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香りの世界への誘い

天然香料と合成香料、ジャスミンを通して考える

author: なかやま ひろdate: 2022/02/26

この連載を始める際の打ち合わせで、Beyond Magazine プロデューサーが「ジャスミン」を繰り返し引き合いに出していました。彼が草花に詳しいわけでもなく、ジャスミンをこよなく愛しているわけでもないのだけど、私の脳裏にはずっと「ジャスミン」の存在が焼きついていました。

彼でもその名称をあげ、誰もが耳にしたことのあるジャスミンは、“Flower of Flower” (花の中の花)と言われるほど香りの世界では重要な香料です。香料業界に身を置いていれば、ジャスミン素材にも天然香料と合成香料があることを知り、当たり前のように使用していますが、一般では未知の世界だと思います。数ヶ月前にレポートした香りのトレードショー Pitti Fragranze で「新しいジャスミン」と出会ったことも踏まえ、ジャスミンを軸に天然香料と合成香料について考えてみました。(トップ画像素材提供:©MANE)

写真提供:©MANE

ジャスミン

“Flower of Flower”と呼ばれるジャスミンは、ペルシャ語で「神の贈り物」という意味です。原産はインド、ヒマラヤ、カシミール、後にフランス、アルジェリア、モロッコ、エジプト、イタリアなどで広く生育・栽培される植物で、約 300 種もの品種があると言われています。

ジャスミンは華やかで濃厚な香りで、ホワイトフローラルノートの代表として香水業界において非常に重要な香料です。その中でも主に 2 種類のジャスミンが使用されています。

Jasmine Grandiflorum:力強くフローラルで粘り気があり、とても甘く、深いコクとややムスキーでクマリン様のアンダートーンを持っています。 フローラル、フルーティ、アニマル、パウダリー、グリーンなど多面的な香りです。ちなみに、私の好きなジャスミンの香水のひとつは Calvin Klein「Beauty」で、強く美しく、凛とした印象です。 

Jasmine Sambac:甘く、フルーティ/フローラルで、豊かなハニー/ティーのアンダートーンを持つグリーンで、ドライダウンでより甘くなります。

様々な研究者により、ジャスミンの香気成分が分析されてきました。現在 900 種類以上もの香気成分が発見されているそうです。複雑な香りの中には、わずかに動物的に感じられる独特な香りが含まれているのも特徴です。そのクセになるような香りが、ほかの花にはない魅力になっているようです。ジャスミンの花は通常、白色で、小さく、星形をしています。とてもデリケートな花です。

ジャスミン花精油抽出の原料になっていたのは、主に地中海沿岸諸国に産するものではありますが、日本との関係性において、ラベンダーの記事にご協力いただいた曽田香料の佐野調香師に伺った内容では、台湾での取り組みの歴史があったようです。

ジャスミン茶として利用されていた台湾ジャスミンの活用を図り、 ジャスミン花精油の国産化に成功。当初は抽出用の溶剤が粗悪であったため、 今日のような良質の精油は得られませんでした。しかし、それでも品不足であったため、 調合香料の原料、とくに香粧品用の高級香料として好評。 需要も多かったようですが、太平洋戦争勃発と共に生産は中止されたそうです。

写真提供:©Adobe stock

天然香料ジャスミンの抽出方法 

この高価な香料の抽出方法ですが、匂いの分子を吸収する脂肪分の性質を利用した Enfleurage (アンフルラージュ)が古代から使用されていました。この伝統技術は、南フランスのグラースで完成され、18 世紀初頭から広く使われるようになります。

ガラス板に精製した動物性脂肪を塗り、その上に摘みたての花びらを広げ、芳香成分を吸着させる。動物性脂肪が香りの成分を吸収しきれなくなったら(約 24 時間)、新しい花びらに交換する作業を繰り返す。1 か月ほど経過した後、アルコールと混ぜ、脂肪とエッセンシャルオイルを分離させ、香りを抽出……と手間と時間がかかるわりには、1 リットル程度のオイルの採取に、 1000kg もの大量の花びら、花の数にすると 800 万個 が必要になります。それも朝積み!

