)私は組子でチャレンジしていくので違う分野ではありますが、領域としては近いと思います。

アウトプットにこだわらない

──建築などほかの方向にも展開していけそうですね。

鈴木:私はアウトプットの形にとらわれていませんので、自分から「プロダクト・デザイナー」と名乗ったことはないし、肩書きもこだわりがありません。デザインすることに変わりはないですが、アウトプットがプロダクトになるか、ファッションになるか、空間になるかはあまり重要でなく、根本は皆同じで、そのときに求められる形が大きいか、小さいかの違いだと感じています。

要は有形でも無形でもお題に対してアイデアでお返しすることを大切にしていますので、自分の軸に沿ったものなら何でもやりたいです。

──鈴木さんが今後やってみたいことは、建築。空間分野なら、時代のアイコンとなるパビリオン制作、ショーウィンドウの空間演出、インスタレーション空間つくり、舞台やライブの空間演出、遊び場・工房・店舗・宿泊などの場所つくりと多岐にわたります。そして将来的には街作り、暮らしそのもののデザインなどもやってみたいそうです。

また、ファッションのカテゴリーで言えば、ファッションショーの設計、ファッションブランドとのコラボ、また衣装デザインそのものも入る。これらに合わせてプロダクトも関わってくるから、野心的です。組子以外で注目しているものはあるのでしょうか。

鈴木:組子は自分にとってトリガーとなったもので今後も続けていきますが、「絞り染め」なども興味があります。やはり日本古来の技術に惹かれるところがあります。組子もそうなんですが、技術がとてもスマートなのです。

今はテクノロジーがどんどん進化して、コンピューターを使えばなんでもできてしまうようなところがありますが、一方で、組子は形を削ったり、変えたりするだけで、コンピューターなしでも人間の知恵で改変して、いろいろなものが作れる。単純な行為であらゆるものができるところにスマートさと美しさを感じます。

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伝統的な技術の背後には、そうした日本人の知恵が培われ、蓄積してきたことが面白いです。その技術の「知恵」の部分を探るのが好きです。まだ、次にはこれを、というものはありませんが、伝統工芸の職人さんと話していると古いと思われているもののなかに非常に面白く、深くて洗練された世界があることがわかります。伝統の技術、先端の技術、どちらが良い悪いでなく、その両方を丁寧に因数分解し、フラットに比較して見て、どこをどう抽出し融合させるか、あるいは併立させるかを考えていきます。

職人さんのところに足を運んでいくのは、現場では技術が因数分解されているのを見ることができるからなのです。「職人さんを応援したい」みたいな上から目線の大それたことは言いたくないです。知恵や時を積み重ねられて続いてきた技術は本気に面白いと思う、その中でもまだあまり知られていなかったり、亡くなりかけている技術のような宝の原石を見つけていきたい、みんなにも知ってほしい、伝えたいという思いです。

また、若い人たちに知ってもらうためのモデレーターのようなこともしており、彼らを現地に送り、職人さんと繋げるプロジェクトも進行している。私のようにのめり込んで居着いてしまうそんな人たちが出てきたらいいと思っています。

「いき」は多様性の理解と現実を楽しむ精神

──アウトプットにとられない鈴木さんは、ご自身の位置をどのように考えていますか。

鈴木:日本の「いき」という精神を生かす仕事しているということが基本にあります。「いき」とは何かについては諸説あり、これもまた深いですが、例えば、江戸時代に長屋での壁一枚だけで隔てられた家で、あまり豊でない生活をしながら、そこには隣人が食事をしていなければ、握り飯のひとつでも持って行ってあげるとか「共生意識」がありましたが、島根でもそういうことがまだ残っていることを実体験しました。

それから「いき」には「洒落」も含まれます。生きていくことの大変さばかりに目をむけないで、それをどう面白がるか、現実を突き放して、面白がる精神です。どんな状況でも面白がる、というのが「いき」ではないかと思うのです。人それぞれが違う価値観を持っているということが「いき」には含まれています。違いに気づいて楽になる、それを楽しむ、「今の自分でいいのだ」と思えるのです。

最終的に、粋プロジェクトクリエイターとして。日本の「いき」を生かして〇〇をつくりたい、というときに声をかけてもらえ続ける存在になりたいです。その◯◯は何でもよいのです。まちづくりかもしれないし、生き方かもしれません。

鈴木舞が選ぶ「TOKYO ART SPOT」

羽田空港

鈴木舞さんが挙げてくれた「TOKYO ART SPOT」は、羽田空港。滑走路での飛行機の発着を眺めると、世界各地との時間や場所のギャップを感じるという。「空港は、時間、人種、国、生き方など、あらゆるものの交差点となる場所」であり、自分の中の“あたりまえ”とそうでないものを比較し、その違いを知ることで「両方の魅力や不便さにも気がつくことができる」場所。

鈴木舞┃スズキ・マイ

1998 年東京生まれ。「生粋 namaiki」主宰。“粋”をさまざまな視点から探求し、“粋”の宿る伝統工藝「組子」を通じて「真の豊かさとは何か」を問う。組子職人のもとで技術を学び部品を3Dモデル化。伝統工藝とテクノロジーを組み合わせ、未知なる可能性をデザインする。株式会社電通を独立後、プロダクトデザインを軸に戦略企画から携わる。現在、東京都「江戸東京きらり」の事業者の最年少パートナーとしてプロジェクトを牽引する。主なメディア出演に、『日経MJ』(2023)、TSKテレビ「TAKUMI」(2022)、『AXIS Web magazine』(2022)、『The Japan Times』(2022)、『商店建築』(2023年1月号)、『装苑』2023年3月号」がある。

DESIGNART TOKYO 2023

開催期間:2023年10月20日(金)〜29日(日)
会場:表参道、外苑前、原宿、渋谷、六本木、広尾、銀座、東京
規模:参加クリエイター&ブランド数 約300名/約100会場(予定)
主催:DESIGNART TOKYO 実行委員会
▼インフォメーションセンター
設置期間:2023年10月20日(金)〜29日(日) 10:00〜18:00 予定
場所:ワールド北青山ビル
住所:東京都港区北青山3-5-10

HP: DESIGNART TOKYO 2023
Instagram: @designart_tokyo


Text:高橋正明
Photo:下城英悟
Edit:山田卓立

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高橋 正明

建築、デザイン、アートを取材するライター、翻訳者、キュレーター。オランダのFRAME誌や英、米、独、香港、マレーシア等国内外の雑誌媒体に寄稿。『建築プレゼンの掟』『建築プロフェッションの解法』『DESGIN CITY TOKYO』など著書多数。翻訳書に『ジェフリー・バワ全仕事』『カラトラヴァ』などがある。近著は『MOMNET Redifininfing Brand Experience』。建築家を起用したDIESEL ART GALLERYでのキュレーターや韓国K-DESIGN AWARD審査委員なども務めた。2018年からJCD(商環境デザイン協会)主催のトークラウンジ「タカハシツキイチ」のモデレーターを続けている。東京生まれ、独英米に留学。趣味は映画。
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