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Column

香りの世界への誘い

日本のニッチフレグランス入門

author: なかやま ひろdate: 2021/10/02

「ニッチフレグランスがトレンドセッターになるまで」の記事で紹介したように、世界的にもニッチブランドが評価をされています。日本国内で人気のあるニッチフレグランスは欧米ブランドであるとお伝えしたところ、日本のニッチなブランドについても知りたい! とのお声をいただきました。そこで、日本のニッチフレグランスブランドを取材しました。

日本のニッチフレグランスブランド

下記は、私が注目している日本のクリエイターがローンチしたフレグランスブランドを体系的にまとめたリストです。あくまでも私の視点ですので、ご了承ください。何をもって日本のブランドかというと、ここでは日本で産まれたブランド、日本人がローンチしたブランドと定義しています。

ご覧いただくと、クリエイターの滞在している場所(国)、ターゲットにしている市場で区分するとわかりやすいかと思います。日本でローンチしていても、最初からグローバルを視野に入れているブランドは特に興味深いです。

*グローバル市場は欧米、アジアなどありますが、ここでは日本市場以外を指しています。

日本“産”ニッチフレグランスブランド

日本産まれのフレグランスブランドとして、今回は、上記リストにも記載のある 3 つのブランド「Parfum Satori」「ÉDIT(h)」「 LIBERTA Perfume」にお話しを伺いました。

Parfum Satori

日本のニッチブランドを語る上で絶対に外せないブランドが、「思わず深呼吸したくなる香水」と評され、日本の湿度や気候になじむ“軽く、風通しのよさ”を大切にしている「Parfum Satori」です。実はお話しを伺うのは今回で三度目。

Parfum Satori

ブランド立ち上げ当時の 2000 年の日本社会では、調香師という存在自体あまり知られていなかったようです。

 Parfum Satori を立ち上げた調香師の大沢さとりさんは、ニッチとかグローバルとか考える以前に、「香水の本場のプロに認められたい気持ちはありましたが、海外の後追いをするつもりはありませんでした」と話します。大沢さんは幼少時から植物が好きで、茶道・華道・香道といった日本文化を嗜んでおり、香りを作り今の自分のブランドに行き着いたのはごく自然の流れだったようです。「違和感がなかった」とお話ししていた言葉が印象的です。

Parfum Satori の香りは、香道やお香の匂いたち、あえて英語で表現するなら waft を香水で表現していると感じました。肌に乗せた香水が、漂う香りのドームを作るかのように肌から匂いを立たせる感覚です。お線香に火を灯し、煙が消えていくときに見えない何かに包まれた感覚、わかりますか? アレです。

香水は気体が飛ぶので、お香の漂う感覚とは少し違うと思いますが。今でこそ、欧米でも軽い香りの香水をプロデュースするブランドは増えてきましたが、大沢さんはブランドを立ち上げた当初からそこを意識して目指されていたそうです。

Parfum Satori 大沢さとりさん

 現在の日本でのニッチフレグランスブランド人気は、「香水がどうやって作られているか知らない人が多かった日本市場でも、消費者の香水に対する関心が高まり、香水文化が根付き始めた兆しではないでしょうか」と大沢さん。 

ニッチが受け入れられ始めた経緯としては、マーケティングやリサーチによる誰でも好む香り、つまりハズさない香りを作り続けていた結果、市場は同じような香りばかりになりました。新しいものが出てこない状況に消費者は不満を募らせ、面白いものを発掘したり、自分で産み出すようになりました。この小さな流れが、時を経てニッチに注目が集まる時代になったのは、それほど前の話ではありません。

日本でも香水を取り上げる雑誌記事が増えました。以前は、売れている香水ランキングや、ブランドの新作、が中心だったのですが、徐々に作り手にフォーカスするような記事が多くなってきました。香水が別の角度から注目されているのです。香りの世界での新たな価値の提供、例えばホテルアメニティの世界などにも、この動きが日本でも垣間見られるようになったのもここ数年の動きです。

