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MIND THE GAP 〜足元にご注意ください〜 vol.1

ウクライナ侵攻の日にTikTokで起きたZ世代しか知らない世界

author: 野口岳date: 2023/02/23

※注意:センシティブなテーマ、画像を本記事にて扱っています。

2022年2月24日ウクライナ侵攻が起きた日の深夜、TikTokではテレビやYouTubeで流れないような「普通の人目線」の動画がタイムライン上にあふれていた。そこに善悪を決めつける偏向報道はなく、ウクライナ人もロシア人も、双方の日常が崩れたことがわかる動画の数々であった。本連載「MIND THE GAP」1回目の今回は、ウクライナ侵攻の日にZ世代がTikTokで見た景色をもとに、ギャップを埋めていく。

ウクライナ侵攻から明日で1年

間違いなく、あの日は世界にとってのターニングポイントとなった。世界中で紛争が絶えないことを知りつつも、どこか身近には感じていなかった日本人にとっては、メディアから現地の映像が流れるたびにストレスフルであったことだろう。侵攻が始まった日には、数日でキーウ(キエフ)が陥落するのではないかと言われていたが、蓋を開けてみればもう1年である。そして終わった出来事ではない。

僕個人の意見としては、遠いウクライナの地で続く争いのことを「あの日から1年」と、さも過ぎた出来事のように取り上げるのは正直悩ましい。ただ、それ以上に「あの日」僕らがTikTokで見た景色を、見ていないであろう多くの人たちに語り部として痕跡を残さなければならない使命感がある。あくまで僕が見た景色であることに留意いただきつつも、あの日を過ごした1人の人間のエスノグラフィ(観察調査)として読んでいただきたい。

あの日を追体験する

2022年2月24日 12:00頃
「ロシアがウクライナへ軍事作戦を実施」とのニュース速報の通知を受け取る。数日前から各種ニュースで動きを追っていた僕は、まさか本当に侵攻するとは……と驚いた。

2022年2月24日 18:00頃
帰宅後、テレビでYouTubeをつけるとニュースはウクライナ侵攻一色であった。

2022年2月24日 23:00頃
TikTokを開き「おすすめ」を縦スワイプをしながら見る。ウクライナ侵攻のことを調べすぎて息抜きがしたかった。TikTokを開けばくだらない動画があふれていると思ったのだろう。いつもどおり趣味のサッカーやアニメなどの関連の動画が流れる。安心する。

2022年2月24日 23:50頃
TikTokの「おすすめ」をスワイプしているとウクライナ侵攻関連のニュース動画が度々映るようになる。ほとんどが先ほどYouTubeで追った情報だったため、違いを見るべくコメントボタンをタップし、食い入るようにコメントを読む。おそらくこのときアルゴリズムは「ウクライナ侵攻に興味あり」と判別したのだろう。以降、流れる動画のほぼすべてがウクライナ・ロシア関連となる。

出典:TikTok・テレ朝news【公式】( @tv_asahi_news

2022年2月24日 23:55
日本語以外のウクライナ・ロシア関連の動画が流れ始める。ウクライナの住人が撮ったであろう戦闘機が爆撃する様子。それらからパニックになりながら逃げ回る人々の様子。ロシア軍の青年たちと思われる人々が戦車に乗り込む様子。負傷した兵の治療をする人々。先ほどのニュースから流れる動画とは違い、映画と見間違えてしまうほどリアルな視点で、日常が壊れていく様子が映し出される。僕は「もうキツイ」と思い、TikTokを閉じた。

出典:TikTok・Bla Xla( @kurdmem3


出典:TikTok・Natasha fromRussia(@natasharussia

2022年2月25日 4:00頃
眠れなかった。どんな映像体験よりもリアルな「戦争」があまりにも衝撃的で、抱えきれない情報量の多さから虚無になっていた。ベッドからスマホを見つけ、いつもの癖でTikTokを開いた。そこには先ほど以上にリアルな戦争のイマがLIVEされていた。

震災の時に聞いた緊急サイレンの音が広がるなか、家の中に隠れる1人の女性がTikTok LIVEをしている。コメント欄には世界中の言語で思いやりの言葉が送られ、投げ銭されていく。時折響く銃声、逃げ回りながら息が上がる音。あまりにリアルなイマを共有する女性を世界中の人々が投げ銭で応援する構造に、僕は異様さを感じた。現代の戦争の一端を見たような気がした。

LIVEをしていたのは彼女だけではない。ウクライナもロシア両国と思われる人々がイマを発信していた。僕は心を痛めながらも、どうしてか閉じてはいけないような気がして、一つひとつのLIVEを朝まで眺めていた。



