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Interview

【キーマンと気ままに、クルマ放談】#04

King & PrinceのCMがZ世代でも話題。Hondaのブランド戦略は“人への愛”でできていた

author: 若林敬一date: 2022/08/20

自動車業界に精通したオート・アドバイザーの若林敬一が、気になるクルマメーカーのキーマンと対談する連載企画。第4回目のゲストは、本田技研工業 執行職コーポレートコミュニケーション統括部長の渡辺康治氏。新たなゴールに向けて突き進むHondaが展開する「Hondaハート」プロジェクトの狙いなど、未来を見据えるHondaブランドの戦略について訊いてみた。

若い世代に届ける「Hondaハート」

真っ白な作業着に身を包んだKing & PrinceのメンバーとHondaのキーパーソンが語り合うCM。その製作に至る背景には、Hondaが掲げる「Hondaハート」プロジェクトが存在する。2021年11月から開始されたこのプロジェクトのメッセンジャーとして、若者に人気のグループ「King & Prince」のメンバー5人を起用。メンバーらがHondaの白いツナギに身を包み、さまざまな製品やサービスを実際に体験する様子をCMや動画で発信、SNSでも大きな話題となっている。

若林 King & Princeのメンバーを起用した「Hondaハート」プロジェクトは、若い世代からの反響が大きいと聞いています。そもそも、この「Hondaハート」プロジェクトには、どのような意図があるのでしょうか。

渡辺 Hondaでは、クルマやバイクはもちろんのこと、航空機のHondaJetや船外機、発電機、耕うん機など、幅広い製品やサービスを生み出してきました。Hondaのその「ユニークな多面性・多様性」を、若い世代から絶大な支持を集めるKing & Princeのメンバーの視点を通して、幅広い人に伝えたいと考えました。

今は100年に一度の変革期。それは「目指すべきゴールが変わった」ということです。我々のゴールもF1ワールドチャンピオンからカーボンニュートラルの達成に変わりました。2050年に、全ての活動のCO2排出量を実質ゼロにすることが目標です。

第二創業期ともいえる大きなチャレンジをするうえで、改めて我々の真髄である「Hondaハート」をみなさんに届けたいと考えています。

本田技研工業株式会社 執行職 コーポレートコミュニケーション統括部長 兼 株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長の渡辺康治氏

若林 このプロジェクトの中核にある「Hondaハート」というのは、どんなことを意味するのですか。

渡辺 時代に合わせて変わるものがある一方で、変えてはいけないものもあります。それが「Hondaハート」です。創業から脈々と続いてきた「HondaがHondaである魂」は、これからも守っていかなくてはいけません。

それは何か? 一言でいうと「人類への想い」です。ひとりひとりが持つ喜び、それはそれぞれが違うものであり、その喜びや幸せを提供することが我々の使命です。その実現のために、これまでもアイデアや技術にこだわって、四輪、二輪に限らず、さまざまな製品やサービスを生み出してきました。

そういう「Hondaハート」を核としながら、もう一度、今の時代に求められている我々のパーパスを練り上げていくつもりです。

ソニーとの協業でゼロから新しい価値生み出す

若林 Hondaがさまざまなモビリティや製品を展開しているのは、そういう「人類」という視点で、多様なニーズの先にある喜びを提供するという意志があるからなんですね。

今の時代に求められるニーズとしては、EV戦略も重要だと思いますが、これはどのように考えていますか。

渡辺 今のEVはまだ導入期です。実際、中国と米国で求められるEVのニーズも違い、Hondaではそれに合わせて地域ごとのEVを展開する地産地消体制をとっています。

もちろん効率がよいとは言えないのですが、過度期である2020年前半まではこの体制でいきます。EVが相当普及する2030年には、グローバルのプラットフォームも統一していく予定です。

若林 EVということでは、ソニーとの協業も大きな注目を集めています。2025年には、EV販売とモビリティーサービスをスタートする予定ですよね。

渡辺 その通りです。Hondaとしても、今回のソニーとの協業には非常に大きな期待を寄せています。データセンターとつながるE/Eアーキテクチャ()は、もはやインフラをつくる世界。クルマメーカーには思いつかないような、E/Eアーキテクチャありきのソニーらしいクルマづくりの視点が加わることで、どんな価値を生み出せるのか。Hondaとソニーの化学反応が作り出す、ゼロからの世界にワクワクしています。

※E/Eアーキテクチャ…電気・電子のこと。ECUやセンサー、アクチュエータなどをつないだクルマを構成する大きなシステムの構造を「E/Eアーキテクチャ」と呼ぶ。

渡辺 それだけではありません。Hondaとソニーがタッグを組むことは、「日本の競争力を復活させる」という使命もあると思っています。逆に言うと、Hondaとソニーが組んで、万が一にでも失敗してしまったら、日本というブランドを失墜させることになりかねない。そういう意味でも、“絶対に成功させる”という強い意気込みで挑んでいます。

カーボンニュートラルへの挑戦

若林 「Hondaハート」では、「難問を愛そう。」というコピーで、世界の課題であるカーボンニュートラルに果敢にチャレンジする精神を表明しています。

渡辺 F1を撤退し、今後はカーボンニュートラル実現に全力をあげていきます。まずはEVの生産を2030年に全車種の40%、2035年に80%とするのが目標です。内燃機関のみのクルマは相当減らしていきますが、ハイブリッドの内燃機関は2040年まで残す予定です。

若林 カーボンニュートラルを実現するうえで、ビジネスのポートフォリオはどのように構成していくのでしょう。2021年度の決算では、最終損益は1兆円を超え、イグジッド(投資回収)も8000億円を超えているようですが。

