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今、目の前で生まれる作品を目撃せよ

サツマカワRPG×端栞里が語る「観劇のすすめ」

author: 舩岡花奈date: 2025/12/26

気がつけば、演劇の話題が、少しずつ身近なところにある気がする。気になるあの人が、観劇した感想をSNSに投稿していたり、劇団にコメントを寄せていたり。以前よりも、演劇にまつわる言葉を目にする機会が増えた。

「演劇」について、なんだか気になる。けれど、いざ観に行くとなると、「なんとなくハードルが高そう」という気持ちが先に立つのも、正直なところだ。

今回は、お笑い芸人のサツマカワRPGさんと、俳優で劇団・南極の劇団員でもある端栞里さんに観劇の魅力について、話を聞いた。

サツマカワRPG

2012年4月にデビュー。「R-1グランプリ」では2022年から2024年まで3年連続で決勝に進出する。2023年5月にはGERAで冠番組「サツマカワRPGの今後いろんなお仕事をやっていく上でトークもできた方がいいと思ったのでラジオも頑張っていこうと思ったので始めることにしたラジオ」がスタートした。Yes!アキト、どんぐりたけしとのユニット「怪奇!YesどんぐりRPG」としても活動している。

X:@satsumakawaRPG

端栞里


俳優、南極の劇団員。高校2年生の時に初めて小劇場演劇を観て興味を持ち、演劇の世界に足を踏み入れる。王子小劇場の年間アワード佐藤佐吉賞2022にて、最優秀助演俳優賞を受賞。CoRich舞台芸術まつり!2024春にて、演技賞を受賞。

Instagram:@shiori_8da10
X:@shiori_8da10

「絶対こっちじゃん」と思った観劇デビュー

──今日は、お笑い芸人として活動するサツマカワRPGさんと、俳優で劇団・南極に所属する端栞里さんにお越しいただきました。お2人には、「演劇を観る側」としての楽しさについてお話を伺います。

端:よろしくお願いします! 普段は俳優として「演劇」をつくる側の立場にいることが多いんですが、観ることも大好きなので今日は楽しみです。

サツマカワRPG:お願いします! 俳優さんって、何きっかけで演劇観に行こうってなるんすか!?

端:ちゃんと演劇を観に行くようになったのは、高校2年生の夏ですね。小学生のころから、なんとなくお芝居は好きで。音読の時間が好きだったり、「将来の夢は?」って聞かれたら役者って答えたりはしていたんですけど、中高に演劇部がなくて。

サツマカワRPG:あ、そうなんですね。てっきり昔から演劇部かと思っていました。

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端:ずっと運動部だったんですよ。高校生のときに所属していたバレー部は、めちゃくちゃ忙しいタイプの部活で、まとまった休みってあまりなかったんです。

でも、あるとき急に3日だけぽっかり休みができたんですよ。夏休みだったし、「あ、今なら観に行けるかも」と思い立って演劇を観に行きました。

──何を観に行ったんですか?

端:大学に進学したら演劇サークルに入ろうかなとぼんやり考えてたんです。それで進学先の演劇サークルを調べたら、そこのOBOGの方が立ち上げた劇団の公演がちょうどやっていて。

サツマカワRPG:え、タイミングめちゃいいですね(笑)。

端:ちょうど観に行った舞台の形が、六角形で360度お客さんに囲まれてるタイプで、距離がめちゃくちゃ近かったんです。目の前で生身の人間がお芝居しているのが衝撃的でした。しかも、高校生だったので、チケットが500円なんですよ。

サツマカワRPG:映画を観るよりも安いじゃん!

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端:安いし、近いし、音もデカいし、役者さんからの熱も感じる。この感覚って演劇でしか感じられないから「絶対コレじゃん」と思いました。この公演を観てからもう演劇にどっぷりです(笑)。気がついたら、休みの三日間連続で演劇を観ていました。

──サツマカワさんは演劇に興味を持ったきっかけってあったんですか?

サツマカワRPG:もともと、演劇に触れる機会はほとんどなかったんです。でも、コロナ前くらいのタイミングで、東京にこにこちゃんの主宰である萩田頌豊与(つぐとよ)さんから、「公演のアフタートークに出てくれませんか?」って声をかけてもらって。「芸人の中から相当掘らないと、俺までたどり着かないだろ」って思っていたので、連絡いただけたことが嬉しくて。

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──お仕事をきっかけに、演劇に触れるようになったんですね。

サツマカワRPG:そうですね。観劇に誘っていただくことが増えて、舞台を観るようになりました。いろんな劇団の作品に触れていくうちに、「劇団ごとに色があって、めっちゃおもろいやん」って思うようになったんです。

そこから、だんだん「観るだけじゃなくて、自分も舞台に立ってみたいな」って思うようにもなってきて。「演劇観たいし、出たいし」みたいな、今思うとちょっと愚かなツイートをしたら(笑)、それを見た方が声をかけてくれるようになりました。気づいたら、あっという間にいろんな演劇に触れるようになっていったんです。

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──最近だと、何を観たんですか?

