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Interview

大学特任教授/建築家・豊田啓介の軌跡│Vol.3

既成の価値観を崩したい。キャップスタイルに込めた想い

author: 豊田啓介date: 2021/11/03

デジタルを駆使したコンピューテーショナルデザインを手がけ、建築の枠を超えた幅広い分野でその才能を発揮する豊田啓介さん。Beyondストラテジーディレクターであり、モータージャーナリストの川端由美が、ひたむきに建築に向き合ってきた若き豊田さんの軌跡を引き続きインタビュー。

ど真ん中を崩す経験から、再言語化する重要性

川端 安藤事務所、アメリカではコロンビア大学院と建築事務所、どちらも4年ずつ経験したということですが、3年以上の経験を積む価値も大きかったと思います。

豊田 3年の壁ってありますよね。どこにいってもなんとか自分ひとりで仕事ができるなという自信が生まれたのって、やっぱり3年経ってからだったように思います。そこで感じた違和感が、価値や意味として体系化し、自分の中で完全に理解できたのが4年目です。

狙ったわけではないのですが、安藤事務所とアメリカでは180度真逆の経験ができました。そのおかげで、今、その両方を合成することができています。

日本に戻ってきて、アナログ至上主義なところがある日本の建築界で、デジタル技術もすごいよといくら言っても、当初はほとんど聞く耳を持ってもらえませんでした。それでも、なんとか話を聞いてもらえる機会があったのは、安藤事務所出身というのが大きかったです。安藤事務所でそれなりの経験を持っているなら、という信頼感を持ってもらえた。そういう点でも、安藤事務所でのキャリアには感謝しています。

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川端 ど真ん中のことをやった上で、崩すことが大事だということですよね。ど真ん中を知らない人がいくら新しいことを語っても、単純に壊したいだけとしか受け止めてもらえない。そもそも基盤となるものがなければ、崩したところで成立もしません。

豊田 崩していく過程を自分の中で一回体験して、それがどういうことか、今はこう見えるかもしれないけれどこの先にどういう価値を持つのか。そういうことが説明できないと、人には届かないし、動かすことはできないんですよね。

偉い人に会うときこそ、キャップスタイルで

川端  豊田さんほどの経歴をもってしても、重鎮の多い建築業界ではまだまだ若手というイメージなんでしょうか。

豊田 まったくの若手ですよ。まだまだペーペーです(笑)。

僕は今日もキャップをかぶっていますが、これは意図してやっていることなんです。もちろん野球部出身でベースボールキャップが好きというのもあるんですが、特に公式の場や偉い人に会うときに、あえてキャップをかぶるようにしています。このキャップで伝えたいのは、既成の価値基準を壊して、もっと多様性を受け入れてくれないと、日本は変わらないというメッセージ。

昭和のガチガチの経営者とは違う価値観を持っているんだ、ということをキャップをかぶることでわかりやすく主張しているんです。キャップ姿の僕を見て、「なんで、帽子なんかかぶっているんだ」と、相手もカチンときているのがわかることもあるんですが、そこをあえて主張していきたい。そういう意味で、キャップは僕の名刺代わりです。

川端 カチンときて、そこから変われない人は、何を言っても変わらないでしょうね。「おっ!」と思っても、とりあえず聞いて見ようかという姿勢があるかどうかが大きい気がします。

豊田 キャップをかぶっていると、相手は最初から昭和の価値観の話は通じないな、とあきらめてくれるんです。もし、僕がスーツ着てちゃんとしていたら、「当然、私の言っていること(昭和の価値観)がわかるだろう」となってしまう。そんな話を1時間もして、最後に「いえ、僕の考え方は違うんです」となるくらいなら、最初から古い価値観は通じないヤツだと思われたほうが話が早いですから。

