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あの町この町、ニュー風土記 vol.2

引き寄せる土地 諏訪郡富士見町

author: 大澤思朗date: 2021/11/26

東京高円寺でお店を構え「妄想インドカレー」という架空のインドカレーを作っている僕たち夫婦は、日本各地積極的に動いては、お店を飛び出してカレーを作っています。飛び出した先にあるのは現在進行形の街の姿、ニュー風土。街の隙間を覗くことで見えてくる魅力的な個人商店たち。

山麓の町に集まる

近しい人たちの話でよく耳にしていた「よはく酒店」でnuttsponchon(通称まるさん)が展示をすると聞き、すぐさま立候補。カレーを作りに行きました。

場所は長野県諏訪郡富士見町。僕らのお店のある高円寺から中央線で一本。約165kmの線路がいくつもの山を貫いて繋がっており、生活圏での感覚をリセットすることなく、気がつくと長野県という別の環境に突入している。土地をスライドしていくことによって起こる驚き。途中の駅で何気なく食べた立ち食い蕎麦に馬肉が乗っていることに感動する。

夏の雨が降る日、電車を降りると吐く息が白く、標高の高さでここが旅先であることを再認識させられる。富士見駅を出てすぐ鼻に飛び込む蕎麦つゆの匂い、待合い席にまで漂っている湯気、昭和の名残りあるロータリーはだらんと広くて、大きなパンダの看板が気になる。もう好きな町だ。

そしてこのロータリーを下った先に、よはく酒店がある。

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それぞれの道から富士見町に辿り着いた4人の旦那衆が仕掛ける角打ち酒屋、よはく酒店。粋に法被を着こなす彼らが日本各地の酒蔵を尋ねて口説き落とし、集めた名酒が並ぶ。いま、移住する人が凄い勢いで増えているという富士見町。出会った移住組の人達は皆きっかけとして、よはくの名前をあげる。ハブとして、カルチャーの震源地として機能している環境が有るか無いかが、地方都市で生活する上でいかに重要であるかを実感した。「富士見いいとこだよ!」と快活に笑いながら面白い場所を余すことなく案内してくれる、よはくのナルさんは町のこと、暮らしのこと、何でも教えてくれるけど、移住を強く勧めたり世話を焼いたりしない。ある意味ドライで距離感のバランスが上手な先人がいることも“住みやすさ”に一役買っているようだった。

よはく酒店オリジナルのクラフトビール、LOTUS ALE。旦那衆の1人、Mighty Mummy Frogs→によるラベルにも惹きつけられる 。
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尾道在住のまるさんと、尾道で会ったのは一度きり。収集と拡散を繰り返しながら旅をするまるさんの姿をSNSで追いかけていたら、各地の旅先で何度も再会が続く。遊園地を舞台に全国各地のクラフトマンが大集合するフェスでの遭遇はとりわけ印象深かった。太古の遺跡を模した遊園地のゲートをくぐった先、円形広場のど真ん中で、民族音楽のポリリズムに体を合わせて揺れているまるさんのうしろ姿。フェス全体の穏やかなムードとは異質の、どこかシャーマニックに見える背中が、自分たちを不思議と安堵させた。制約や境界を飛び越えて、自身のアンテナの赴くままに世界を歩いているような柔らかさと、確実な一点を見据える硬さを併せ持つまるさん。キャンバスの上には好奇心の矛先である記号やシンボルが配置されていて、絵の具で施された装飾や図形に彼の思考の痕跡を探してしまう。

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時間の感触

富士見町では雨上がりに田んぼから縄文土器が浮き上がってきて、いたるところに顔を出していたという。学校帰りにたくさん拾ったよ、と。教科書で読んで知った縄文時代、自分が生きてる今の時代。当たり前のように別のレイヤーで切り分けて整理していたけど。この町で暮らす人たちは、地面の下に時間が積み重なっていることを当たり前のように理解している。

Physisの迫田さんもその1人。箱いっぱいの縄文土器のかけらをがちゃがちゃいじらせてもらった。

「好きなものあげるよ」

「縄文土器といえばの縄の柄がついたものは、みんな大好きだから探さないとみつからないよ」

惜しみなくその場にいる人に土器のかけらをあげちゃう迫田さん、土器拾いに絶好の畑があると連れて行ってくれた。周囲とくらべ若干隆起している畑、その僅かな高低差によってこの土地が周囲を上から見通せる環境であったことを伺わせる。

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「昔、八ヶ岳で起こった噴火で、あの山の頂上は吹っ飛んで、その先でまた新しい山ができた。この場所からは八ヶ岳も新しい山もどっちも見える、太陽が登るところも沈む所も見える。畑ふたつ分の狭い土地だけど、ここは特別な場所だったのだろうね」

周囲の畑からは土器が出てきたという話を聞かないが、この畑からは土器のかけらや黒曜石が出現するそうだ。確実に、生活の痕跡が見えるのだ。かつて彼らが見ていたものを想像する。

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迫田さんが持つphysisという空間、畑の中に突然現れる植物の量に驚き、植物屋さんなのかなと思ってしまう。手作りの巨大ビニールハウス、入り口は立派な作りの木製回転扉。嘘みたいに軽い力で開くので愛犬も鼻先でつんと押して自由に出入りしている。

