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ガリバー気分が味わえる王国は今も存続!?

8年前に訪れた中国昆明の奥地にある小人たちの楽園「小矮人王国」

author: 西川 マレスケdate: 2022/02/21

「小人の国に行こう」。友人である造形師の相蘇敬介さんから連絡があったのは、2014年の秋のことだった。つらいことがあっても人は決してファンタジー世界には飛び込めないよ、とたしなめようとしたが、聞けばどうやら本気であるらしい。

中国は雲南省昆明市に、小人たちだけで楽しく暮らす夢の国がある。その名も「小矮人王国(小人国)」は、要するに中国全土から身長130cm未満の小人症の人々のみがキャストとして集められた、巨大なテーマパークなのだそうだ。彼らは小人の国王や小人の兵隊に扮して日夜さまざまなショーを繰り広げており、命綱なしの綱渡りや、円形の金網を縦横無尽に駆け回る金網バイクといった危険なサーカスまで見せてくれるという。

ホンマかいな。

かつて日本でも、小人プロレスの試合がテレビ中継され、そのレスラーが昭和の怪物番組「8時だョ!全員集合」などバラエティでも活躍し、お茶の間を沸かした時代があった。YouTubeなどで探せば当時の映像が見つかるが、小人レスラーの鍛え上げられた肉体と軽やかな体技を見れば、アクロバティックなパフォーマンスもこなせそうな気がする。しかし、綱渡りや金網バイクなどバランス重視のショーは体格的に危険すぎはしないか。いやしかし、上海雑技団の国だしなあ……。

いずれにせよ、今や日本では観られなくなった、小人症の人々によるプロフェッショナルなエンタメが中国で生き残っているのであれば、それはぜひこの目で見たい。相蘇さんには二つ返事で了承し、何人かを誘い合わせて中国へ向かうことになった。

結論から言えば、この期待は大きく肩透かしを食らうことになるのだが。「小矮人王国」が一体どのようなテーマパークだったのか、約8年前に見聞きしたものをご紹介しようと思う。

小人の国にはキノコの家がよく似合う

中国に向かったのは10月23日のことだが、今回の旅は他にもいろいろと目的があったので、上海に2泊、上海から昆明に移動して2泊と、4泊5日のスケジュールを組んでいた。途中でメンバーの入れ替わりがあり、小矮人王国まで同行したのは、私と相蘇さん、オカルト研究家であり怪談サークル「とうもろこしの会」会長である吉田悠軌さん、と学会会員でパチモン研究家の大江・留・丈二さん、大江さんの旅行友だちである中島さんの計5人。

昆明に行くまでに、まず仕事でトラブった相蘇さんが旅行に間に合わず、旅行前日に深センに行って当日に大阪に戻り翌日また上海にとんぼ返りという、どこかのセレブみたいな過密スケジュールで我々と合流。そして私は、相蘇さんが予定通り来ないせいで、ほぼ初対面だった吉田会長と2人きりで上海観光してたら、上海お茶会詐欺に引っかかり初日にぼったくられる。ちょっと隣の国に行っただけなのに、やたらとトラブル続きでグッタリしてしまったが、本筋とは関係ないので置いておく。

上海で組織的大規模詐欺の洗礼を受けた私の心はだいぶやさぐれていたが、旅行3日目に到着した昆明は、大変のどかで心落ち着く街であった。正直街並みや雰囲気が東京と代わり映えしなかった上海と違い、昆明には大陸らしいおおらかさと異国情緒が感じられ、いかにも中国を旅している実感を得られる。

一泊して翌朝。目的の小矮人王国までは、中心部から車で1時間ほど。現地の通訳兼観光ガイドと、現地までのチャーター車は、吉田会長があらかじめ手配してくれていた。日本語ペラペラの中国人ガイドであるヒョウさんとともに、さっそく「世界蝴蝶生態園」へと向かう。そう、小矮人王国は世界蝴蝶生態園の附属施設であり、なぜか世界中の蝶を集めた広大な公園の敷地内に存在しているのだ。

山奥に向かっていると、突如として広大な敷地に現れるチケット売り場。

小矮人王国の入り口は、ひたすら山奥を目指した先にあった。周りを見渡しても山しか見えないが、駐車場の先には切り株を模したチケット売り場が並んでいる。入場料は120元(当時のレートで約2,065円)。前々日に行った錦江楽園が100元、上海野生動物園が130元だったので、なかなか強気の価格設定だ。

