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専門的な分野のコーチ陣たちが続々!?

ブラックキャップスはどんどん強くなっている、のか?

author: 村瀬秀信date: 2022/08/22

―4回のオモテ― こどもたちの物語

プロスポーツ界の最前線で戦うスポーツジムが作った中学野球チームは、はたして令和の“がんばれベアーズ”のような、ドラマティックな結末を迎えることはできるのだろうか? この物語はこれからどちらに転ぶともわからない、現在進行形で進んでいる完全ドキュメントな“野球の未来”にかかわるお話である。野球作家としてお馴染みの村瀬秀信氏が、表に見えるこどもたちのストーリーと、それを裏で支える大人たちの動きや考えを、それぞれ野球の表裏の攻撃守備ように交互に綴っていく。

地獄の合宿を乗り越えたのに
試合は16対2大惨敗!

できる! やればできる!

地獄の夏合宿を乗り越えて、そんな揺るぎのない自信を得た……と思っていた僕たちは、その1週間後の練習試合で泣きべそをかいていた。

「おまえら、合宿で何をやってきたんだ!」

竹下代表の厳しい言葉が飛び、阪口監督が困惑の表情を浮かべる。

対戦相手は東京・青梅を本拠地とする「SKポニー」。ブラックキャップスと同じ2021年にできたばかりの1年生チームだ。監督の横井人輝さんは、東海大菅生や東海大、大学全日本チームの監督を務め、巨人の菅野智之投手など多くのプロ野球選手を育てた学生野球の名伯楽。

しかも、このチームには僕らと同じ中学校に通う、小学校時代から地域で一番野球が上手いといわれていたS君が入っていて、4番でキャッチャーという中心選手として活躍しているという。

この試合にこそ彼は出場しなかったけど、相手は同じ1年生だけのチームなのに、まったく歯が立たない。完全に相手の空気に吞まれてしまっているのか、先発したユウギはストライクが全然入らず、キャッチャーもワンバウンドを前に止めることができない。リリーフしたガクも、ケンタロウも打ち込まれ、打線も元気なく凡打を繰り返して、2点を取るのがやっと。得点差が離れていくたびに、あれだけ性根に叩き込んだはずの“意味のある声出し”がまったくできなくなっていて、試合が終わるころには、みんな下を向いているようだった。

16対2。SKポニーの選手の元気な声だけが響くなか、試合は惨敗で終わった。

長野合宿で田中監督に「下手でも声なら出せる!」と教わった“声”は、練習では出せても、試合で空気が悪くなってくるとどんどん出なくなってしまう。やっぱり習慣は一朝一夕では身に付くものじゃない。

どうすればできるようになるのか、試合の後にみんなで話し合った結果、まずはチームとして「必要な時に大きな声を出す」ことを目標に、第一歩としてグラウンドに入る時と出る時に、大きな声で「よろしくお願いします!」「ありがとうございました!」と、ひとりひとりがしっかりと声を出すところからはじめた。

そうなのだ。習慣を身に付かせるには、まだまだ時間が必要なのだ。

素振り100回の習慣化が目標
本当に強くなれているのか?

2021年8月31日。1年生の夏休みが終わる日。

それは、毎日素振りを100回やるとチームで決めてから66日目にあたる日だ。なんでも物事を習慣化させるために必要な日数と言われているらしい。ブラックキャップスのメンバーたちが、どんなに最先端のトレーニング理論を持っていたとしても、一日で魔法のように野球がうまくなるほど簡単なものじゃない。まずは基礎を積み上げていくための土台の部分を作る期間が必要だった。

遡ること66日前。そのための第一歩として、僕たちは、1日100回どんなに疲れていても、必ずバットを振るという決め事を作った。終わったら親か年上の親族にサインを貰うのでサボれないのだが、まぁでも、やる気になっていたのは最初だけで、疲れた日はやらずに寝てしまいそうになったり、親にウソをつきそうになったり、ダラダラへなちょこなスイングをしながらという日もありながら、やっとの思いで66日目を迎えたわけだ。

