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Beyond SDGs vol.05:当たり前に過ごすために「当たり前」をやめること

今日からあなたもヒーローになれる、SDGsのはじめ方

author: 大畑慎治date: 2022/05/14

本連載第5回目で登場いただくのは、「環境系エンターテイナー」としてSNSを中心に活躍している、WoW(ワオ)キツネザルさん(以下、WoW)。生き物と、その生き物たちを取り巻く持続可能な環境について、気付きのきっかけになるような発信を続けています。WoWさんの考えるSDGsとの関わり方が「SDGs 2.0」たる所以とは。大畑さんがナビゲートしていきます。

環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさん。写真は実際にマダガスカル島に行き、絶滅危惧種であるワオキツネザルとパシャリ

2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs。そのメインタイトルには「Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development」と書かれています。「Transform」は、「これまでの延長線上」の改善や解決を示す単語ではなく、サナギが蝶になるように「すっかり変わってしまう」ときに使われる単語。このような大きな変化を表す言葉を使わなければならないほど、もう間に合わない段階まで、未来への危機が迫っていることを示しているのです。

持続可能な未来のために、私たちの取り組みを、根本から変えていく必要があるということ。

私たち消費者だけでなく、企業や自治体、国や政府が主導となって変えていかなければいけないということ。

これまで、SDGsに関する発信を続けてきたWoWさんの考えをヒントに、今日からあなたもヒーローになりませんか?

生き物を守るということは、ありのままの自然を守るということ

大畑:「生物多様性」ってよく聞く言葉ですが、一体何を指しているんでしょうか。

WoW:ひと言でいうと、「数の多さ」ではなく、「種類の多さ」を指す言葉なんです。自然界の生き物たちは、さまざまな生き物と、さまざまな空間(環境)があって存在しています。そのなかの、たったひとつの生き物が失われただけで、依存したり、支え合っていたり、捕食していたり、分解されていたりした関係が、少しずつ崩れはじめていってしまうんです。

大畑:1種類いなくなっただけでも、自然界にとっては、かなりの損失になってしまうんですね。

WoW:そうなんです。逆に、今までそこにいなかった種類の生き物が急に増えてしまっても、バランスが崩れてしまう。最近よくニュースで見るのは、鯉やニジマスの放流。「昔の豊かな自然を取り戻したい」という名目で、自治体が取り組んでいますよね。あれって、やってはいけないことなんです。

大畑:えー!そうなんですか!

WoW:だって、鯉もニジマスも外来種なんですよ。

大畑:「鯉」って漢字で書くから、日本古来の在来種なのかと思っていました。

WoW:在来種の鯉も、もちろん存在はします。でもごく少数で、たとえば琵琶湖の深い水域にしか生息していなくて、それ以外は、ほとんどが外国から持ち込まれた外来種です。

で、もうひとつ次の段階の話をすると、放流って本当に自然のためになるかどうかという話。生態系は、さまざまな種類が関わっているから保たれているのであって、その生態系があるから生物多様性の恩恵を人間が受けることができるんです。でも放流という行為は、1種類の特定の生き物を大量に自然に放つわけですよね。そうすることで、どういった影響が出るのかというデータをちゃんととっていないことが多いんです。そして、 放流された生き物は、ほとんどが死んでしまう。

大畑:それなのになぜ、放流が続けられているんでしょう?

WoW:なぜかというと、いいことをやってる風に見せられるからなんですよ。いわゆる、「SDGsウォッシュ」(※1) ですよね。自然を守る、生き物を守るっているのは、特定の1種類だけを守るのではなく、自然がありのままでいられる状態を保つこと。それを理解していない企業や自治体が本当に多いんです。ところで大畑さん、ウナギは好きですか?