デリケートな花のため、天然の香りを搾取するためには、加熱せず、室温で抽出する方法しかありませんでした。現在はアンフルラージュでの問題点、時間及び費用がかかることの懸念点があることから、溶剤抽出法が主流となっています。

しかし、咲いている生花そのものや、咲きたての植物の香りそのままの「生きた香り」を抽出できず、この繊細な花の香りを最大限に引き出せていないなどの意見も多々あります。そのため生花そのものの香りを引き出すには、アンフルラージュ法が最適であるとされます。 

合成香料ジャスミンの抽出方法 

気の遠くなる抽出方法以外にも、天然香料から搾取した香気成分を再現した合成香料ジャスミンはこれまでにも存在します。高コスト・高需要により、化学者はジャスミンの香り組成を研究するようになりました。前述しましたが、現在 900 種類以上もの香気成分が発見され、工業的生産法が確立されてジャスモン酸メチル系の(合成)香料が安価で入手可能となっています。大量に生産されることになって、新しい香水のクリエイションの発展に大きな影響を与えました。こちらが私たちが触れているジャスミンの香りではないでしょうか? 

また、合成香料の抽出方法として、ヘッドスペース法が代表的な抽出方法ですが、香気成分が持つトップ、ハート、ボトムの全てのノートの採取不可や、採取の際に環境を脅かす石油化学溶剤の使用など課題もありました。

写真提供:©MANE
写真提供:©Pitti Immagine

新しいジャスミン

「新しいジャスミン」は、香料会社 MANE の新技術 E-PURE JUNGLE ESSENCE™ によるものです。E-PURE JUNGLE ESSENCE™ とは、生花本来の香りである“生きた香り“を抽出する新しい抽出方法で、古来からあるアンフルラージュ法と MANE 独自の抽出法である JUNGLE ESSENCE™ を融合させた、新たな抽出方法による、ジャスミンの香りです。この技術により限りなく本物のジャスミンに近い香りの再現に成功しました。

前述したリビングフラワー技術としてヘッドスペース法も革命的で、「フレグランス業界に革命を起こす」と言われましたが、大掛かりな道具でありました。今回の JUNGLE ESSENCE™ の技術の画期的なところは、そのツールがポータブル。サイズは 30cm で、どこにでも持っていけます。いつでも手軽に抽出できるというわけです。香りのプロが、写真を撮るように香りを記録に残すことが可能となりました。

ジャスミンが選ばれた経緯として、先にも記載しましたがジャスミンは非常に人気のある香料で、1) 量の確保が可能な素材、2) アンフルラージュ法以外の抽出方法の精油は、アニマリックで、溶剤特有の香りも嗅げてしまうこともあり、使いづらいと感じることがあるため、より生花本来のフレッシュ感ある状態の精油を取得したいとの思い入れがありました。

花の鮮度を保つために、花は畑のすぐそばで天然の植物油に浸されます。従来のアンフルラージュ法では、動物性油を使用していましたが、より時代に合った植物性オイルを使用することへの進化。

その後、エッセンシャルオイルのみを、JUNGLE ESSENCE™ を用いて抽出する。JUNGLE ESSENCE™ は、他の抽出方法と比べ、トップからボトムノートまでの香りをまんべんなく、抽出できる特徴があります。また、JUNGLE ESSENCE™ は、室温で抽出可能、加熱せず、石油化学溶剤不使用と、エコフレンドリーな抽出方法です。

この技術開発において MANE が目指していたものは、繰り返しますが、生花の香りを正確に抽出したいという香りへの想いの実現。そして、世界中の花やハーブだけでなく世界中の香り素材を現地ですぐに抽出し、環境にも配慮した技術の提供です。

写真提供:©MANE

E-PURE JUNGLE ESSENCE™

私は昨年 9 月にイタリアで試香をしましたが、日本のオフィスでもクリスマス前に調香師の堀本美年さんとマーケティングの三枝珠美さんと一緒に再試香させていただきました。香りの感じ方は人それぞれですが、わかりやすく MANE の調香師がまとめた香りの記述は下記です。