ニッチフレグランスの新規参入

日本のニッチブランドとして新しく市場に参入したブランドに、2020 年に GINZA SIX で開催されたフレグランスイベント「La touche finale parfumée」でお会いしました。

一つ目は 100 年以上続く朱肉ブランド「日光印」が立ち上げたブランド「ÉDIT(h)」、二つ目は前述の Parfum Satori で学んだお二人がタッグを組んだ「LIBERTA Perfume」です。こちらは「香りの民主化」を実現するブランドとして、パーソナライズ香水を提供しています。

ÉDIT(h)

ÉDIT(h)

日光印・ 6 代目の葛和建太郎さんが気づいた偶然の発見が、朱肉とフレグランスを繋げました。

「日光印の朱肉には元々香りがついています。そこでモダンな香りのルームフレグランスにもなる朱肉が出来ないだろうかと考えました。朱肉で使用する香料は粉末状ですが、調香師はサンプルを液体で提出してきたそうです。これ、香水っぽいぞ、ルームフレグランスにもなる朱肉、から朱肉由来の香水にイノベーティブなシフトをしました」

100 年間受け継がれてきた事業を、次の 100 年に繋げる、これが葛和さんの 6 代目としてのミッションです。

ÉDIT(h) 葛和 建太郎さん

日本のモノづくりを継承する形で、初めからヨーロッパを中心にグローバル市場を意識していました。パリで開催された Maison et Objet では薫る朱肉が由来の香水として評価されました。手に取った瞬間は日本産ブランドとは気付かない作品ですが、後からこれって日本産なのね、とグローバルに認知されるブランドに成長することが期待できそうなジャパニーズニッチです。

現在ある 5 種類の香りのコレクションから、私は Jardin Tokyo を選びました。私にとっては都会の喧騒の中でホッとする香りです。今年末から楽曲をリミックスする手法を調香に取り入れた、2nd コレクションとなる新作がローンチされるそうです。

 LIBERTA Perfume

LIBERTA Perfume

私がこのブランドに注目している理由は、テクノロジーを活用して消費者データの価値の将来も見据えていることです。コンサル出身の代表山根さんはこの事業を香水ブランドでもありながら、 IT start-up や Platform としてのポテンシャルもあると評価されることも多いと紹介します。

パーソナル診断の香水ブランドは、アメリカではかなり前から存在しますし、恐らく日本でも既にあると思われます。同様に消費者のデータに基づいたパーソナライズ香水を提供するブランドもシンガポールにも存在しますので、珍しいわけではありません。

ブランドローンチから一年過ぎた会員数は約 1 万人。提案される香りだけを楽しんでいたカスタマーも、今では積極的に新しい香りに挑戦したいとオーダーメイドの香水を依頼されたり、他のブランドのお勧めを聞いてくる会員もいるそうです。

会員も一年前の自分のデータと、一年後のデータを客観的に把握できるメリットがあります。カスタマーの成長を後押しするために収集されたデータの分析方法や、組まれたアルゴリズムに関してはまだ伸び代は十分にあると思いますが、成長が楽しみです。

パーソナル診断だけでなく、プレタポルテコレクションとしてプライベートコレクションもローンチ。今年は日本の春夏秋冬がコンセプトで、香りのないモノに日本人の心に根付いている香りを与えるチャレンジをしています。

春は日本の情緒「桜」。永遠に枯れることのない威風堂々とした桜を表現しています。私は満開なだけでなく、葉桜になっても美しい近所の桜をイメージしました。

LIBERTA Perfume 山根 大輝さん
LIBERTA Perfume 武宮 志昌さん

最新作「SOLTERRA」は夏のひまわり。ひまわりの花には匂いがないんですよ。山根さんは幹が太い力強いひまわりを、調香師の武宮さんはミツバチしか知らないひまわりを求めたようでしたが判定は如何に。第一印象、Hermes の Terre d 'Hermes を感じさせます。ちょうど、取材の 1 週間前にひまわり畑をドライブしていたので、ドライな土臭さからのウェット感。背後からクールな甘さ。

ニッチブームだからではなく、デジタルを活用して消費者と成長していくビジネスモデルに目が離せなくなりそうです。

香水の世界では、日本は置いてきぼり?