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大畑:好きです。

WoW:アテクシもとっても好きなんです。でも、ウナギって絶滅危惧種なんですよね。数が少なくなってきているのに、消費量は増え続けている。だから養殖をしているんですが、完全に卵から還すっていうのは、あまりにコストがかかるので、現実的な方法ではない。

だから、「シラスウナギ」という稚魚を捕まえて、飼育して大人にして、それを出荷していることが多いんです。で、ここにも問題がひそんでいるんですが、日本で養殖されているウナギの5〜7割は違法に密猟されている。だから我々がスーパーや高級店で買うものにも、100%紛れ込んでいて、どのウナギが正規ルートで仕入れたものかどうか、今の段階では判別できないんです。

アテクシもウナギが大好きなんですが、食べるとウナギの密猟に手を貸すことになるので、今は食べていません。

大畑:なるほど。難しい問題ですね、これって解決方法はあるんでしょうか。

WoW:企業がトレーサビリティを徹底するっていうこと。これが一番の解決策になると思っています。このウナギはどこで獲れて、誰が釣って、どう養殖したものか。それが最初から最後まで見える化されていることが重要。そうすることで、ウナギの持続可能性って保たれると思います。

大畑:確かにそうですね。でもトレーサビリティをしっかりできているところだけでしか食べられないとなると、かなり限定されてしまいますよね。

WoW:そこなんです。今までウナギを売ってきた人の職を奪いかねない。その問題と、ウナギが絶滅するまで食べ続けていいのかという問題の論争になるんです。だったら、これからもウナギを食べ続けられるような事業を一緒にやりませんか? っていう対話ができたらいいなと思うんですよね。

ウナギと味の似た何かを大豆で作ってみるとか、ウナギの放流じゃなくて、生息環境をよくしてみるとか、ウナギの生態についてもう少し深く学んでみるとか、そういったことにつながっていくといなと思って、動画配信もしました。

大畑:企業や自治体は、SDGsに貢献しようと思うがゆえに、本来の目的とずれてしまっている取り組みもみられます。そういったことに対して「もうちょっとこうだったらいいのに」と思っていることってありますか?

WoW:たとえば、ペットボトル飲料の会社があります。その会社が「SDGsに寄与するために、ペットボトルに使う原料を完全にサステイナブル素材にします」と発表したとして。その側面だけを見ると、とてもいい取り組みだよね、となる。

でも一方で、そもそものプラスチックという素材の問題であるとか、輸送にかかる二酸化炭素の問題っていう部分については一切触れていないんです。

だから、「我々はこういった取り組みをやっています。これに関してこういった部分は解決できるのですが、まだこういった問題が山積みです。そのためには、我々も努力が必要ですが、消費者の皆さんと一緒に変わっていきたいんです」と、そこまでさらけ出していって欲しいと考えています。

大畑:消費者が日常でSDGsに取り組んでいくためには、企業側がいかに現状をさらけ出す努力をできるかにかかっているかもしれませんね。

日本と欧米では「環境」の捉え方が違う

大畑:海外では、企業だけでなく消費者の生活レベルまでSDGsが根付いているように思います。それってなぜなんでしょう? 日本と海外の違いってどんなところにあると思いますか。

WoW:「環境」に対する捉え方が違うんじゃないかって考えています。日本ってよく雨が降る国なんですよね。雨が降るっていうことは、循環するんです。つまり、毒素や農薬が雨で流れて、流れ出た悪いものが海に流れて浄化されていくという循環。

でも欧米には、雨が降らない地域がある。だから毒素みたいなものが、土地に溜まりやすいんです。日本はすごく自然に恵まれているので、浄化力が強い。かつ、日本は温帯地域に含まれるので、気候変動の影響が一番少ない地域なんです。

大畑:なるほど。環境の変化が日常生活に反映してくる、その反映度合いが海外と日本では違うんですね。日本はたまたま恵まれているから、環境に対する危機感がない。海抜0mの国なんて「うちの国、なくなっちゃうじゃん」みたいな地域もあるわけですもんね。危機感がまるで違う。

WoW:そうです。マイアミなんて、かなり沈むという風に言われていますよね。

日本の代表的な災害といえば地震ですが、地震っていつ起きるか分からないから、人間の手による災害っていう意識がないじゃないですか。

大畑:一番身近な災害が、環境被害とか環境災害ではないので、環境というものを意識せず社会のシステムを作っていった。だから危機感も薄い。そのほかにも、日本にSDGsが根付いていかない理由ってあるんでしょうか。

WoW:否応なしに「SDGsに取り組もう!」という推進力が、今の日本には足りないのかなって思います。

大畑:変化したくない国民性もありますよね。政治も含めて、いつも前例主義だから、変わることを恐れてしまう。WoWさんは、そんな日本人に対して、どんな方法でSDGsを発信しているんですか?