サツマカワRPG:それで観に行ったのが、演劇ユニット・タイダンの舞台でした。タイダンさんの舞台は観たことがなかったんですけど、めちゃくちゃ面白くて。演劇のことを詳しく知らなくても、僕みたいにフラッと入って、その場の空気とか、演出とか、演技とかその場で一気に魅了される。そういう連鎖みたいなかたちで、ハマっていくパターンもあるんじゃないかなって思います。「詳しくなってから行く」じゃなくて、「行ってみたらハマった」でいいというか。

冷静でいられなくなるから面白い、演劇の没入感

:映画やドラマなどの映像の作品って、どこか俯瞰して観ている感じがあるんですよね。演者が疲れてたらやり直せるし、ミスもカットできるから綺麗なところだけが残るじゃないですか。

でも、演劇はそうじゃない。疲れていても、そのまま続いていくし、失敗も含めて全部がそこにある。

私は客席と舞台が近いような小劇場が好きなんですけど、役者さんと距離も近いし、熱もこもるし、目の前で「今、この作品がつくられている」感じがすごくあるんです。

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役者さんが大声を出して、だんだん疲れ果てていくのを見ていると、こっちまで冷静でいられなくなるというか。気がついたら前のめりになって観ていて、終わったあと「なんか疲れたな」って思う。そのくらい、作品にのめり込める感覚があるんです。

サツマカワRPG:没入感的な感覚、ありますよね。お笑いでも、ライブってそういう感覚がある気がします。多少荒れてても、その瞬間の空気込みで成立するというか。特に僕はそういうタイプというか(笑)。

:そうそう。今年、自分の好きなメンバーでひとつ作品をつくってみたくて、「端栞里と高熱」という一人芝居を企画をしたんです。

そのときも、物語の面白さはもちろんなんですがそれ以上に、「端栞里を見てください」みたいな感覚でやっていて。走り続けて、息切れして、それでも声を出している状態そのものを見せたかった。

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サツマカワRPG:もう、頑張ってる姿自体が面白いですもんね。

端:そうなんです。役者が疲れてるのって、すごく面白い。「疲れてるのに、まだ声出てるな」とか、役者の肉体が消耗していく様子そのものに、つい目を奪われてしまうんです。

息切れしているのも含めて、その場で起きていることを、そのまま観るしかない。「生きてる人間が、今ここにいる」っていう感覚が、ものすごく強くある。

あと、演劇って“どこを観るか”を自分で選べるのも、大きな魅力だと思っていて。映画や映像は、シーンによってアップされたり、カメラが切り取ったものしか観られないけれど、演劇は違う。喋っている人じゃなくて、端でずっと動いている人を目で追ってもいいし、反応している側の表情を観ていてもいい。

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2人芝居でも、意外と喋っていない方の顔のほうが気になったりするんですよね。声は音として入ってくるから、視線は自由でいい。

映像に慣れていると、「今話している人を観なきゃ」と思いがちだけど、演劇では、そのルールすら手放していい。どこに目を置くかも含めて、観客に委ねられている。

そうやって、身体の疲れも、視線の迷いも、その場の空気ごと引き受ける。それもまた、演劇のおもしろさのひとつなんだと思います。

劇団、劇場、演目、自分の好きな「演劇」を見つける楽しさ

──劇場がたくさんあって、どこから観に行けばいいかわからないと思っている演劇ビギナーの方も多くいると思うんですけど、お2人のオススメの劇場とかってありますか?

端:私はやっぱり、表情がちゃんと見える距離感の劇場が好きですね。王子小劇場(※現・インディペンデントシアター王子)は特に好きでした。天井も高めで、空気が抜ける感じがあって。

サツマカワRPG:王子、この間行きました。2階建てのね! あそこ、距離近いけど、ギュウギュウすぎない感じがちょうどいいですよね。

端:そうなんですよ。近すぎると、それはそれでしんどいし(笑)。大劇場だと、どうしても表情が見えなくなるじゃないですか。そうなると、没入というより「観てる」感覚が強くなっちゃう。

サツマカワRPG:確かに。演劇の良さって、表情とか息遣いも含めてかもっすね。

端:あと、私は天井が高い箱が好きです。早稲田のどらま館みたいな黒くて、天井が高くて、変な装飾がない。ああいう場所だと、想像力が広がるというか。

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サツマカワRPG:天井低いと、ちょっと“家感”出ますもんね。

端:照明も近くて、「ここ現実だな」って思っちゃう瞬間がある(笑)。逆に、変な形の箱とか、劇場じゃない場所も結構好きです。

──劇場じゃない場所、というと?