日本での欧米の香水ブランド崇拝、ニッチフレグランスにおいて同様のことが言えるのは、香水は中世の欧州から始まった(諸説あり)ことを踏まえると、当然なのかもしれません。ほんの 20 年前は資生堂のような大手化粧品会社の香水しか流通していなかったのですから。

今回お話を伺い、日本のブランドを体系的にまとめてみて気づいたのは、どのセグメントでも「日本」を軸にしていることです。日本らしいもの、日本人に合うもの、日本が伝わるもの。かく言う私も自分がローンチしたお香のブランドも平安時代の調香を日本の香りとして再現しました。

このような傾向は欧米のニッチブランドでは、見受けられないのではないでしょうか。私が知らないだけであるのかもしれませんが。例えば、アメリカのニッチブランドがアメリカ人に合う香水ブランドを立ち上げることは耳にしません。どちらかというと、昔ながらの製法にこだわったり、特定の場所の香り作りをするニッチブランドが欧米には存在するかと思います。

少し前になりますが、消費財の香りで香水っぽい匂いと表現するとき、それは欧米の香水を指していることが多かったです。最近ではナチュラルやボタニカルブームで、ヒノキの香りを筆頭に森林の香りなど自然の香りがパイを占めています。

日本のブランドは追いつこうとしているのか、それとも独自路線を走っているのか。日本のニッチブランドの特徴は、まだ取材に伺っていないブランドも含め、「日本らしさーJaponism を表現したい」ブランドが多いようです。

これからのジャパニーズニッチ

今回リストに記載のないブランドも、これから参入するブランドも出てくるかと思います。スクールも運営していた Parfum Satori の大沢さんに、これからニッチフレグランスブランドとして活躍するクリエーターたちへのアドバイスを尋ね、2 つあげて頂きました。

1)素直に自分らしさを作品に生かすこと
2) ブランドを続けること、自分を磨き続けること

そんな Parfum Satori から2016 年に発売された「ハナヒラク」。日本の発酵食品を連想させる香りを取り入れた初めての香水です。「日本の発酵食品の香り自体は 20 年以上前から研究されていたと思うのですが、まだ香水の世界では取り入れた作品がみあたらなかったので試みた」という大沢さん。

印象ですが、私の肌にのせたハナヒラクは、就寝する頃にはゆっくりと小さな花を咲かせ、微かな存在を残しつつ、その姿を隠していきました。

発酵食品は独特な香りがします。肌にのせた瞬間だけ後ろの方に少し不協和音的な香りがするのです。香水の世界もお香の世界も、クセのある香料はブレンドされた周りの香りを馴染ませる力がありますから、この香料の採用は納得。

Parfum Satori

日本の香水ブランドの先駆けとして、20 年間第一線で挑戦し続けてきた Parfun Satori が、後進に期待することは、「グローバルの視点で捉えると日本自体がニッチ。香水は本来ヨーロッパで生まれ、ヨーロッパのものですが、後追いではなく、自分らしさを考え、自分の中を深堀してみてほしい」そうです。

今回取り上げられなかったブランドのクリエイターたちにも、今後お話しを伺っていきたいと思います。日本の香水ブランドも知っていただけると嬉しいです。


なかやま ひろ

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香りのコミュニケーター
なかやま ひろ

香りのコミュニケーター。Project Felicia 代表。ニューヨーク・ロサンゼルス・パリ・シンガポールと海外でのキャリアが長いマルチワーカー。元広告代理店 IW Group、JWT、Burson -Marsyeller、元人材会社デジタル担当、元香料会社ジボダンマーケティング担当。2017 年夏、活動拠点を日本に移し、日立製作所、現某 IT 企業会社員。自社ブランド「Bridge and Blend」の 1000 年前の平安時代に調合されたお香の発売をクラファン「Kickstarter」でチャレンジ。五感を使ったマーケティングが求められる今「香り」の可能性を日々追求中。