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シン・ビザールウォッチ「リシャール・ミル」

時計技術の限界に挑んだ驚異の極薄ウォッチ

author: 篠田 哲生date: 2022/08/29

腕時計とは「時刻を知り、また時間を計るのに使う、腕にのせる器機」である。ところが現代の高級時計の世界には、最高峰の時計技術を駆使しているにも関わらず、針も読めなければ、現在時刻もわからないという”奇妙な時計”が生まれている。それこそが「変態的腕時計=ビザールウォッチ」。高級時計を知りすぎた人がたどり着く末路へようこそ!

さらに想像を超えていく“薄さ”の高みとは?


リシャール・ミル
RM UP-01 フェラーリ

手巻き、グレード5チタンケース、ケースサイズ51×39㎜、ケース厚1.75㎜。世界限定150本。247,500,000円(税込予定価格)



 時計の正面カット。といわれても、時計には見えない。丸い二つの窓があるが、左側が時分表示で、右側が脱進機。風防ガラスは0.2㎜厚のサファイアクリスタル。

「舌の根も乾かぬうちに、何を言っているのだ」と、お叱りを受けるかもしれない。前回のビザールウォッチにて、”世界最薄の時計が出た!“と、喜び勇んでブルガリの時計を紹介したのだが、数カ月後にそれを凌駕する”世界最薄の時計“が誕生してしまったのだ。

2021年に締結されたリシャール・ミルとフェラーリのパートナーシップを祝す第一弾モデル「RM UP-01 フェラーリ」のケースの厚さは1.75㎜。これは500円硬貨の厚みとほぼ同じくらいということだ。なるほど、まだまだ時計技術の進化は続き、薄型競争は終わらないのである。めでたしめでたし。……と締めることはできない。

1.75㎜という激薄ケース。ここに精密な機械が入っているとは信じられない。

なにせこの時計、これまでの薄型ウォッチとは一線を画した特徴を持っており、むしろ薄型時計の開発競争を終わらせてしまうかもしれないジョーカーなのだ。

そもそもピアジェやブルガリの薄型化に対するロジックは極めて明快だった。ムーブメントをケースに収めるのではなく、ケースバックをムーブメントの土台とし、そこに直接パーツを組み込んでいく設計にすることで地板一枚分を薄くする。これは極めて論理的な考え方であり、薄型ウォッチの最適解だと思われた。 

時計左側に縦に並んでいるのは、リューズ替わりのデバイス。上がファンクションセレクターで、下でゼンマイの巻き上げや針合わせを行う。

しかし、リシャール・ミルは、そう考えなかった。リシャール・ミルは4年前から薄型ウォッチの開発を進めていたが、その考え方は極めてオーセンティック。 “ムーブメントをケースに収める”というスイス時計の伝統をしっかり守ることから始まった。

ムーブメントは繊細なパーツで構成されている。その繊細なものをハードな外殻で覆うことで、日常使いどころかスポーツウォッチとしても十分なレベルの耐衝撃性能を獲得しようというのだ。

これは繊細なトゥールビヨン機構でありながらゴルフやポロ、テニス、モータースポーツでも耐えうる耐衝撃ウォッチを作ってきたリシャール・ミルらしいアプローチ。極薄ウォッチであっても、耐衝撃性と実用性を取り入れようと考えたのだ。

Cal.RMUP-01の厚みは1.17㎜。しかし連続駆動時間は約45時間と十分に実用レベルにある。

ではどうやってムーブメントの薄型化を実現したのか? その考え方は明快。「極力パーツを重ねない」のだ。

制作本数も異例! リシャール・ミルの本気とは?

時分表示は二枚の歯車型のディスクになっており、横から歯車をかみ合わせている。

歯車の役目は、歯数や直径の違いによって回転速度を変化させること。時計の場合は、大きな歯車の軸部分にカナと呼ばれる小さな歯車を設けることで、歯車の数を減らしつつ、効果的に回転速度をコントロールしている。

ただし歯車を重ねる必要があるので、必然的にムーブメントは厚くなる。そこでリシャール・ミルでは、極限まで歯車を重ねないという全く新しいロジックを考えついた。

141個のパーツで構成されるムーブメントCal.RMUP-01は、動力ゼンマイから調速脱進機まで歯車をほぼ重ねることなく連結し、時分表示もそれ自体を歯車にすることで、とにかく薄さを極めた。その結果ムーブメント厚は1.17㎜となり、機械式ムーブメントとして世界最薄記録を樹立した。

ケースにムーブメントを収め、上からベゼルをかぶせる。その間にはパッキンを挟み込んでおり、防水性能は10mを確保。

さらにグレード5チタン製のケースの厚みは1.75㎜しかないが、精密な加工が求められるためにムーブメント用の高精度加工マシンを使っている。ケースも極めて薄いが強度は高く、片側に12㎏の錘で負荷をかけてもケースは歪まず、5000Gを超える加速度にも耐えるのでスポーツウォッチとして十分に日常使いできるようになった。ちなみに時計は極めて軽くて、時計本体が11,2gでストラップが17,3gの計28,5gしかない。何から何まで異色の時計なのだ。

しかも製作本数も異例だ。こういった極限の極薄ウォッチは、コンセプトモデル的な扱いにすることが多い。ニッチなジャンルである上に、生産自体が困難であるため多作できないという理由もあるので、生産本数も10本に満たない場合も多い。

このモデルはフェラーリとのコラボレーションであり、ベゼル部分には跳ね馬があしらわれる。こうい

しかし「RM UP-01 フェラーリ」の生産本数は150本。通常のリシャール・ミルの限定モデルよりも多い生産数にしたのは、この薄型技術が特別なものではないというメッセージでもあるという。

最後に大切な情報を一つ。時計の価格は税込みで2億4750万円。高価な宝石を使わず、時分表示のみでこの価格とは衝撃的だ。しかしそれだけ、“高度で高価な技術”を使っているのだと考えて欲しい。高級時計の世界の奥底は、まだまだ深くて見えないのである。


リシャールミルジャパン
https://www.richardmille.com/ja


author

時計ジャーナリスト
篠田 哲生

1975年生まれ。講談社「ホットドッグ プレス」編集部を経て独立。時計専門誌、ファッション誌、ビジネス誌、新聞、ウェブなど、幅広い媒体で硬軟織り交ぜた時計記事を執筆。スイスやドイツでの時計工房などの取材経験も豊富。著書に『成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。』(幻冬舎)、『教養としての腕時計選び』(光文社新書)がある。
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