端:たとえば、水性 suiseiっていうレンタルスペース。元クリーニング屋で、ガラス張りなんです。演劇用に作られた場所じゃないからこそ、「どう使うか」を考える余地があって。

サツマカワRPG:それ、演劇っていうより、ほぼライブ会場みたいな感覚ですよね。

端:そうですね。生演奏が入ったり、音楽と一緒に進んでいく演劇も多くて。あと、北千住のBUoY(ブイ)も好きです。南極でもこの場所を使ったことあるんですが、元銭湯を改装した場所で、風呂場をそのまま使ったりする。

サツマカワRPG:銭湯で演劇……すごいな。

端:普通の劇場より難しいんですけど、その分、遊びがいがある。「この空間でしかできないこと」を考えるのが、演劇の面白さでもあると思います。

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──場所によって、演劇の見え方も変わってきますよね。

サツマカワRPG:それ、観る側としてもすごく感じます。演劇って、終わったら全部バラしちゃうじゃないですか。舞台美術も、セットも。

端:そうなんです。何ヶ月もかけて作ったものが、終演した瞬間に全部なくなる。

サツマカワRPG:だからこそ、「今行かないと見れない」っていう気持ちになる。映画みたいに「まだやってるから、また今度」ができないのが、逆にいいなって思うっすね。

端:めちゃくちゃわかります。演劇って、「ここ」「この日」って決まってるから、観に行く理由がはっきりしてる。

──そんな中で、最近印象に残っている劇団や作品はありますか?

サツマカワRPG:東京にこにこちゃん、やっぱ面白かったですね。

:私はずっと好きな劇団にコンプソンズとMUM&GYPSY(マームとジプシー)があります。

サツマカワRPG:コンプソンズ、僕も観たことあります。正直、最初は「どの人がどの劇団か」まではわかってなかったんですけど(笑)、観てるうちに「あ、この空気、好きだな」っていうのが残る。

:コンプソンズは、基本ずっとコメディなんですけど、最後に一気にエネルギーが爆発する感じがあって。MUM&GYPSYは、また全然違って、言葉とリズムで引き込まれる。

サツマカワRPG:同じ演劇でも、全然タイプが違いますね。

端:だから、劇団にハマる人も多いんだと思います。役者個人を追う人もいれば、「この劇団の空気が好き」って人もいる。

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──演劇って、知れば知るほど広がっていく世界ですね。

サツマカワRPG:ほんとに。最初は何も知らなくても、フラッと行って、「なんかよかったな」で全然いいと思う。

端:そうですね。演劇って、ちゃんと勉強してから行くものじゃなくて、疲れたり、ドキッとしたり、「なんか残ったな」って思えたら、それで十分。

サツマカワRPG:その感覚を味わいに行く、っていうのが一番近いかもしれないですね。

──最後に、これから初めて演劇を観てみようかな、と思っている人へ。一言お願いします。

端:難しく考えなくていいと思います。「ちゃんと理解できるかな」とか、「詳しくないと楽しめないかな」とか、全然気にしなくて大丈夫で。正直、全部わからなくてもいいし、途中で「これなんだろう?」って思ってもいい。

でも、息づかいとか、声の大きさとか、役者さんの動きとか、そういう“今ここで起きていること”を感じられたら、それだけで演劇は成立してると思うんです。

サツマカワRPG:僕も最初は本当に何も知らなかったです。誘われて、フラッと行って、「なんか面白かったな」って思っただけ。

でも、その「なんか」が残るのが演劇で。あとから思い出して、「あの空気、よかったな」とか、「あの人の間、変だったな」とか、じわじわ効いてくる。

端:だから、気になる名前とか、気になる場所があったら、まずは行ってみてほしいです。合わなかったら、それも全然アリなので。ぜひ、南極の舞台も観に来てください!

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Photo:田中成美
Text&Edit:舩岡花奈

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舩岡花奈

1998年生まれ、山形県出身。編集者・ライター。最近ハマっていることはランニング、登山。ペーパードライバー卒業を目指して奮闘中。好きなことは人の日記を読むこと。
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