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人生に芸術は必要か?

 “対話する”アートフェスでもっと身近に芸術を感じる「MEET YOUR ART FESTIVAL」

author: 川端 由美date: 2022/09/26

2022年5月13〜15日にかけて、東京・恵比寿ガーデンプレイスにて「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘New Soil’」が開催された。エンタテインメント業界を牽引するエイベックスが運営するアートの専門メディア「MEET YOUR ART」が主催するアートフェスを、素材大手企業である積水化学がメインサステナビリティパートナーとして支援する理由を訊いた。

もっと身近にアートを感じられる機会を

偉大なる思想家のフリードリヒ・ニーチェは、著作である『悲劇の誕生』の中で「アートとは人生において本来取り掛かるべき最大の課題である」と表現した。またコロナ禍において、ドイツ政府が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要だ」として、大規模な経済政策を打ったことも記憶に新しい。

そんなふうに、アートが人生に不可欠な欧州の状況とは裏腹に、私たち、日本人はアートに対していささか「遠い」印象を持っている。そんな現状を打ち破ろうとするのが、今回、紹介する”MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘New Soil’”(以下、MEET YOUR ART FES)だ。

同イベントは、エイベックス・ビジネス・ディベロップメント株式会社が運営しているYouTubeにて配信されているアート専門番組”MEET YOUR ART“が開催するアートフェス。

アートを展示し、アートそのものや芸術家から世界を広げていく既存の展示会とは異なり、フェスという気軽な雰囲気を活かして食/音楽/ファッションの体験をさまざまな足掛かりとしつつ、アートを根幹のテーマとして「自分のアートに出合う体験」を作り出すことを目的とした国内最大級のアートイベントである。

写真右・エイベックス・ビジネス・ディベロップメント株式会社・代表取締役社長 加藤信介氏、メインサスティナビリティパートナーである積水化学工業株式会社・新事業開発部長 吉岡忠彦氏)

「今までアートに興味がなかった人たちに対して、今までとは違うアプローチでアートを届けていきたいと思っています。ただ、いきなり”自分ごと”として捉えるのは難しいと思うので、食や音楽などの隣接したカルチャーを一堂に会することで、個々人が別の目的を持ちながらアートに触れる機会を作りたい。そこから、自分なりのアートの楽しみ方を感じてもらうことが目的です」と、本プロジェクトのプロデューサーを務めるエイベックス・ビジネス・デベロップメント株式会社・代表取締役社長 加藤信介さんは語る。

また、今回のイベントのキュレーターを務める山峰潤也氏はテーマである「New Soil」について次のように語っている。

「Soilというのは土壌という意味で、今ある価値観を共有して、つなげることをイメージしています。”新しい時代の環境”と”立ち戻る場所”という二つの意味を含んだテーマです」

キュレーターを務める山峰潤也氏。

答えのないアートへの問いにアートで答える

山峰氏がキュレーションを行うコーナーには、文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースのあらわした著作『悲しき熱帯』の最後に記された「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう~(中略)~それでも人間は生きている。私たちは生きている」という一節から、“The Voice of No Mans Land”と題して人間の外側にある世界と人間の世界を繋ぐことをテーマとした作品をキュレーションし、アート・エキシビションを設けている。

栗林隆作「元気炉3号基」

元気炉3号基はミノムシを模した個人利用のサウナで、ボイラーと吊るす重機までがひとセットになったアート作品だ。単純な展示ではなく、過去には実際に海辺にてサウナとして使用するイベントも実施された。

宮永愛子作「結-ゆい-」

白い瓶は防虫剤にも用いられるナフタレンによって形づくられている。昇華(固体から直接気体に変化すること)する性質を持つナフタレンは時間と共に崩壊していく。真っ白な瓶が崩れ落ち、それがガラスに付着することで結晶化する。物質は箱の中で循環し、予測のつかない美しさが生まれるのがこの作品の大きなテーマだ。

「変化する彫刻は彫刻なのか?」という自分への問いすらもギフトにしてくれる。

AKI INOMATA作「彫刻のつくりかた」ビーバーによる彫刻
AKI INOMATA作「彫刻のつくりかた」AIによる彫刻

「彫刻のつくりかた」は芸術家が感じている根源的な問いを教えてくれる。一枚目の写真はビーバーがダムをつくる際に削った流木が並べられており、二枚目の写真はその流木をAIに学習させ、彫刻を彫らせた作品だ。この彫刻が言いたいことはつまり、「芸術の作者は誰なのか」ということだ。

ビーバーの彫った彫刻だからビーバーが作者なのか? それとも自然に彫らされているのか? または人間が注目してピックアップしたことで芸術となったのか? 誰が作り手でどこからが芸術なのか?