「大阪発」だからこそ、万博をやる意義がある

川端 2025年の大阪・関西万博に関連して、関西の経済界の重鎮とも相当やり取りされたと思いますが、関西ではキャップ姿の豊田さんへの反応は、どうだったんですか。

豊田  キャップにあえて反応してくれる人は、関西の経営者の方が多い気がしますね。東京の方は見て見ぬふりをする傾向があるかもしれません。ステレオタイプかもしれませんが、キャップをかぶっていることを気にせず、むしろ楽しんでくれる経営者は、関西の方が多いように思います。

大阪でさすがだな、と思ったのは、大阪商工会議所の尾崎裕会頭です。コモングラウンド・リビングラボをつくるときに、1時間レクチャーしてもなんとなくわかったようなわからないような、となる人がほとんどです。「海のものとも、山のものともわからないもの」としか受け止めてもらえないんです。ところが、尾崎会頭は5分話しただけで、「よし、わかった。これは絶対やるべきだから、大阪商工会議所上げて協力する。やりなはれ」と。その判断の早さ、感覚の鋭さには本当に驚きましたし、とても感謝しています。

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川端 東京と大阪では、経済界の雰囲気が全然違いますからね。

豊田 東京は良くも悪くも、組織全体ということが強くあります。

川端 それに比べると、大阪には「リーダーが言うことなら、やってみようか」というムードがあるのは確かですね。

豊田 だからこそ、2025年の万博を大阪でやる意味がすごくある。「大阪発」であることが、社会実装で何かを動かすという可能性を広げてくれていると思っています。

川端 大阪には、自然発生的なものを受け入れてくれる体制がまだ残っているから、ですよね。

##

川端 今の若い世代は、日本はオワコンだと感じている一方で、海外に出て挑戦したいという意欲もあまりないようです。日本と海外でキャリアを積んできた豊田さんから見て、外に出ていく意味はどこにあると思いますか。

豊田 海外での生活を体験するときに大事なのは、自分たちには日本人としてのアイデンティが体の中に染み込んでいて、まずはそこが基本だということ。それを抜くことはできないし、抜く必要もない。日本で育ったという根本的な感覚は、そうでない人にはどうやっても獲得し得ない特性なわけで、だからこそ、それをどう生かすかを海外で勝負するときは考えざる得ないと思います。

川端 いくら抜け出したところで、軸足は母国にあるということですね。

豊田 例えばバイリンガルのDJは確かにうらやましいなと感じますが、かといって彼らも体が二つあるわけではありません。どんなに言葉が流暢でも、例えば小学校をアメリカで過ごしていたなら、日本の小学校での生の共有体験って、やっぱりわからないわけです。

大事なのは、自分がリアリティを持って見てきたこと、体験してきたことから、自分の強みや立ち位置を戦略的に考えることです。

川端 若い世代の人たちには、そこがなかなか見えていないのかもしれません。

豊田 僕は建築家としてやってきましたが、今は大学で研究や教育に関わる立場でもあります。国内に閉じている学生が多くて、すごくもったいないなと感じています。ローカルを見て、足元から発想することもすごく大事だし、いいことです。しかし、それをより広い世界を知り、比較して考えるという視点が抜けている。

「私は、今、ここにいて、これに興味がある」という等身大のリアリティを見る解像度が高いこと、その感性が繊細なことは間違いなく財産です。ただ、それを相対化する、何が外部から見た特性であり価値なのかを見る視点があれば、それをもっと生かす可能性が広がるのに、外から見ようという興味や意欲が薄い印象は受けます。

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そこを相対化のプロセスを経て発信していけば、めちゃくちゃ強くできるのに、なにか自分視点で物事を判断する価値観に、世代が寄り過ぎているんじゃないかとは感じます。

川端 今の若い子たちは、結果を急ぐんですよね。正しいと思える仮説に対して、一番効率の良い方法で早く結果を手にしたい。他の選択肢や寄り道となるようなことは、切り捨ててしまうんです。