JASMINE GRANDIFLORUM E-PURE JUNGLE ESSENCE™:アブソリュート(天然)よりも、アニマリック感が少なく、フルーティノートを併せもつ多面的なフローラルノート。インドもしくは東南アジアを原産地とし、夜明けに手摘みで 1 つずつ採取した花々の再現です。

JASMINE SAMBAC E-PURE JUNGLE ESSENCE™:アブソリュート(天然)よりも、フローラルでフェミニンでありながら、自然。ジャスミンにありがちな、アニマリックとグリーン感がなく、他にはない咲きたての風景が浮かぶ、ザ・プレミアムフローラル。原産地はインドです。

溶剤抽出方法による天然香料との違いは、嗅覚トレーニングを受けていない一般の方々にはまず感じることはないとは思いますが、微妙な香りの違いは存在します。とはいえ、今まで嗅いだジャスミンと比較すると、限りなく本物に近いと言えます。

多様化した香料

本物・生花と完全に同じではないから、意味がないかというと、そうではありません。

「こうして完成した『E-PURE JUNGLE ESSENCE™』と呼ばれる抽出液は、新鮮な花の真の姿を表現した美しい香りを放ちます。伝統と革新を融合させ、環境に配慮したこの抽出液は、アブソリュートに代わるグリーンな香りを提供し、パフューマーのパレットに新たなフレッシュフラワーエキスのラインナップを加えました」(MANE 資料より)

香りの世界では、その香料を単体で使用することは限りなく無であり、ほかの香料との組み合わせやバランスが重要なので、調香師にとって使用できる香料が増えたことになります。絵画で言えば、パレットにのせる絵の具が増えたことになるので、画家が作り出す色の選択肢が増えたことになります。加えて、資源の枯渇を極力抑え、自然環境への負担が軽減できることも言及したいポイントです。

オーガニックトレンドが定着してきて、天然至上主義とでも言いましょうか、天然素材しか受け付けない消費者、できるだけ天然素材を取り入れる生活者が増え、オーガニックはトレンドからライフスタイルに変容しました。また、昨今のサステナブルへの関心から、地球環境を守る姿勢を選択する消費者もいます。

香りの世界でいうと、国内の香り業界のトレンドのひとつに、天然の和精油を使用した香りの商品を推す傾向が見られます。和精油とは日本由来の植物を日本で抽出した精油で、日本文化への尊重でしょうか、それを広めたい、海外へも輸出したいという強い思いです。

調香師の堀本さんは「夢物語かもしれませんが、日本の素材にフォーカスをした『E-PURE JUNGLE ESSENCE™』を、世界へ展開したい」と抱負を話してくださいました。

私は、自分で制作した香りのワークショップの機会があるたびに、香りとエコシステムの一環として、人と香りの原料との関わり、自然環境の大切さを通して天然と合成についてお話をしています。

写真提供:©Pitti Immagine

正しい知識と理解を持っていただき、環境に優しく、自然が作る芸術を生み出す天然香料も自然を触らずに再現する合成香料も上手く使いこなしていただきたいと長らく思っております。

サステナブルに貢献しながら、香りの世界を広げることができる E-PURE JUNGLE ESSENCE™ に出会ったフィレンツェで、ジャスミンの香りを嗅ぎながら気持ちが高揚しました。

最後に、もし天然 100% の香りの商品に出会う機会に恵まれたら、自然に感謝しながら大切に使用してほしいと切に思います。

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香りのコミュニケーター
なかやま ひろ

香りのコミュニケーター。Project Felicia 代表。ニューヨーク・ロサンゼルス・パリ・シンガポールと海外でのキャリアが長いマルチワーカー。元広告代理店 IW Group、JWT、Burson-Marsteller、元人材会社デジタル担当、元香料会社ジボダンマーケティング担当。2017 年夏、活動拠点を日本に移し、日立製作所、Google、現在外資 CRM 企業会社員。「源氏物語が体験できるお香『Six in Sense』」を自社ブランド「Bridge and Blend」でプロディース。クラファン「Kickstarter」と「Makuake」でチャレンジ。五感を使ったマーケティングが求められる今「香り」の可能性を日々追求中。
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