答えのない問いを感じ続けることこそがアーティストに必須の能力なのかもしれない。

よりアートと近づくため、アーティストとの対話も可能

わざわざ“人間のいない世界”を考えるのには理由がある。それはこのアートイベントはサスティナブル、エシカルといったキーワードが重視されているからだ。

「サスティナビリティやサーキュラー・エコノミーは、たしかに達成するべき社会課題ですが、一社だけでは到底できません。いろいろな技術や知見があるところが協力して社会全体でやらなければならない。どうやったら消費者に対してアプローチできるかということを考えたとき、新しい資源循環の世界観を発信力の高い人からポップに伝えたい。安いから、とか便利だから、という理由だけではなく、サスティナブルだから、という理由で商品を選ぶ世界観を作りたかったのです。そういう意味で、エイベックスさんとは狙っていることの根っこが一緒だったので今回、協業をすることになりました。

「積水化学工業」という社名から、化石燃料を元にした化学合成をイメージされると思いますが、時代の変化に沿って、ゴミを資源として活用し、微生物を用いて素材へと循環していく技術なども開発しています。自然との調和によって、人間の生み出したものを、みんなでぐるりと回していくというイメージです」と、このイベントのメインサスティナビリティパートナーである積水化学工業株式会社・新事業開発部長を務める吉岡忠彦さんは語る。

そして、このイベントで何よりも特筆すべきは現役のアーティストと対話しながら、さまざまな作品を同時に見ることができるということだ。

都市を題材として、曲げ材を用いた製作を行うアーティストのサイトウユウヤ氏

「アーティストは作品を作って終わりではなく、作品についての対話を繰り返しながら自分の中のイメージを洗練します。例えば”ストリート・カルチャー”のような、自分が引用する言葉を質問されたりしてまた考える機会を得ることになります。自分の中の思想を元に作った瞬間では作品はまだ完成しておらず、対話を重ねて時代の空気を吸って、少しずつ新たに意味づけをしていくことで成熟した作品へと進化していくものだと思っています」と語るのは、アーティストのサイトウユウヤさんだ。

Dropシリーズ。表面には都市をモチーフとしたグラフィティをほどこし、基礎は同じ形状の曲げ材によって構成されている。

「14歳のときからスケートボードをやってきた体験から、都市に対する考えを得ました。シリーズの作品名の“Drop”も“drop in”(意味:立ち寄る)とスケートボーダーが落下していく形から得たものです。曲げ材を用いているのは、表面だけではなく立体的な形状も含めた作品全体として都市を表現したいという想いからです。私自身の思想は、カンバスやパネルなどの既存の平面のものを使った瞬間に消えてしまうので、例え大変でも、ハードとソフトの両方に対してアプローチをすることを大切にしています」(サイトウユウヤさん)

冒頭のニーチェの言葉にはさまざまな解釈があるが、心理学者のアラン・D・シュリフトの解釈を紹介しよう。

「この言葉は芸術が”真実よりもどれほど重要か”ということについて論じている。~(中略)~私たちは見えるものを真実だと捉えるが、芸術は表面にある”真実”を超越し、人生をより素晴らしいものへと切り拓くものだ。~(中略)~我々が芸術に取り組むとき、必ず創作活動をしなければならない。自分が見ているものに対する異なる表現方法を探すことで真実に対しての疑問を投げかけているのだ」

正直なところ、このアートフェスに参加して、アーティスト本人と対話するまで、彼らに見えている世界はピカソの「ゲルニカ」のごとく、我々、一般人とは全く異なるものだと思っていた。しかしそれは誤りで、彼らに見えている世界は私たちとそう変わりはない。単純に、「異なる表現方法」を寝ても覚めても探し続けているに過ぎないのだ。この気づきがのプロセスに宿るものこそがアートに触れる価値だといえるだろう。人生をより素晴らしいものへと拓くために、「自分だけのアート」と出合いに行こう。


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ジャーナリスト/戦略イノベーション・スペシャリスト
川端 由美

工学修士。住友電工にてエンジニアとして務めた後、自動車専門誌『NAVI』の編集記者に転身。『カーグラフィック』編集部を経て、ジャーナリストとして独立。自動車を中心に、新技術と環境問題を中心に取材活動を行なう。海外のモーターショーや学会を積極的に取材する国際派でもある。戦略コンサル・ファーム勤務後、戦略イノベーション・スペシャリストとして、再び、独立。現在は、ジャーナリストとのパラレル・キャリア。近著に、『日本車は生き残れるか』講談社刊がある。
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