豊田 そういう無力感というか、最初から無理なところには手を出さないという感覚はあると思います。「俺が変えてやろう」というよりも、「コミットしたところで、変わらないししょうがない」と思っている。だから、「ここだけ効率的にやる」となってしまう。

川端 「あきらめている」というのは、すごく感じますね。失敗をちゃんとしてきてないというのも大きい。浪人する学生がほとんどいないということも、それを象徴しているように思います。

豊田 その一方で、「俺は違うことをしたい、価値を出したい」と思ってもいますよね。そうであるなら、どんな領域でもいいから、自分の慣れ親しんだ世界の外側に自分を移してみて、外部からの視点を体験してみたらいいのにとは思います。アイドルやアニメで「立ち位置」とか「キャラ」といった、一見外部からの視点風な役割にはとてもコンシャスな割に、本当に外部に身を置く体験、外からの視点って、なかなか世代として持てていない気がします。想像やビジュアルで理解しているというのと、実際に異なる環境に身を置いて体験するのは、やっぱり全く違います。

結果論ですが、僕の場合もいろいろと動いてきたことが、相対化の糧となっています。それは後から、ああ、そういうことだったんだと気づきました。

川端 どんどん効率化して、寄り道すら効率的になってきているのが、もどかしいですね。

豊田 効率化とデジタル化で、ものごとを擬似的に見たり体験できたりするから、なおさらです。グーグルアースで世界旅行をした気分になれる。でも、やっぱり現地に行ってみないとわからないことは、たくさんあります。リアルの体験から得られる情報量は、全然違ったものになるはずです。

川端 リアルな体験では、五感の使い方がまったく違いますからね。味、匂い、風の音、湿度…。そういう五感で感じる生の体験の大事さを忘れてはいけないと思います。

豊田 ひと口に感覚といっても、ものすごく複雑なものです。しかも、今のデジタル技術で扱える感覚は、意識や無意識などあらゆる感覚のうち、良くてもほんの数%程度でしょう。感覚を外部に伝達できるレベルになると、もう1%をはるかに下回るくらいだと思います。もちろん、情報として扱えて外部に伝達できる感覚のチャンネルがあることはものすごい価値ですし、それだけでも広大な新しい産業領域なわけですが、情報を扱うなら逆に、まだまだ細いデジタルのチャンネルに対して、モノや場所が束ねる情報の無限の豊かさに対して謙虚であるべきでしょう。僕自身が、建築や都市の立場から情報領域を扱っているからこそ、そこは日頃から強く思っていることです。

<川端由美の対談後記>

2025年に開催される国際博覧会(大阪・関西万博)の招致で会場計画策定から関わり、有識者委員でもある。そんな日本の建築のデジタル化を牽引する役割を担う豊田さん。そう書くと、まるで生まれたときからデジタルの申し子だったように思われるかもしれませんが、普通の野球少年が、建築家を目指した動機は非常にシンプルなものでした。ただ、豊田さんが普通と違うことは、目指した業界のど真ん中で基礎を身につけた後、さらにその先にある業界の地平線を眺めながら、地平線の先にある何かをつかみ取ろうとしているところにあるように感じました。「既存の分野で新しい仕事をクリエートする」という過程で、ぶつかった様々な壁や、尊敬する人たちとの出会い、そしてこれから目指すことを、存分に語っていただきました。

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東京大学生産技術研究所 特任教授/建築家
豊田啓介

1972年、千葉県出身。96年、東京大学工学部建築学科卒業。96-00年、安藤事務所を経て、02年コロンビア大学建築学部修士課程(AAD)修了。02-06年、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを蔡佳萱と設立(2016年より酒井康介がパートナーとして加わる)。2025年大阪・関西国際博覧会 誘致会場計画アドバイザー(2017年~2018年)。建築情報学会副会長(2020年~)。大阪コモングラウンド・リビングラボ アドバイザー(2020年〜)。2021年より東京大学生産技術研究所特任教授。
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