「開けた扉、閉めてくれたら良いのにね」

開けっ放しの扉から中へ入ると屋根一面に葡萄のつるが絡みついている。隅から隅まで並んだ素焼きの鉢植えには色々な種類の多肉植物。彼らを守るため、冬は薪ストーブを夜通し焚き続ける。ハウスの周囲にはたくさんのサボテン。そういえば、駐車場には「迫田サボテン園」の看板があったなと聞いてみると、地元のおじさんが気を利かせて作ってくれたんだけどねと笑って説明してくれた。

physisはサボテン屋でもなければ、迫田サボテン園という名前でもない。様々な植物の仕組みに興味を抱き、探究心の赴くままに植物と共に生活していたらこうなっていくという、自然な空間なのだ。

家具職人である木村二郎さんを師として、共に働き続け、若い頃からずっと木を磨き、時には師匠と一緒に土器を掘った。今では設計図を引かずに、家が建てられるようになった。

「毎日続けていたらどんなに下手な人でも上手くなる。毎日毎日時間をかけて、磨いて、触る。縄文時代の道具を見ているとそうやって生きていたことがわかる。」

迫田さんの言葉を聞いた時、目には見えないけれど確かに存在するものに触れた気がした。

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町には2軒の本屋がある

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富士見駅から歩いていくには少ししんどい距離、国道沿いにある生活に必要な施設が集まったショッピングセンターのような場所。町の台所、農協Aコープやファッションセンターしまむらの間で営業している、今井書店ふじみ店。

整然とした配置の本棚、蛍光灯の光、書店員さんのパリッとしたエプロンと、安定した流通の賜物のような安心感のある蔵書量。活きのいい、体力のある本屋という印象。ふらふら店内を彷徨くと、どんなコーナーも魅力的な装丁の本が平積みされていることに気付く。意図的に括られた本達は、大手出版社のものから独立系出版社のものまで境界を平然と超えて、平積みされている。

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入り口すぐには、移住の暮らし方、田舎暮らしのコラムや、自然との共生のガイドになるような資料集。隣には地域の生態系にまつわる書籍、動植物の淡いイラストが挿絵の図鑑、星野道夫のエッセーまで。通路を挟んで、民俗学から縄文・考古学、諏訪学と……。ミクロからマクロへ視点や時間軸をぐいんぐいん動かしながら、奥へ奥へゆっくりと好奇心への誘いが重ねられていく。

激しくも優しい選書コーナーのうねりは、諏訪の果て、八ヶ岳の麓の本棚で、いま、本を手に取る自分の肉体と思考に、意味を結びつけてくれる。自動扉を越える前後に感じた地方の大型書店という印象と、店内を噛みしめた後の感覚の温度差が気持ち良い。充足した頭でレジに本を持って行くと……。レジの中のパリッとしたエプロン姿、富士見町でもう1軒の本屋、mountain bookcaseの店主、石垣さんが立っていたのだった。

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mountain bookcaseは、富士見町商店街の中、ナチュールワインと一緒に絶品中華が味わえる茶虎飯店や、お洒落な喫茶店など新しいお店が続々と開店しているその一角にある。1年ほど前に開店したお店は、土、日、月曜日に営業している。それ以外のタイミングで店主の石垣さんは今井書店ふじみ店に勤務されているそうだ。

今井書店でのダイナミックな体験とは対照的な、店主の趣向をゆっくり味わえる小さなお店。本だけではなく、小粋な古民具に石を売るガチャガチャ!? 遊び心が所々に配置されている。選書のひとつひとつにもそういったささやかな意思を感じて、棚を眺めていると石垣さんと目を見合わせているような気分になる。蔵書の数は限られているはずなのに、視線を移す度に新しい本を発見してしまうので店内を何周もしてしまい、いつの間にか日は暮れ始めている。

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富士見町を歩いていると時々、八ヶ岳の尾根がうっすらとシルエットで見える。山に囲まれながら富士山をも望めるこの土地を“特別だ”と感じる人たちが暮らしていた時代もあっただろう。そして今、積み重なった地層の一番上にある町では暮らしと商いの均衡がとれた個人商店たちが適度な距離を保ちながら過ごしている。

=出張の記録=

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=妄想インドカレー定食=

✳︎ハモとムング豆のカレー
✳︎ビーツとすだちのアチャール
✳︎オクラとクローブのサブジ
✳︎コリンキーとアスパラガス、スマックのアチャール
✳︎沖縄マンゴーの老酒のプルドポーク
✳︎トマトとカフィアライムのピクルス
✳︎いちぢくとカレーリーフのライタ

=special=

✳︎鴨とソルダムのアチャール
✳︎桃とパインのラッシー
✳︎痺れるチャイ

=PICK UP=

よはく酒店
長野県諏訪郡富士見町富士見3579-3 1F-B

physis
長野県富士見町境字西原5637-1

今井書店ふじみ店
長野県諏訪郡富士見町落合9984-1025 あぐりモールふじみ内

mountain bookcase
長野県諏訪郡富士見町落合9984-574

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妄想インドカレーネグラの店主
大澤思朗

夫婦で妄想インドカレーネグラというお店をやっています。 近所の銭湯から、秘境温泉街まで、よく動き出張してカレーを作っています。「感じルゥ〜〜〜インド」「チリチリ酒場」「レペゼン万博」「スパイスヤードカウンシル」など、旅をして、カレーと面白い人達と面白そうなことを企画することが好きです。
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