“デート”と“2人で会う”ってどう違うの? “タイプ”ってそもそもなんだっけ?
恋バナをしていて、そんな“問い”が生まれたことはないだろうか? 恋も愛も定義が人それぞれだから、丁寧に言葉にしようとするほど難しい。自分なりの答えを見つけるのは、きっと一筋縄ではいかない。もしかすると恋バナって、哲学の入り口なのかも。
では、“考えること”をなりわいとする2人が恋愛を語ったら、話はどんな展開になるのだろう? お迎えしたのは、哲学者の谷川嘉浩さんと歌人の上坂あゆ美さん。読者から募った恋愛相談に答えてもらいながら、価値観揺さぶる恋バナを繰り広げてもらった。

谷川嘉浩
1990年生まれの哲学者。京都市立芸術大学美術学部デザイン科プロダクト・デザイン専攻特任講師。主著に『スマホ時代の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)や『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(筑摩書房)など。作家・書評家の渡辺祐真とのポッドキャスト番組「Ink and Think」も毎週水曜日に更新。
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Podcast:Ink and Think

上坂あゆ美
歌人・文筆家。2022年2月に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)刊行。その他の著書に、『地球と書いて〈ほし〉って読むな』(文藝春秋)『友達じゃないかもしれない』(中央公論新社)など。Podcast番組 『上坂あゆ美の「私より先に丁寧に暮らすな」』のパーソナリティを務める。
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Podcast:上坂あゆ美の「私より先に丁寧に暮らすな」
哲学者と歌人。共通点は“チャラい寄り”
──まずはお二人の自己紹介をお願いします。
谷川嘉浩(以降、谷川):谷川嘉浩です。1990年生まれで、専攻はアメリカ哲学です。多くの同業者は文芸誌への寄稿がきっかけで知名度が高まるのですが、私の場合はオウンドメディアの取材記事がきっかけで。それを読んだ編集者から「一般書を書いてみませんか?」とお声がけいただいたんです。
大学も哲学専攻ではなかったりと、同業者とは少し違った温度感でスタートして、今に至る形ですね。
上坂あゆ美(以降、上坂):上坂あゆ美です。1991年生まれなので、谷川さんの1つ下ですね。美大にいた頃にデザイナーの道を諦めて、卒業後は営業職を経て、広告代理店のマーケティング職に就いて、趣味で短歌も書いていました。そんな中、ふと思い立って会社を辞めて、今は歌人をやっています。
エッセイを書いたり、ポッドキャストをやったり、テレビやラジオの仕事もお引き受けしているので、私も“チャラい”寄りの歌人ですね。

谷川:今日はチャラい寄りの哲学者と歌人による対談なのですね。
上坂:そういう人がこういう企画を引き受けるんです(笑)。
“ふつうの恋愛”の分からなさ、乗りきれなさ
──まずはお二人に恋バナをしてもらいたいと思っています。
上坂:恋バナかあ……。実をいうと私、アロマンティック(他人に恋愛感情を抱かない人やその指向)の傾向があるので、恋をよく分かってないんですよね。誰かの相談にお答えすることは多いんですけど。
──発起人が言うのも変な話ですが、僕も恋をあまり定義できていないので、今日はその“分からなさ”も含めてお話ししたいです。
谷川:そもそも恋バナってどうやって始めるんでしたっけ?
上坂:あ、そしたらぱっと思いついた四字熟語を2つ挙げてください。
谷川:うーん……「猪突猛進」と「四面楚歌」。
上坂:これは某ティーン雑誌に載っていた心理テストなんですけど、1つ目が人生観で、2つ目が恋愛観を表しているらしいです。四面楚歌、心当たりはないですか?