そして隣のスケジュール表を見ると、「小人国演出」と「鉄壁飛車」の文字が。字面から判断するに、鉄壁飛車とはつまり金網バイクショーのことであろう。おお、本当にやってるのか。相蘇さんの持ってくる話は8割引きで聞くクセが付いているので、正直疑っていた。

入場料は120元とけっこうお高い。スケジュール表には「小人国演出」と「鉄壁飛車」の文字。

ステージショーの開演まではまだ時間があるが、とりあえずメインステージの方に向かうと、その奥の高台に、何やらファンシーなキノコの建物がニョキニョキと建ち並んでいるのが見えてきた。入り口も窓も中に置かれた家具も、すべてが小人サイズで揃えられた小人の家だ。

中にはくつろいで休憩しているキャストなどもいたので、どうやらキノコの家がスタッフたちの住居になっている……と思いきや、よくよく聞いてみると、キノコの家は単なる休憩所であり、普段は麓の寮で生活しているそうだ。そりゃそうか。こんな山の中に住んでたら、不便極まりないものな。

小人キャストたちの身長に合わせ、こじんまりとしたキノコの家が建ち並んでいる。
家の中も撮らせてもらった。キャストたちの休憩スペースであり、衣装や小物がしまわれた物置でもある。

建ち並ぶ家々はすべて小人サイズ。道行く人々も観光客を除くと小人症の方ばかり。ショーを行っていない時間帯の彼らは、基本的にそのへんを歩いているか、休んでいるかしているようだ。唯一開いていた売店も、小人スタッフたちが販売員となっている。立派な成人男女に向かって言うのも何だが、狙いすました建築デザインとファッションが相まって、とにかく可愛らしい。ここまで舞台装置を整えられると、『ガリバー旅行記』の世界に迷い込んだような錯覚すら覚える。

せっかくなので、キャストたちに一緒に写真を撮りたい旨を伝えると、「1本10元の造花を買って、それをキャストに渡すと一緒に撮影できる」というシステムらしい。なるほど。パチンコの三店方式みたいだが、もらった造花がキャストの歩合給となるのだろう。さっそく造花を購入し、みんなでパシャパシャと記念撮影。

さまざまな扮装に身を包むキャストたち。一緒に写真を撮るには1本10元の造花を手渡す必要がある

さらに奥に進むと、粘土細工を固めたような巨大な城壁が見えてきた。遠目に見たらトルコのカッパドキアみたいだ。キノコの家々とあわせて、これも小矮人王国のためにすべて作り上げられたものかと思うと、大陸的なスケール感に圧倒されてしまう。

城壁の内部は階段や通路でつながっていたが、特に何があるというわけではない。

国王登場! そしてグダグダなショータイム

そうこうしているうちに、メインのステージショーが開演する時間となった。観客席に陣取っていると、男女のMCが登場。その呼び込みに応えて、小矮人王国の兵士、妖精、住人たちが次々とステージ上の階段に並んでいく。最後に国王である呉自民氏が威風堂々と登場し、全員で歌と踊りのステージが始まる。なかなか壮大な演出だ。

オープニングショーのあとはひとまず全員が引き上げ、さてお次はどんな出し物があるのか期待を込めて見ていると、舞台に上がったのは渋い中年のおじさん。そして唐突にカラオケ大会が始まった。う、うーん……? 本人は大変気持ちよさそうに歌い上げているが、ものすごい美声かと言われれば、そうでもない。なんだか、懇親会で部長の熱唱を眺めているような微妙な気分になる。

続いて男性アイドル風に6人のグループが登場。曲に合わせたダンスを披露するも、振り付けが見事にバラバラだ。中央の2人は顔を見合わせないタイミングでお互いの目が合ってしまったので、どちらも慌てて別の人を盗み見ながら振り付けを修正している。そして一番端の彼は、おそらく最初から振り付けを覚えていない。隣の人をガン見しながら動きを真似ている。

その後も女性アイドルグループ風のダンスや、また別の男性のカラオケなどが続いたが、率直に言ってしまえば、ショーの全体的な完成度は大変低く、「小人症の人々が懸命に披露している」以上の見どころがないクオリティであった。

王国民一同のお披露目のあとは、唐突にカラオケが始まった。
ダンスを披露する男性アイドル風ユニット。一糸乱れずとはいかず、互いに振り付けを観察しながらの手探り感。
チャイナドレスを着た女性陣による舞踊。女性キャストの振り付けは比較的揃っているので、それなりに見られた。

