未来のために貯金や投資をすることはもちろん大事だけれど、時には人生を変えるような、大きな買い物をすることも必要だ。仕事をアップグレードするもの、生活を豊かにするもの、遊びを満喫するもの……。気になるあの人は、何をどんな決断で買ったのだろう。
今回、人生最大金額の買い物を教えてくれたのは、ファッションデザイナーの苅田梨都子さん。その凛とした佇まいや暮らしに魅了されるし、〈RITSUKO KARITA〉のコレクションには毎シーズン澄んだ空気を感じる。そんな彼女が覚悟を持って購入したものとは?

苅田梨都子
1993年岐阜県出身。 母が和裁士で幼少期から手芸が趣味となる。学生時オートクチュールやコレクションブランドのインターンを経験。バンタンデザイン研究所在学中から以前のブランド梨凛花rinrinkaを開始。梨凛花を6年手掛けた後、自身の名前であるRITSUKO KARITAとして現在活動中。また、趣味が高じて過去に洋画専門チャンネル「ザ・シネマメンバーズ」やHanako webにて「苅田梨都子の東京アート訪問記」のコラム執筆も行う。
Instagram:@ritsuko627
X:@ritsuko627k
RITSUKO KARITA:https://ritsukokarita.store/
同期のある一言をきっかけに、
消費者から生産者へと意識が変化しました
「人生最大の買い物は?」と尋ねられてすぐに浮かんだのは、19歳の頃に購入した職業用ミシンのことでした。同時に、最近30歳になり購入した家具のことも。

高校を卒業して服飾の専門学校に入学しました。ファッションビジネス科を希望していましたが、入学式当日に思い立ってデザイン科へ。その科で課題を作るには家庭用ではなく職業用のミシンが必要でしたが、学校で借りることもできるし、まだ買わなくていいかと考えていて。
というのも、当時好きなブランドの展示会に足繁く通っていたんです。服を作ることと同等に、装うことも好きで。ですが、同期のある一言でミシンを買おうと決意しました。

「僕は好きなブランドの服を試着するたびに悔しい気持ちになって、買うのを我慢するよ。生産者として、もっと頑張りたいと思えて、毎日服作りに向かう。りっちゃんは、デザイナーのためにお金を使って、その人が今後もデザインできるように支援しているように見えるよ」
その同期は学生にも関わらずレディガガに衣装を提供するなど活躍していた男の子でした。私は消費者側にいて、彼は生産者側にいるということ、そして自分が他者にどういうふうに見られているかを知って、衝撃とショックを受けましたね。
家に帰っても悔しい気持ちでいっぱいになり「高い服は買わない。我慢する」と紙に書いて部屋に貼りました。そのあとも展示会に行くことはあったのですが、彼の言葉が頭をよぎりどんなに可愛い服でも気持ちとリンクせず、買えないこともあって。

よく考えれば、展示会で2着ほど服を我慢すれば職業用ミシンが買えるなと思ったんです。職業用ミシンは12万円ほどしますが、そのときたまたま値下げされている旧型がありました。せっかく岐阜から上京して、お金をかけて専門学校にも通っている。貴重な2年間でもっと服を作れるようになりたい、そのための投資をしよう! とおよそ7万円のミシンを買う決断をしました。意思表示のためでもあったように思います。

卒業後ファッションデザイナーとしてやっていく上で、職業用ミシンは仕事道具となり欠かせない相棒のような存在に。初めて買ったその職業用ミシンは、手入れをして長く使用しました。動きにくくはなりましたが今でも使えるので、実家に置いています。
30代の節目として家具を購入
自分の中に大事なこだわりを
職業用ミシンは転機となった大きな買い物ですが、30歳を超えた今、新たな高い買い物をしました。
イタリアの家具メーカー〈Magis〉のソファです。これは私が選んだわけではなく、中目黒にあるファニチャーショップ兼ギャラリー〈LICHT〉にインテリアスタイリングをお願いして、そこから購入したもの。

今の家に引っ越す前に、たまたまLICHTのホームページで部屋のサイズや手持ちのインテリアに合わせた家具を提案します、というインテリアスタイリングサービスを見つけて。
引っ越しが決まったときから、金額は決めていませんでしたが家具を買い替えようと思っていました。今まできちんとした家具を買った経験もなかったので、ぜひお願いしてみようと。実際に新しい部屋の間取りや希望の雰囲気、欲しいアイテムをLICHTさんにお伝えしました。

3Dモデリングで2パターンほど提案していただきました。その中で、もともと持っていたサイドテーブルに合わせたゆったりできるソファ、ちょっと高さのある椅子とテーブルという、ライフスタイルに合ったものがあって。
サービスを利用したからといって、必ず購入するという条件はありませんでしたが、私では選ぶことのない椅子を提案していただきとても気に入りました。特に、Magisのゆったりした、曲線が綺麗なソファ。インパクトのある形なので、白なら部屋に馴染むのではと言ってくださって色も決めました。

また、エッジが効いたものも最近好きだったので、同じく紹介してもらった黒い椅子も購入しています。LICHTでは、購入した家具を手放すときに、売るルートを手助けしてくれるセカンドサークルサービスもあるとのことで、それもいいなと感じました。高い家具はそれなりにまた売ることもできる。高いものを買うことは自己満足でもあるけれど、価値があるから飽きても、部屋の環境が変わっても、次の人にバトンタッチできていい循環になるなと思ったんです。

新しい家具を揃えるのに合計30万円近くかかりましたが、前のお家でもう満足したなと思える棚などをフリーマーケットで売却しました。そのお金をうまく利用して購入しましたね。

30代の節目として、10代や20代とはまた違った覚悟で家具を購入したように思います。誰かに何かを言われるからではなく、自分の中にこだわりを持っていたい。
家の中で毎日触れて見るものにお金をかけることで、雑に扱うことはありません。それに、気に入ったものを置いているので精神的に整うように感じます。美術館に毎日行かずとも、家にある美しいプロダクトを目にすることで、私もより良いものづくりをしようと思えるんです。

買い物とは新しさに触れることや高揚した気持ちを味わうことでもあると思っていて、それは生きる上で大切だと考えています。ネットショッピングも便利ですが、私はなるべくお店に足を運び、実物を目で確かめています。そうすることで無駄な買い物は減りますよね。5月中頃に訪れた神戸で〈FRAMA〉のティーカラフェとグラスを購入し、紅茶を飲むたびに嬉しい気持ちになっています。

今、大きな買い物をするなら、全国の気になるホテルへ宿泊したいですね。特に広島・尾道の〈LOG〉にずっと泊まってみたいなと思っていて。宿泊は簡単な引っ越しみたいな気分が味わえるので好きなんです。その場所で1日でも生活をしてみて、記憶に残るお金の使い方をしたいですね。
Text&Edit:久保泉