ちなみに上坂さんは「罵詈雑言」「荒唐無稽」とのこと
谷川:敵に囲まれているのか……難しいな。大学生の頃、別れ話を切り出すのに悩んだことはありますね。
当時、社会人の方と遠距離恋愛をしていたんです。Zoomが普及する前だったので、会話はほとんどスカイプのテレビ通話で。趣味が合う人だったんですけど、遠距離だと限界を感じてしまって。悩みに悩んで、別れ話をしようと。でも連絡したはいいけど、なかなか本題を切り出せなくて。その瞬間は四面楚歌でしたね。
上坂:若いときの恋愛はそういうときもありますよね。
谷川:実は私もクワロマンティック(他者に抱く感情が友情か恋愛感情か区別できない恋愛的指向)の傾向があるんです。当時はそれでも一緒にいれば感情が深まるに違いないと思って付き合ったのですが、うまくいかなかった。そもそもやり取りがオンラインだから限界があったんですよね。
上坂:私も近しい感覚を持っているので、安心しました。
谷川:ずっと一緒にいれば好きになるけど、その感情が友情と質的に違うところに、心のどこかでピンときてなかったんですよね。
上坂:パートナーのことは好きだけど、友達も家族も好きだなって思ったりします。
谷川:その一方で、世間的な恋愛の“正解”も頭の片隅においているんです。その状況ってゲームにおけるプレイヤーとキャラクターの関係に近いと思っていて。
たとえばレーシングゲームをプレイしているとして、カーブを曲がるときに現実世界の身体も動いちゃうことってあるじゃないですか。その瞬間はレースに没入しているんです。それと同時に「ゲームだな」と冷静で引いてみる自分もいる。没入と冷静の両面あるというか。

上坂:わかりますね。私、恋愛の乗りきれなさの一つに“ロールプレイング感”があるんです。他のジャンルだとあんまりないのに、「夜景の見えるレストランで」とか「男性が車道側を歩く」みたいな約束ごとがあるじゃないですか。それに乗ることが、“上坂あゆ美”ではなく、“記号的な女性”をやらされているように感じてしまって。そのロープレから遠ざかって、いかにオリジナルな関係を作るかを大事にしていますね。
谷川:ギャップを気にしなくても過ごせる関係や環境を目指したい、というのはとても理解できます。当時スカイプでやり取りしていたパートナーとは、それを埋める手段があんまなかったのかな。
上坂:その意味で、“面会接触”は、関係の構築において大事なんですね。面会は大事。恋バナがテーマの対談でこんな初歩的な結論が出てしまって大丈夫ですか?(笑)
好きなタイプは、「キツネ」と「デンジくん」
──ここからは恋愛のお悩みに答えていただきます。読者からいただいた投稿が中心なのですが、僕のものも一つ混ざっています。

上坂:「『どんな人がタイプ?』と聞かれてもうまく答えられない」とかどうでしょう?
──それが僕のお悩みですね。
谷川:これはどういう背景ですか?
──昨年、仕事関係の人との飲み会で「芸能人で誰がタイプ?」という話題になったのですが、答えに詰まってしまって。そもそもアセクシャルなどの性的指向が度外視されているところにモヤつきますし、多くの人が会ったことのない“芸能人”の中にタイプの人がいる前提も割と強引ですよね。
谷川:面会していないですからね。
──あと、タイプという概念も、容姿や美的感覚、性格など、人によって定義が微妙に異なるじゃないですか。何より、全員がピンとくる人を挙げないと盛り上がらない。そう考えると高度な質問なのに、年に数回は話題に上るんです。とはいえ輪を乱したくないので、僕も自分なりの回答を見つけておきたいなと。
上坂:本当にタイプの芸能人を見つけるというより、コミュニケーションツールになる回答が欲しいということですよね。誰もが知っているレベルの有名人となると、確かに限られそうです。谷川さんはなんて答えます?
谷川:私はキツネって答えます。
上坂:え、“キツネ顔”みたいなことですか?
谷川:単純にキツネが好きだからですね。もし「キツネ顔ですか?」って言われたら、「それもあります」と返します。「芸能人だと誰ですか?」と聞かれたら「キツネっぽい人って誰がいます?」と聞き返しますね。ポイントは大きなカテゴリーで返すことです。そこから勝手に話が広がっていくので。
上坂:“のらりくらり”ってこうやるんだ。でも確かにこの質問って、多くの場合は本当にタイプを知りたいというより、共通言語で盛り上がればOKなので、ある意味でいい回答かもしれないです。キツネは幼稚園児からおじいちゃんまで知っているので。