そしてショーの合間に国王が登場し、巨大なバックスクリーンで小人症の人々に起こった悲劇らしい物語を流しつつ、何やら演説している。最後には奇形の牛が2頭登場し、観客の間を練り歩く。白い牛は分かりやすい。背中に大きな瘤があり、細い脚が2本羽のように飛び出している。黒い牛はどこが奇形なのか疑問に思っていると、ガイドのヒョウさんが前脚をよく見ろと言う。偶蹄目なのに、蹄が一つしかない。なるほど……難易度高いな。

要するに、このステージショーはチャリティーショーなのだ。小人症や奇形牛の悲惨な状況を伝え、寄付の代わりに造花を購入して、出演者と一緒に舞台上で写真を撮ってもらうという形だ。かつての小人プロレスのような、小柄な体格を活かしたプロの妙技といった舞台を期待したが、ショーの内容自体は二の次になっている感は否めず、少し残念に感じた。

まあ、この王国は2009年のオープン当初から、「小人症を見世物にするとは」との批判が内外から寄せられていたようだ。事あるごとに示される「小人症を救う」というメッセージは、そうした批判をかわす狙いもあるのかもしれない。

ショーの終わりに連れてこられた2頭の奇形牛。白い方は背中から脚が飛び出しており、黒い方は前脚の蹄が割れていない。

超危険なサーカスも! ただし演者は少数民族

いや、まだ期待の出し物があるじゃないか。「鉄壁飛車」だ。身体能力の高いエース級は、こうした危険なメインイベントに登場するはずだ。開演時間が迫ったので急いで金網の場所に向かうと、確かにバイクが2台配置されていた。普通サイズのオフロードバイクだ。あれ? 颯爽と登場するは、中肉中背の男性2人。あれれ? 彫りが深い顔立ちであまり中国人らしくないが、少なくとも小人症ではない。ちょっと。話が違うな。

金網バイクのショー自体は、非常に迫力のあるスリリングなものであった。2台のバイクがぶつかることなく、金網の側面を猛スピードで駆け巡る。本格的なサーカスを目の当たりにし、さっきまで見ていたゆるいお遊戯ショーの記憶が飛んでいく。

彼らの正体は何なのか。ガイドのヒョウさんによると、雲南省にいる少数民族のイ族やリス族の人々であるという。つまり、普通の仕事を得るのが難しい小人症の人々が小矮人王国で働き、同様に仕事を得るのが難しそうな少数民族の人々が小矮人王国で命がけの大道芸に挑んでいるのだ。ここには社会の縮図が詰まっている……。

金網の内側を猛スピードで回る2台のバイク。ショーを行うのは小人スタッフではなく、少数民族であるイ族やリス族の人々。

また、メインステージの方でも綱渡りショーが行われたのだが、これも普通の体格である少数民族によるパフォーマンスであった。ただ、その内容がなかなか狂気じみている。命綱なしはいいとして、よくないが、パフォーマーが渡るロープは観客席の真上にピンと張られているのだ。万一失敗して落下したら、真下の観客も巻き添えで一緒に死ぬという、恐怖の一蓮托生システムである。安全対策がガバガバ過ぎる。

何しろ標高がそこそこ高いものだから、観客席にいるだけでも風の強さを感じる。はるか上空に張られたロープの状況は推して知るべしだ。そんな悪環境の中、2名が両端から綱を渡って真ん中で合流し、一人が横になってもう一人がまたいですれ違うという、やたらと高度なパフォーマンスを見せてくれる。観客から悲鳴が上がるが、その多くは真下にいる自分たちの心配をしていると思う。演技の最後には、ロープの上を小走りに駆け抜けてひと盛り上げしていった。

命綱なしの綱渡り。ロープの真下にいる観客にも等しく恐怖を与えるスリリングなパフォーマンス。

少数民族による本格的なサーカスは、小人キャストたちの素人ショーと比べるとクオリティに差があり過ぎるように感じたが、フォローも付け加えておきたい。どうもこの綱渡り、最初は小人キャストたちで行った可能性があるのだ。

あとで大江さんに伺ったところによると、小人キャストによる綱渡りで転落事故が発生し、取りやめになったとの記事をWeiboで見た記憶があるという。当時の記事を発見できず申し訳ないのだが、小矮人王国のドキュメンタリー映画『DWARVES KINGDOM』の予告ムービーに、綱渡りの練習風景が映っているのが確認できる。少なくとも当初は小人キャスト自身で綱渡りショーをやっていたか、やる予定であったのは確かなようだ。まあでも、こんな危険なパフォーマンスはやらなくて正解だと思う。