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 WoWさんが企画した「絶滅体験レストラン」。「絶滅」をテーマとした料理・パフォーマンス・展示の3つから構成される体験型イベント。

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「絶滅体験レストラン」で提供された料理。キャビアやウニなど、現代の多様性を表した海の幸と山の幸ふんだん使ったひと皿目のサラダから、徐々に食材が“絶滅”を迎えていき、最後のひと皿はコオロギを使った「生き残ったものたちのリゾット」が提供された。

WoW:アテクシは、映像だったり、イベントだったり、ワクワクするような体験を通して知るというエンターテイメントこそ、日本人に合った方法だと思っています。

発信するときに意識しているポイントはふたつ。

ひとつめは、対話から入ることです。「気候変動についてもっと知ってほしい」と発信するのではなくて、「この動物かわいいよね、格好いいよね。でも、この動物絶滅しそうなんだよ」と、まずはこの動物を好きになってもらうことからはじめる。好きっていう感情がいちばんの求心力になるので、行動に繋がりやすい。だからいきなり問題から入るんじゃなくて、対話から入るようにしています。

ふたつめは、0か100かとを言わないということです。

大畑:0か100かを言わないというのは、答えを言わない方が、世の中で議論が起こりやすい状態になるから、それが情報の広まりに繋がっていくというイメージもあるんですか?

WoW:今コロナや地震、不景気など、社会が混乱しているなかで、多くの人が求めるものって、明確に答えを示してくれる指導者なんです。安心感には繋がるんですけど、0か100かをはっきりいう指導者って、もう一方の意見を消してしまう危険性をはらんでいるんですよね。

それは多様性から一番遠いもの。そうじゃなくて、「ありのまま」であることを「多様性」だと思っていて。それぞれに主張があるから、嫌だったら「分断するんじゃなくて、分けようよ」って。それぞれが自分らしくいられる状態を作ることが多様性だと思うんです。

日本にSDGsを根付かせるには

大畑:海外と日本の違いや、横並び主義の日本人、企業主導でしか動いていない現状などを加味すると、結局SDGsって日本には根付かないのでは? と思ってしまいます。

WoW:根付いていくポテンシャルはあると思います。もともと日本人の生活が、自然に密着していた時代を考えると、その土壌はできているじゃないですか。たとえば「いただきます」の概念や「ごちそうさま」の文化。あとは、近代化されすぎた社会システムを少し変えてあげること。実は、それができた瞬間があるんです。いつのことだと思いますか?

大畑:東日本大地震?

WoW:そうです。3.11のとき、計画停電をしたじゃないですか。あれくらいのインパクトが、アテクシたちには必要ってことなんです。あれって、価値観が変わった瞬間じゃないですか。いまでも廊下の電気がふたつ外されていても、なんとも思わない。だから、3.11に匹敵する大きな転換点があれば、日本人がSDGsっていうものを本当に自分ごと化して、行動・生活に落とし込める瞬間がくると思います。

大畑:計画停電や、蔓延防止対策をしても、誰もストライキを起こさない日本人の国民性も関係していますよね。日本人なら、その環境でなんとかやろうという工夫ができるということでしょうか。

WoW:そうですね。工夫もできるし、なによりもそうなってしまったら、いい意味で諦めることができるんです。だから政府と企業が本気でやれば、文句はあれど、国民はついてくると思います。ただこれって、0か100という論調なのでアテクシは好きじゃない。だから0か100かにならないように、我々国民主導で変えていけたらいいよねって言っているんです。

大畑:WoWさんの動画では、最後には希望を残す言い方をしていますね。「今ならまだ間に合う、転換点はすぐそこまできているけど、全員が変わればなんとかできるかもしれないんだよ」って。「いまこの動画を見て、変わった君がヒーローなんだよ」って。

日本では、ファーストペンギンは生まれにくいけど、ファーストペンギンが出てきたらみんなで動ける国民性がある。国や企業が「やるぞ」と動けば、みんなついていくということですよね。そして、僕たちひとりひとりがヒーローになることで、持続可能な世の中が生まれていく。では、この記事を読んでくれた人がヒーローになれるように、最後にひとことお願いします。