──上坂さんはどう答えますか?
上坂:私は「『チェンソーマン』のデンジくんみたいな真っ直ぐで純粋な人が好きです」って言っています。容姿より内面を重視したい思想だから、実際にはどんな顔をしているか分からない漫画のキャラで答えるのがいいなと思っていて。性格だけを抽出できるんです。
谷川:なるほど。10年後はそのときのコンテンツに合わせて答えるんですか?
上坂:そうなったら「素直でまっすぐな人」とだけ答えるかもしれません。デンジくん以外、いいと思えたキャラクターがいないので。
──芸能人にこだわらなければ会話の可能性が格段に広がるという知見を得ました。
思い通りにいかないときは、“YouTuberごっこ”をしよう
──次は読者からの投稿で、「好きな人と4回デートしていて全部いい感じなのに、一向に発展しません」です。“3回目で告白”という暗黙の了解がある中で、4回目を経ても展開がないというお悩みですね。
谷川:コミュニケーションがうまくいかないときの対処法は2種類あると思っていて。ひとつは持ち帰って自分の問題として向き合う。もうひとつは、“ヒカキンを憑依させる”っていう。
上坂:ヒカキンを憑依させる?
谷川:YouTuberって自分の状況や行為や考えを全部喋るじゃないですか。「今からピザ食べます」「蜂蜜めっちゃかかってるやん」「美味しそう」みたいな。そのレベルで、自分の気持ちや不安を実況して喋っちゃうんです。
上坂:「今日はAさんとの恋愛について話していこうと思います」みたいな。
谷川:そうです。つまり、もやもや考えていることを、そのまま客観視する。もし考えていないならそれも正直に言っていいと思うんです。「先のことは考えてないけれど、とにかくAさんと仲良くしたいという気持ちはあります」とかでもいいですし。

上坂:自分の欲望ってなかなか把握できないですからね。私が気になったのは、この方の言葉の定義です。「いい感じ」がどういう状態を指した表現なのか、「デート」や「発展」とは具体的になんなのか。この文章を読んだだけだと、視点がやや一方通行な感じがしたので、谷川さんが言っていたような客観視をすることで、認知を整理するきっかけになるかもしれないですね。
谷川:そうですね。自分で自分に恋バナしてみるってなかなかないので、なにか発見があるかもしれません。
上坂:でも、もし友達に「今、恋愛に悩んでいてさ……」ってYouTuberになりきっている動画を見せられたらグッときちゃいますけどね。「お前のことめっちゃ大事にするからな!」と。そんな人絶対に幸せになってほしいから。
谷川:「何回めのデートのここでドキドキしたんです」とか言っていて。
上坂:「この瞬間、めっちゃいい感じだと思ったんです」「はい、これはデート!」とか言ってたら、可愛すぎますね。ただ、鏡の中の自分と喋るのは良くないと聞いたことがあるので、試すのはほどほどがいいかも……。

“ゴリラはゴリラ同士“で。ネガティブ感情への潔い対処法
──次の相談は「パートナーが他の女の子のインスタをいいねしているだけで冷めそうになります」です。お二人は嫉妬してしまうことはありますか?
上坂:めっちゃあります。大好きな友達が、私抜きで他の人と仲良くしてると「うわー!」ってなったり。
谷川:「私も仲良くしたいのにな」って思うことはありますね。それも別にいいのでは、とも思うのですが、この人は同時に冷めそうにもなってるんですよね。
上坂:極論ですけど、私は冷めればいいのでは? と思いました。人間が人間に向けるエネルギーの総量って個人差があると思っていて、エネルギー量デカめの人は、友達でも恋愛でも好きな人が相手なら誰に向けてもデカいんですよ。そういう人を私は“恋愛ゴリラ”って呼んでいて。
谷川:恋愛に向けるエネルギーの総量が大きいからゴリラなんですね。
上坂:“重すぎる”とか言うじゃないですか。でもゴリラは腕力があって持てちゃうから、重いとか気づかないんですよ。重いっていう側の人は大体、腕力のない“恋愛ハムスター”なんですよね。
谷川:ゴリラからしたら別に重いとかじゃない。
上坂:「軽い!」「余裕!」って。だから私は、ゴリラはゴリラと、ハムスターはハムスターと付き合えば世界が平和になると思っています。この人、おそらく自分は他の人にいいねしないわけですよね。その一方で「相手はするんかい!」となれば、パートナーはゴリラではなさそうですよね。それは悪いことではなく、エネルギーの違いなので。
谷川:流派が違っただけだと。
上坂:この相談者さんの言っていること、めっちゃわかります。私もゴリラなので。