渡辺 四輪車について言うと、ガソリンエンジンの時代からすでに利益率は下降傾向でした。そこでUKの工場閉鎖など、さまざまなスリム化を実施し、財務的には回復傾向にあります。

今は、EV・FCVシフトで必要な投資に向けたキャッシュを積み上げるというフェーズ。EV化には、技術開発やインフラに相当な投資が必要ですから、その原資を確保することで、体力づくりをしています。

若林 電動化に向けて、着々と体制を整えているということですね。

渡辺 そうですね。ただ、カーボンニュートラルの答えは、「電動化ありき」だとは考えていないんです。もちろん、現段階では電動化が最もメジャーな解ですが、それだけに絞るのはリスクでもある。

今後、さらに新たな技術が生まれる可能性もありますし、それによって内燃機関の技術が再び必要になることもありえます。そのための技術は、しっかり確保していくつもりです。そういう技術を守る役割を担うのが、モータースポーツの開発を担うHRC(ホンダ・レーシング)です。

FIの技術も統合し、より高度なモータースポーツ技術を

若林 渡辺さんはHRCの社長も兼任されてますが、最近、二輪のモータースポーツ開発に加えて四輪も統合されましたよね。

渡辺 HRCは本来、モータースポーツ全般の開発をするためにスタートしたものです。まずは二輪からというのが長年続いてきましたが、2022年から四輪も統合しました。

これまで四輪のF1は研究所の一部門でした。統合によって、F1の技術者が二輪をやっていたHRCの人材と一緒になることで、技術交流を深めて、さらに高いレベルを目指していきます。カーボンニュートラルもモータースポーツ技術が一緒になることで、大きな成果を出せると思っています。

また、HRCで内燃機関をこれからもしっかりやっていくことが、グローバルでのHondaブランド強みにもなります。Hondaエンジンは、四輪や二輪に限らずさまざまな製品で、世界のNo.1ブランドです。そこは電動化の流れとは違うフェーズで考えています。

「人中心」が創業からの変わらないHondaの想い

若林 Hondaの四輪では、軽自動車からスポーツカーのNSXまで幅広いラインナップが揃っているのが大きな特徴です。四輪は全体的にかなり好調な売れ行きを示しているようですが。

渡辺 特に2021年に発表したヴェゼルは非常に好調で、半導体供給の影響もあって1年待ちになるなど、Hondaの新たな屋台骨になっています。ステップワゴンも同様で、2022年5月に発売後、1ヶ月で目標台数の5倍の販売を達成。最近のミニバンブームとは一線を画す、ナチュラルでシンプルなデザインが好調の理由です。

若林 軽自動車のNシリーズもかなり売れていると聞いています。

渡辺 そうですね。Nシリーズも非常に多くのお客様から支持していただいています。軽自動車からスポーツカーまで、充実したフルラインが揃っている。それがHondaらしさの象徴ですね。

若林 ラインナップの充実ぶりにも、冒頭でお話にあった「人類への想い」、つまりいろいろな人のニーズに応えるというHondaの哲学を感じます。

渡辺 Hondaらしさは、「人中心」であることに尽きるんです。そういう人中心のクルマづくりの姿勢が、我々にとっての原点ですね。

若林 なるほど。人に対する愛、人に役立つブランドであるという軸をぶらさない。そういうHondaの哲学がよく伝わってきます。

渡辺 King & PriceのメンバーがNSX-GTやBENLY e:など、多種多様なプロダクトを一緒に走らせるCMを発表しました。プレミアムスポーツカーも、仕事に役立つバイクも、同じように「Hondaハート」を表すモビリティです。それだけ幅広いニーズに真摯に応えていく。それが、Hondaが多面体である理由であり、ブランドとしての魅力になっています

このような多面体は、クルマに限らず、いろいろな製品やサービスがあることにも通じています。Hondaが多面体であるルーツは、創業者である本田宗一郎にあります。宗一郎が、人が大好きで人々の生活に役立つものをつくりたいという想いが、さまざまな顔を持つHondaを生み出してきました。

Hondaのブランド戦略に統一性が欠けているという指摘もありますが、我々としては統一したこれというものを押し付けたくないんです。それぞれの人が自分の考えるHondaブランドを大切にしてもらうことが、結局は「Hondaハート」というブランディングになっていくと思っています。

取材を終えて~編集担当・川端由美~

Hondaという企業の歴史は、常に挑戦の歴史であり、「Hondaハート」プロジェクトが掲げる「難問を愛そう。」というフレーズは、いかにもHondaらしいものです。旧来のクルマ好きの中には、King & Princeを起用したキャンペーンをミーハーと捉える向きもあるかもしれませんが、実はKing & Princeのメンバーはクルマやバイクに関する発言が多く、なかなかのクルマ好き。若い世代への影響力も高く、彼らにHondaのキーパーソンと語り合ってもらう形式の動画は見るものを惹きつけます。また、ソニーとの提携も話題性の高さだけではなく、実はお互いの企業の特徴をよく理解した上での地に足のついたもの。カーボンニュートラルという大きな課題に取り組みつつ、レースを続けるのもやはり、パワートレインの多様性を担保するという、ロジカルな思考に基づいた理由があります。今回の対談では、最近のHondaの活動において、“Hondaらしさ”を再定義する過程を知ることができて、大変、有意義なものでした。

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オート・アドバイザー/R-BRAND株式会社 代表取締役
若林敬一

ケロッグ経営大学院MBA、Marketing&Finance をメジャー。フォード本社広報やマツダのグローバル広報部長、本部長などを歴任。その後ボルボ・カー・ジャパン、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマーケティング・広報ダイレクターに転じた。2021年に独立し、R-BRAND株式会社を設立。マーケティングおよび広報の視点からコンサルティングを行う。
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