習慣化……されたのかどうかっていうのは、正直言って実感がない。けど、素振りをするのが面倒ではなくなった……かといえば、やっぱり面倒だ。面倒ではあるのだけど、やらなければ落ち着かないというか、親に言われなくてもバットを握るようになってきたような気はしている。全然、変わらないというやつもいるんだけど。

そんな状態で秋を迎えた、1年生の秋季大会。結果は決して誇れるようなものではなかった。

僕たちは本当に強くなれているのだろうかーー。そんな弱気な気持ちが出てきたころに、チームの練習に変化があった。

まずは毎週水曜日、林水泳教室の2階のジムでやっていたトレーニングが、本格的な器具を使った筋力トレーニングになったこと。これまではストレッチや自分の身体の重さを利用したトレーニングだったのが、ベンチプレスにバーベルにレッグプレスと、はじめて専用の器具を使った大人みたいなトレーニングになったのだ。だけど、最初の内は上がりゃしないのだ。軽いと言われた20㎏のバーベルだって、選手によってはその当時の自分の体重の半分以上の重さなのだからしょうがない。

それでも僕らは成長期だ。夏から続けている“食トレ”と筋トレを併せて行うことで、身体を大きくし、パワーの出力を少しでも上げていきたい。なんとかひとつづつ。みんな苦戦しながらも、正しいフォームを教わりつつ、体重と筋力が増えていくと、1回2回と徐々に上がる回数も増えてきていた。

週末のグラウンドでの練習は、守備力の強化が大きなテーマになった。やっぱり、打ち取ったら確実にアウトにできる守備力がないとピッチャーにも申し訳ない。確実にアウトにするために、コロコロとボールを転がしてはしっかり手で捕球する基礎の練習を重点的にやった。ジミな練習ではあるけど、ボールを使えるだけまだ楽しかった。日曜日は、インターバル走に、ショートダッシュにと、ひたすら走るだけの練習でへとへとになるのだ。

その走りのコーチには、去年100mの日本記録を出した山縣亮太さんのコーチをしているマロンさんが指導しに来てくれる。マロンコーチが教えてくれる走り方は、僕らが知っている走り方とは全然違う。上に跳ねるような走り方で、これをマスターできれば走力がまるっきり変わってくるらしい。走ることは走塁だけでなく、守備の時の足の運び方までか変わってくる、めちゃくちゃ大事な要素だ。それはわかっているんだけど、やっぱり走る練習は単純にキツかった。

専門的な分野のコーチが続々
メンタルやチーム力まで鍛える

季節が冬になる頃には、新たな刺客として専門的な分野のコーチがやってきた。

深井諭さんは茅ヶ崎の森の中でジムを開き、メンタルトレーナーもやっている面白い人だ。ナショナルチームやオリンピック選手のメンタル面のサポートをしてきたというんだけど、正直なところ“メンタルトレーニング”と言われても大人のアスリートならいざしらず、僕らには必要なのかどうかすらわからない。

だけど、深井さんは「メンタルトレーニング=感情の防災訓練」なんだという。感情の災害=不安・焦り・イライラなど、日常生活で起こるネガティブになってしまう思考に対して、どう対処していくかを知ることで、試合の中で緊張したり、ミスした時でも、パフォーマンスを落とさずにいられるようになるのだとか。

試合の中で「ラクにいけ!」「平常心でいけ!」なんてよく言うけど、でも実際にどうすれば楽になって平常心でプレーができるのか……なんてことを具体的に教えてくれるのだ。ここで説明するには長くて面白すぎる話なので省略するけど、大事なことは「目線・呼吸・言動」の3つを整えること。これは試合だけじゃなくて学校のテストや、日常生活で落ち込んだ時にも応用できるので、ものすごく勉強になった。

次に来てくれた日野幹雄コーチは、あの松坂大輔投手で公式戦44連勝、無敗のまま甲子園春・夏連覇を果たした最強の横浜高校を2年生の秋にギリギリ追い詰め、松坂投手に「ある意味、唯一負けそうだった試合」と言わせた藤嶺藤沢のキャプテンだった人だ。