またオープン当時の記録を調べると、メインステージではマジックや演劇など様々な催しが行われており、サーカスも多種多様な演技を披露していたようだ。しかし当初は100人以上いたキャストが、2014年当時は総勢70人ほど。1日あたり20人~30人のシフトで回しているという。客足が遠のくとともに、キャストの数が減り、できるショーの幅も狭まった結果、歌とダンスが残ったのだろう。

ドキュメンタリー映画「DWARVES KINGDOM」のトレイラーに、かろうじて小人キャストが綱渡りの練習をする風景が映っている。

ショーを一通り堪能したあとは、帰る前にお土産タイム……といきたいところだが、唯一の売店がこれまたしょぼい。中国国内でどこでも売っていそうな、ひまわりの種などの食品と、変な人形やオブジェしか置いてない。小矮人王国らしい土産物が何一つとして見当たらない。

と、大江さんがようやくそれっぽい土産物を見つけてきた。パッケージに「小人国」の文字が見られるDVDが2点と、同じく「小人国」の名が印刷されたトランプだ。パチもん研究家である大江さんは、ごちゃごちゃした商品の中から、これはと思うアイテムを探し出すのが非常に上手い。

しかし帰国後に再生したDVDの内容は、まったくもって期待外れであった。1枚は、普通の中国芸能人が2013年の旧正月を祝う内容。もう1枚は、同様に普通の中国芸能人が行うチャリティーショーが収録されていた。どちらも小矮人王国のメインステージを使っているだけで、小人キャストの姿はほぼ見られない。なんでこれをDVDにして、小矮人王国の売店で売ろうと思ったのだ……。

ただトランプの方は、意外とレアな土産だったらしい。大江さんの周りで小矮人王国に行った知人は10人ほどいるらしいが、このトランプは誰も見つけていないそうだ。といっても中身のトランプは、表面に世界蝴蝶生態園や小矮人王国の風景がプリントされているだけで、小人キャストたちの姿はほとんど確認できないが。

唯一の小矮人王国らしい土産物であるトランプ。でも中身はほぼ世界蝴蝶生態園の風景写真。

最新情報を調べると意外と盛り上がっていた

出発前にちょっと期待値のハードルを上げすぎたが、「小矮人王国」は一度見ておいて損のないテーマーパークであった。ゆるいステージショーも、それはそれで中国らしくて良い。何より、働いている小人スタッフの表情が一様に明るいのが印象的だった。周囲の目を気にする必要もなく、自分と同じ障害を持つ仲間がおり、助け合いながら安心して暮らせるこの場所は、彼らにとって正しく楽園そのものなのだと思う。また現実的な話になるが、給料も雲南省の平均と比べると高めだそうだ。

ただあのショーの内容では、リピーターを確保するのはなかなか難しいのではないか。しかも、ここ数年のコロナ禍だ。あれだけ巨大な施設を維持運営するのは相当厳しいだろう。そもそもまだ存続しているか不安になってきたので現状を調べると、相変わらず公式サイトなどは確認できないのだが、2021年の中国の記事(「云南的小人国里没有童话」より)を発見した。

……あれ? なんだかすごく盛り上がっているな。王国内にさまざまな建物が増えており、飛行機がドンと置かれていたり、長大な吊橋がかかっていたりと、えらく様変わりしている。小人兵士たちはしっかりした西洋鎧に身を固め、小型の馬や豚に乗ってパトロールに勤しんでいる。小人のボクサー同士が戦うイベントまで開催されている。2014年当時よりも、明らかに見応えのあるテーマパークに進化しており、今見に行ったほうが絶対面白そうだ。

豚にまたがる王国騎士。かっこいい! こんなのなかったぞ! (「云南的小人国里没有童话」より)

小矮人王国が今も無事存続している様子にホッとしたとともに、できるだけ長い間、小人たちの楽園が存続することを願ってやまない。ただ上記の記事を見ると、まだ土産物に不安が残る。これだけ詳細な記事に、土産物として変なエロ灰皿みたいなアイテムしか載っていない。なぜこうもラインナップが微妙なのか。せめて小矮人王国Tシャツとかタオルとか作って、公式サイトも作って、ネット通販していただきたい。私が買うので。

土産物屋で発見したヘンなキノコの置物。少なくとも、わざわざ小矮人王国まで足を運んだ観光客が欲しいお土産は、これじゃないと思うのだ。
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西川 マレスケ

パソコン自作雑誌の編集を経て、フリーライターとして独立。standards社のiPhone・Android解説ムック「便利すぎる! テクニック」「完全マニュアル」シリーズなどの執筆を担当する。趣味はジビエや釣りや昆虫食など、自分の手で獲って自分で調理して食べる珍食探求。たまに仕事につながったりしている。
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