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老舗ブランドが向かう、次の100年とは

“スーパーカー超王”がベントレー最新PHVに試乗

author: 山崎元裕date: 2022/06/26

100年を超える歴史を持つ英国の老舗自動車メーカーにして、英国王室御用達を拝命するベントレーが、2020年に次の100年に向けた長期事業戦略「ビヨンド100」を発表した。その方針をさらに加速すべく発表された中期事業戦略「ファイブ・イン・ファイブ」では、老舗ブランドの驚くべき電動化戦略が語られていた。今回、スーパー・スポーツカーを追い続けるモーター・ジャーナリストの山崎元裕氏が、ベントレーの最新PHVの試乗とともに、ベントレーの次世代戦略を語る。

ベントレーが次の100年に向けて、新たな戦略を発表

イギリスのベントレーモーターズが、これまで築き上げてきた100年の歴史を背景に、これからの100年をどう成長させるのか。その長期的な事業戦略である「ビヨンド100」を発表したのは、2020年11月のことだった。その骨子となるのは自動車そのものではなく、その製造過程に至るまでの、組織全体にわたるカーボンニュートラル。すなわち二酸化炭素(CO2)排出量をゼロとすること。2030年までにはすべてのモデルをBEV(バッテリー式電気自動車)化することも、その場で発表された。つまりベントレーの次なる100年の成否は、このビヨンド100、さらにそれを加速させるべく今年の1月に発表された、中期戦略である「ファイブ・イン・ファイブ」計画の実現にかかっているといってもよいのだ。

「ファイブ・イン・ファイブ」とはいかなる戦略なのか。それを知らなければ現在の、そして近い将来のベントレー像というものは見えてはこない。その中でベントレーがまず明らかにしたのは、サステナビリティの実現に向け、今年10年で25億ポンドの新たな投資をすることと、2025年に販売の開始が計画されているベントレー初のBEV(バッテリー式電気自動車)のデビューだ。それはもちろんクルー本社で生産され、工場で働く従業員はもちろんのこと、クルーの地域、あるいはイングランド全体を活気づけるものとなるのは確かなところ。最終的には価値ある製品を生み出す、持続可能な自動車の生産拠点として、ベントレーはイギリス経済への大きな貢献さえ期待できるのだ。クルー工場がこれから目指すものは、デジタル化と環境負荷ゼロを実現する、高い価値を生み出すフレキシブルな生産システム。ベントレーはこれを「ドリームファクトリー」と表現する。

クルー工場ではすでに大規模な改修が進んでおり、カーボンニュートラルの認証を得ることも実現した。今後はさらにビヨンド100戦略の加速によって、非製造業務などのCO2排出量削減に注力。2030年までには組織全体でのカーボンニュートラルを目指し、ファイブ・イン・ファイブのタイトルが表すように、2025年からの5年間で毎年1車種ずつ、トータルで5車種のBEVがベントレーのラインナップに加わるという。

プレミアムSUVを再定義する、同社初のSUVの魅力

このような積極的な中長期事業戦略の中に現在のベントレーがあることを考えると、今彼らが生産するPHEVは、あくまでもそれまでの短い時間を受け持つための役を担う存在であるようにも思える。今回試乗したのは、ベントレーにとっては「プレミアムSUVを再定義する」という言葉とともに、同社初のSUVとして誕生した「ベンテイガ」のセカンド・ジェネレーションに用意されたPHEVモデル。実は初代ベンテイガにもPHEVは設定されていた(2019年デビュー)のだが、こちらは残念ながら日本市場に上陸することはなかった。その意味でも、ボディーのディテールと同様に新鮮さは上々だ。

ベンテイガ・ハイブリッドに搭載されるパワーユニットは、3LのV型6気筒ツインスクロールターボに、エレクトリック・モーターを組み合わせたもの。エンジンは最高出力&最大トルクで340ps&450Nm、エレクトリック・モーターは同様に128ps&350Nmを発揮する。システム全体としては、449ps&700Nmというのが公式なスペックとなる。ちなみにこれをライバル各車の中で比較してみても、特に大きなハンデは感じられないというのが実際のところ。ベンテイガ・ハイブリッドの車重は約2.7トンにも達するが、それでもスタート時や中間加速でのもたつきは感じられない。これが回転を始めた瞬間に最大トルクを引き出すエレクトリック・モーターを搭載する最高の美点といえるのだ。

美しく、そして上質なインテリア。そのドライビング・シートに身を委ねる。高級なものに我が身を包まれると人は優しくなるというが、どうやらそれは間違いではないようだ。

まずはデフォルトの走行モードとなる「B=ベントレー」を選択してドライブを始めたが、一般道のシチュエーションでは、エンジンの助けを借りずともEVとして走りを続けることができる。EV走行を行うための「EVモード」スイッチ(ほかに「ハイブリッド」、「ホールド」が選べる)は、スタート&ストップボタンの後ろに隠れるようにレイアウトされているので分かりづらいが、ベントレーによればEVモードでは満充電から最大51km、最高速で135km/hまでの走行が可能。ハイブリッド・モードではナビゲーション・システムとの連携で、目的地でちょうど17.3kWh分のバッテリー残量がゼロになるように、市街地でEV走行の比率を高めるなどのコントロールしてくれる。ホールド・モードはできるだけバッテリー残量を維持するための、エンジン主体の走行パターンを選択するモードだ。

ここまでの話を聞くと、いささか頭が痛くなるかもしれないが、ベンテイガ・ハイブリッドは、現在市場にあるSUVの中で最も先進的な制御を行っているモデルではないのだろうか。もちろんこの先にはBEV化されたベンテイガが待っていることは前でも解説したとおり。そのためのつなぎ役としても、左右に燃料キャップを持つベンテイガPHEVの魅力は素晴らしい。惜しむべきは、充電が200Vの普通充電のみの対応で、CHAdeMOの急速充電には非対応であることだろうか。

参考までに、ベンテイガPHEVのCO2排出量はWLTP基準で83g/km。これはV8モデルの3分の1にも及ばない数字であり、すでに十分なCO2排出量の削減に成功しているとも評価できるだろう。しかしここからにこの数字を0に導こうというベントレーの野心。しかもその達成までの時間は自分自身で定めた、わずか数年ほどのものなのだ。おそらくその第一弾はこの、あるいは次世代のベンテイガとなるだろう。ベントレーがどのようなBEVを作り上げてくるのか。PHEVのベンテイガに乗って、早くもそれが楽しみになってきた。

“スーパーカー超王”が思う、ベントレーの次の100年

“スーパーカー超王”として知られる山崎元裕さんに同行して、ベントレーの歴史を拝聴しながらのテストドライブでは、インターネットには載っていないナマの歴史に触れる好機でした。ベントレーと聞くと、英国の老舗ブランドで、保守的なイメージを持つ人も多いかもしれませんが、実は大変チャレンジングなブランドです。創業当時、まだ命の危険すら伴っていたレースへの挑戦を通して、最先端のテクノロジーを自動車に搭載してきた歴史を持っています。今回、試乗していただいた「ベンテイガPHV」は、電動化が加速する今の時代に沿った最先端のテクノロジーを導入しながらも、ベントレーが過去の100年で培ってきた歴史も継承する、そんな意気込みが感じられる一台でした。

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モータージャーナリスト
山崎元裕

青山学院大学卒。中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、以後毎日のようにスーパーカーのことを考えて生きている。そんなスーパーカーが続々と誕生する、世界各国のモーターショー取材は何よりの楽しみであるが、もう1年以上は海外に足を運ぶことができず、最近は欲求不満気味の59歳。
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