WoW:70億人近い人類がいるなかで、たったひとりが変わっただけで何が変わるんだって思うかもしれません。でも70億人は、あなたを含むひとりからできている。

あなたひとりが変われば、あなたの周りもきっと変わる。巨大な気候変動だったり、コロナだったり、もしかしたら人類が起こした戦争みたいな問題かもしれないけど、そういったものと戦う人、ひとりひとりがヒーローなんだと思います。

そのヒーローがいないと、来年すら迎えるのが難しいことになっているかもしれないから、自分の力が無意味だと思わずに、いま、変わって欲しい。いまあなたがヒーローになることに意味があるから、とアテクシは思っています。

大畑:「ファーストキツネザル」もそばにいてくれますしね!

WoW:おおー!そうですよ。アテクシもついています。

アテクシと一緒に、あなたの笑顔を守れる未来を一緒に作りましょう。

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撮影:吉岡教雄 執筆:山下あい

※1 実態が伴っていないのに、表面的にSDGsに取り組んでいるように見せかけることの意。

大畑慎治のSDGs2.0 POINT of VIEW

「木も見て森“も”見る」ということ

今回 Beyond SDGs #05 は、いつものビジネス開発の視点は少し薄めに、生物多様性やエシカルを起点に地球や生物のサステナブルを考える回となりました。

今回の1つ目のポイントは、改めて「木も見て森も見る」ことが重要だということ。

鯉やニジマスの放流の話やペットボトルのサステナブル素材の話は、「悪意なく良かれと思ってやっいることでもSDGsウォッシュになってしまう可能性」や「もっと全体を見て考えればもっとソーシャルインパクトが高められる可能性」があるという話です。

vol.01でも書いた通り、これからのSDGs2.0時代ではアクションとPDCAが最重要。そんな中でせっかくのチャレンジがそのような結果につながらないためにも、改めて「木も見て森も見ながら」挑戦していくことが重要だと思いました。

2つ目のポイントは、ここからはヒトも経済も「感情で動かしていく」ことが重要になってくるということ。

SDGsに関して日本ではこれまで正しいことを正しく発信してきた結果、ある程度の「認知」「理解」は広まったものの、実際に自らの生活行動や生活様式を変えるまでに至っているは、一部の意識の高い人層のみ。

正しい情報だけで動く層はごく一部。多くの人はもっと、楽しい、かわいい、ワクワクする、好きっというような「感情」で日常の選択や経済活動を行なっているため、この「感情」を動かすアプローチがSDGsの社会実装をマスの動きにすることできる。

今回、WoWキツネザルさんの身なりやトーク、絶滅危惧レストラン企画、tiktokやYoutube発信の話から、そのような「SDGsに対するエンターテイメント」の可能性に改めて感じさせていただきました。

WoWキツネザルさん、どうもありがとうございました。

WoWキツネザル┃WoW Kitsunezaru


2つのキャラを使い分けるダブルフェイスMC。環境系エンターテイナーとして活躍し環境破壊の過程を五感で味わう「絶滅体験レストラン」やユーチューブでの動画配信を通じて、環境問題やSDGsの啓発を行っている。


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ソーシャルマエストロ
大畑慎治

ソーシャルグッドの社会実装プロデューサー。メーカーのイントレプレナー、ブランドコンサル、新規事業コンサル、ソーシャルクリエイティブグループで一貫して、新たな事業や市場を生み出す仕事に従事。2016年以降は、SDGs、サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、エシカルなどの領域の企業変革、事業開発、ブランド開発、プロジェクトプロデュースなどを手がける。現在、O ltd. CEO、Makaira Art&Design 代表、THE SOCIAL GOOD ACADEIA(ザ・ソーシャルグッドアカデミア) 代表、IDEAS FOR GOOD 外部顧問、感覚過敏研究所 外部顧問、おてつたび ゆる顧問、MAD SDGs プロデューサー、早稲田大学ビジネススクール(MBA)ソーシャルイノベーション講師、ここちくんプロデューサー などを兼務。
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