出典:TikTok・No war( @user6218923677483



出典:TikTok・Kuya_Jher( @ka_tol


ウクライナ侵攻はSNSの分水嶺

ベトナム戦争は、初めてテレビでお茶の間に届けられた戦争として知られている。僕の母は「あまりにもリアルで映画かと思った」と世界史の教科書で僕が勉強している最中につぶやいていた。1970年代を生きた者たちにとって少なくない衝撃を与えた出来事だったのだろう。当時テレビ報道が活性化する中、戦争報道に関する適切なガイドラインが決められておらず、負の拡散性が表立った出来事となったようだ。

そういった意味では、ベトナム戦争とウクライナ侵攻は、テレビをSNSが代替する形で構造的によく似ている。SNSではユーザーが自由に投稿できるため、たとえ巨大プラットフォーム企業であってもアンコントローラブルに陥る。ただし、ベトナム戦争時と大きく異なるのは、SNSがテレビのような“マス”メディアとは言い難い点である。人によって利用するSNSも異なる上に、フォローしているコンテンツも違う。アルゴリズムが働くことでパーソナルなメディアとなったがゆえに、前回の「MIND THE GAP」で紹介したようなフィルターバブルによる分断が引き起こされる。

前回の記事はこちら。「TikTokって可愛い子がダンスしてるのじゃないの!?」と一昔前のイメージに誤解をされている方にも読んでいただきたい。

関心と無関心のあいだ

当時のTikTokは、アルゴリズムがウクライナ侵攻関連の動画に興味があると判断した場合、積極的に勧めるような仕様になっていた。エスノグラフィで取り上げたように、ウクライナ・ロシアともに一般市民の日常が壊れていく様を何度スクロールしても見続けることになる。TikTokでの発信にためらいのない両国のZ世代が、動画やライブでリアルな今を必死に伝えようとする。

国家という単位を軸に報道するマスメディアのニュースでは流れないような彼らの心の底の叫び声を聞き続けると、ごめんなさいという気持ちになる。のんきに日常を過ごしていてごめんなさい。今日もあたたかい布団に包まって時間を浪費してごめんなさい。受け入れきれない量の叫び声は、いつしか無関心だった自分を責めるようになる。ただ息抜きするためにアプリを開いたはずだったのに、関心と無関心の中間地点を見つけないと、心を痛めてしまう。

“センシティブ”はイタチごっこ

TikTokで流れた動画やライブは、アンネの日記とよく似ている。教科書を通じて触れることができるのは、アンネひとりの視点だ。しかし映像の世紀を生きる僕たちは、より鮮明な“アンネの日記”をリアルタイムかつ大量に摂取できてしまう。これらの出来事に対してTikTok社は、ウクライナ侵攻関連の動画にはセンシティブな可能性がある旨が表示される仕様へと直ちに変更した。また、公表はされていないがウクライナ侵攻関連の動画を「おすすめ」欄に載せないようアルゴリズムの修正も行ったとされている。

これにより一定の解決がなされたかのように思えたが、2022年7月8日の安倍元総理銃撃事件や2022年10月29日のソウル梨泰院雑踏事故などにおいて、センシティブフィルタリングが間に合わず、同様の体験をした人々も少なくない。こういった問題に対してBestよりBetterな打ち手を出し続けることでしか前に進まないのだろう。SNSのない頃に戻ればいいなどという安直なことを言うつもりもない。少なくともSNS等のプラットフォーマーには、こういった出来事に対する想像力が求められる。

本記事では、到底この問題に対してアンサーを出すことは難しい。ただし、こういった事例はフィルターバブルによって知る機会が限られているため、記事という打ち手で知ってもらう機会を作ることは、微力であるが無力ではないはずだと信じている。

メッセージ

Z世代と距離のある世代の方々や、お父さんお母さん世代の方々へ。10分前まで元気だった子が、突然暗い顔をしたり、そうかと思えば大笑いしたり、喜怒哀楽の時間の流れが激しい環境に身を置いています。情緒が激しくなるのには、構造的要因があるのです。

これからも「MIND THE GAP」では、Z世代に限らずさまざまなフィルターバブルの中の人々の生態系を、できる限り客観的にお伝えしていきたい。この記事の公開日は「あの日」から1日前に設定している。きっとSNSではウクライナ侵攻の情報であふれるだろうけれど、関心と無関心のあいだに気をつけて。

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(株)imago デザインストラテジスト / iQLab共同代表
野口岳

1998年生まれ。(株)imagoのデザインストラテジスト兼、同社が主宰するiQ Labにて共同代表を務める。UI/UXデザインの視点からサービス企画やビジネス戦略のコンサルティングを行う。ユーザー中心設計かつ道徳的観点から、利用者と提供者の間に架け橋をかけることを常に意識している。学生結婚を経験し、現在は1児の父。
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