“恋愛ゴリラ”について詳しく知りたい方は、上坂さんのポッドキャスト第9回「恋愛において『重い』って言うやつ、腕力が足りないと思う」をチェック
──パートナーに「仕事と私どっちが大事なの?」と聞かれて仕事を選ぶ人もいたりしますが、その人は恋愛より仕事の方にエネルギーを注いでいるともいえそうです。つまり、“仕事ゴリラ”や“仕事ハムスター”も存在するのでしょうか?
上坂:存在すると思います。私は友達にも母親にも恋人にもゴリラで、仕事にもゴリラですね。
谷川:流派が4つあるけど、基本的にゴリラは恋愛も仕事もゴリラなのですね。
上坂:私はそうですけど、仕事はエネルギー量以外にも様々な価値観が絡み合うから、そうじゃない人もいるでしょうね。“恋愛ゴリラだけど仕事ハムスター”とかもいそう。
──タイプの芸能人よりも先に、自分がゴリラかハムスターかを知った方が平和に恋愛できそうです。

関係性の密室という特異性。なぜ人は恋愛に悩むのか?
──恋バナが哲学的な内容になりやすい理由はなんだと思いますか?
上坂:モノガミー(一人対一人の交際・婚姻関係)が一般的な日本では、相手が1人だけのコミュニケーションって恋愛ぐらいだと思うんです。友人や仕事相手のように「この人が駄目でも他の人のところにいけばいい」という発想に辿り着きにくい。つまり“関係性の密室”なんですよね。ところで谷川さん、吉野朔実さんの『恋愛的瞬間』という漫画を知ってますか?
谷川:いえ、存じ上げませんでした。どんな内容なのでしょう?
上坂:とんでもない名著なのでぜひ読んでほしいです。その中に「一見異常で一方的な関係でさえ それぞれがその役割を真に喜びとして感受できるなら (恋愛)関係として充分成り立つのです」という言葉が出てきます。社会的にどうかはこのフィールドにおいて関係がない。そんな特殊な状況って恋愛ならではですよね。
谷川:面白いです。関係性の密室だからこそ、つい「みんなうまくいってるのに自分は……」と勝手に想像してしまうとも考えられますよね。だから悩み事も生まれやすいのかなと。

──タイプのような“分かりやすさ”を求めたり、「〇〇回目のデートで告白」のような独自のルールが生まれる理由も、その曖昧さから逃れたいからかもしれませんね。では最後に、恋愛に悩んでいるユース世代に一言お願いします。
上坂:10代や20代前半って初めてのことばかりで、感情が波立ちやすいですよね。この前10代の女の子から、「彼氏に振られたのでもう死にたい」というDMが来たんです。恋愛はとくに、仕事やその他に比べて歳を重ねればそれだけで楽になってくるジャンルだと思うから、今つらくても、絶対にそんなことで死なないでほしい。
谷川:10代や20代の頃は没頭しやすいですからね。大人になれば結婚や経済事情、住んでいる場所など、他の事情も考えざるを得なくなってきて、ある意味で不純になる。それは、感情の振り回しに疲れづらくなるということでもありますね。
上坂:大人になると恋愛が社会性を帯びますよね。一方で10代の頃は、好きとか嫌いみたいな純度の高い打撃ですから。そんな荒波の中に置かれているから、10代や20代なんて、生きてるだけで本当に偉いですよ。

谷川:本当にそうですね。私が思うことは、人は恋愛のように濃度が高い親しさの人に対して、“純粋さ”を求める傾向があるということで。たとえば、会社の同僚の場合、極論、メリットを提供し合うから一緒にいるわけですよね。でも、恋愛の場合は違う。何もなくても一緒にいるということが、親密性だと思うんです。それは純粋で美しいことだけど、一緒にいる根拠がないからしんどい。好きな人と一緒にいてしんどく感じるのは、当然のことなんですよ。
ユース世代に向けた一言ではないかもしれないですが、無理に一緒にいる根拠を捏造して、“運命”などと考えず、しんどさを認めながら一緒にいればいいんだと思います。その際は、自分や相手がゴリラかハムスターかも、しっかり見極めるといいかもしれませんね。