日野さんは、これまで僕らが知らなかった野球に対する考え方、ひとりひとりの役割であり、チームとしての力。松坂投手のような圧倒的な個に対抗するにはどうすればいいのかとか、ものすごいたくさんの知識を持っていて、今必要なことを僕らにもわかりやすいように教えてくれる。例えて言うなら野球の先生だ。

たとえば、日野コーチの提案で攻守交替のときには1分半で準備を完了させて、相手を待っている状態にすることを決めた。それをやってみると、確かに向こうのチームを焦らせ、こっちのペースにできている感じがするのだが、そのためにはベンチの人間が守備に就く人のグローブを用意したり、キャッチャーの防具を付けるのを手伝ってやるなど、チーム全体が同じ方向を向いていなければならない。個でありチームの力。そして強いチームはなぜ強くて、弱いチームはなぜ弱いのか。日野さんの話を聞いていると、僕らはまだまだ野球のことを知らないと思い知らされた。

ピッチャーやキャッチャーも
すごいコーチ陣がレベルアップ

続いて、バッテリーをレベルアップするために、ピッチャーとキャッチャーそれぞれのコーチがやってきた。ヘッドコーチの渡邊コーチは日野コーチの先輩で、高校時代に夏の神奈川県大会でベスト4になった藤嶺藤沢の正捕手だった人だ。

野球をはじめてから捕手ひと筋で、入学当時は野球エリート揃いの同級生の中でも控えの控えの控えの控えの5番手捕手だったのに、最後の夏までには全員を追い抜いてチームを勝利に導いた努力の人でもある。エリートを倒す方法を一番知っている人だというが、うちのチームは守備の要になる正捕手が、キズナになるのかキシになるのかまだ決まっていないウィークポイントなだけに、大きな存在になってくれそうだ。

ピッチングコーチには佐藤大輔さんだ。ソフトバンクの千賀滉大投手や巨人の菅野智之投手も通った鴻江寿治氏の下で活動し、独立後もプロ野球選手やソフトボール選手など、多くのプロアスリートの人の身体を診てきた人。

投球フォームをパッと見て、ちょっと触っただけで、骨盤の動きや身体の特徴を把握して、その人に合った適切なフォームを指導してくれる。魚屋さんの目利きの様な特殊能力で、ピッチャーのユウギやガク、ケンタロウのフォームを作り直してくれた。

まだ弱いブラックキャップス
でも少しずつ強くなっている

そして、ひと冬を越えた2022年の春。僕らが成長期ということもあるのかもしれないけど、この半年でユウギは8センチ、ケンタロウとユウトは7センチも背が伸びたし、体重もみんな身体がひとまわり大きくなったと実感した。実際にボールを使った練習でも、打球は飛ぶようになったし、遠投も距離が伸びている。50メートル走でも全員のタイムが明らかによくなっていたりと、成果は出ている。

あとは試合でどれだけ強くなっているか、だった。

2月には秋の大会で10—0とぼろ負けした市原ポニーとの練習試合をやった。ダブルヘッダーの1試合目は打線が爆発して4回まで9対4でリードしていたけど、5回裏に集中打で8点を失って12対9の逆転負け。

3月19日の厚木シニアとの練習試合は、序盤に2対3とリードを許しながら5回にタカシのレフトへのホームランで逆転! ……したけど、最終回に力尽きて4対5のこれまた惜しい敗戦。

翌3月20日。SKポニーとの練習試合。S君が4番キャッチャーで出てきた第一試合こそ12対0で手も足も出ないぼろ負けだったが、第二試合ではキシがホームランをかっとばして、7対6でSKポニーにはじめて勝つことができたのだ。第二試合とはいえ。

まだ平気でエラーもするし、ムダなフォアボールも出す。勝てると思ったところから逆転もされた。だけど、少しずつ。本当に少しずつだけど、結果が出てきたような、力がついてきたような、そんな空気をみんなどこかで感じていた。

【つづく】


author

作家・ライター
村瀬秀信

1975年神奈川県茅ケ崎市出身、旅と野球と飲食のライター。著書に「止めたバットでツーベース 村瀬秀信野球短編集」(双葉社)「4522敗の記憶~ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」(双葉社)「気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」シリーズ(講談社)など。文春野球の初代コミッショナーであり株式会社OfficeTi+の代表。
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