検索
menu
close
loading...
Special特集
close
検索
Tags
  1. top/
  2. Column/
  3. 世界に広がる「特撮(TOKUSATSU)」文化の系譜を紐解く
Column

ヒーローと怪獣は日本の宝!

世界に広がる「特撮(TOKUSATSU)」文化の系譜を紐解く

author: 高崎 計三date: 2021/09/26

かつて特殊撮影技術=SFXと呼ばれた「特撮」は、国内において一部の作品群を示すワードだ。どこかチープながら、観る者の心をつかんで離さないその魅力は、いまや再解釈され世界に通用する文化として定着している。子ども心にワクワクしたヒーローや怪獣たちはどうして生まれたのか? なぜ現代にも息づいているのか? その系譜をたどる。

7月に公開された映画『ゴジラvsコング』は、世界各国の興行収入が合計で500億円を突破し、日本でもヒット。2016年には庵野秀明総監督、樋口真嗣監督の『シン・ゴジラ』が大きな話題を呼び、本家・日本版の意地を見せた。

「仮面ライダー」シリーズは令和3作目の『仮面ライダーリバイス』が9月5日から放送開始で、2023年にはシリーズ50周年記念映画『シン・仮面ライダー』(庵野秀明脚本・監督)が公開予定。同じ「ニチアサ」枠の「スーパー戦隊シリーズ」は45作品記念作『機界戦隊ゼンカイジャー』、またジャニーズの「美 少年」が主演のドラマ『ザ・ハイスクール ヒーローズ』(これは正式なシリーズ作品ではないが)が放送中だ。

一方、「ウルトラマン」シリーズは7月から最新作『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』が放送中で、こちらも『シン・ゴジラ』と同じ庵野・樋口コンビによる映画『シン・ウルトラマン』が控える(公開時期調整中)。また昨年放送されていた『ウルトラマンZ』は優れたSF作品に贈られる「星雲賞」の「メディア部門」を受賞した。

「ゴジラ」の第1作が1954年。「ウルトラマン」シリーズが1966年スタート。「仮面ライダー」シリーズが1971年、「スーパー戦隊」シリーズは1975年開始。これだけ長い歴史を誇る日本の「特撮」が、そのスケールをアップしながら魅力を増し、海外をも含めて幅広く受け入れられているのはなぜなのだろうか?

「本当に怪獣が現れたら?」というリアル路線

特撮の歴史は順風満帆だったわけではない。何度かの大ブームもあったものの、人気が低迷し、続いていたシリーズが中断したことがあった。『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(洋泉社)などの著書がある評論家の切通理作氏は、自らの経験に照らしてこう話す。

「私が初めてゴジラシリーズに接した70年代前半、ゴジラ作品は『東宝チャンピオンまつり』という子供向けの特集上映に組み込まれていましたが、親や学校の先生から『昔のゴジラは怖かったんだぞ』と教えられました。当時ゴジラは正義の味方のポジションで宇宙怪獣と戦うという形になっていましたが、仕切り直しの必要性から、いったんシリーズは終了しました。

それからウルトラマンは時代を超えて復活し、仮面ライダーシリーズも定着しますが、やはり70年代中盤にはいったん沈静しました。その間に、宇宙戦艦ヤマトやプレ・ガンダムの礎を築いたロボットアニメ群がドラマ性に富んだ作品を送り出して、少年向けドラマの王座をアニメに明け渡した感のある時期に入ったのです」

image

こうした流れに大きな変化をもたらしたのが、1984年、シリーズ開始30周年を記念した復活作「ゴジラ」だ。原水爆の恐怖の象徴として街を襲った初代のコンセプトに立ち返り、“怖いゴジラ”を蘇らせることがテーマとされた。核兵器の使用を巡る米ソの対立、その狭間に立つ日本の首相の立場など、当時の社会情勢に沿った描写も盛り込まれた本作が、子供向けではなく「一般作品」として公開されてヒットしたことで、その後の特撮作品の流れもまた活発化することとなった。

その「リアル」路線がさらに推し進められたのが、いわゆる「平成ガメラ3部作」。1965年から1980年にかけて8作品が制作された「ガメラ」シリーズはゴジラに続く怪獣特撮映画シリーズとして人気を得たが、こちらも30周年を記念して1995年に復活。『ガメラ 大怪獣空中決戦』『ガメラ2 レギオン襲来』『ガメラ3 邪神覚醒』は特撮ファンから高い評価を得て、今も根強い人気を誇っている。

「平成ガメラは、84年の『ゴジラ』が作った土壌の中で復活したものと言えますが、自衛隊が出てきてもすぐに怪獣を攻撃せず、政府が閣議決定して命令を下さないと出撃できないというプロセスを示したりと、『もし現実に怪獣が現れたとしたら』というシミュレーションを丁寧に描いていた点も新しかったですね。この流れは、後にスタッフが重なる『シン・ゴジラ』で、より本格的に語り直されていくことになります」(切通氏、以下同)

子ども世代以外も取り込む“戦略”が功を奏する

「リアリティ」と「テーマ性」の追求は、2000年の『仮面ライダークウガ』で本格復活した「仮面ライダー」シリーズでも大きなテーマとなった。

image

「『クウガ』では脚本を担当した荒川稔久さんが警察に電話して『本当に怪人が出てきたらどうするんですか』と聞いたというエピソードがあって、そういった描写をリアルにするところから始まっています。時代が進むとともにコミカルになりがちだった怪人の怖さをあらためて強調し、それに対して人間が団結して闘うというものでした。

翌年の『アギト』以降は、人間側も一枚岩ではなくいろんな思惑があったり、ライダーにも人間と異形の間で苦しむライダーもいれば、より進化したライダーもいれば、人間がスーツを着たライダーもいるという形でバリエーションが出てきました。

さらに翌年の『龍騎』では仮面ライダー同士がバトルするなど、ドラマ的にも単純な正義と悪の闘いとは違う形になっていきました。ショッカーのような『悪の組織』は基本的に登場せず、ライダー同士の正義がぶつかり合うようなドラマになっていきました」

『仮面ライダークウガ』以降、「仮面ライダー」シリーズは平成で20作品が制作され、令和に入っても新シリーズ『仮面ライダーリバイス』で3作品目と、完全に定着。その陰には「クウガ」のオダギリ・ジョーに端を発する人気俳優の輩出、変身アイテム玩具の人気など、様々な要素がある。

「子供中心の番組という中心軸は変わっていませんが、そのとらえ方が変わってきていると思います。少子化の時代なので、できるだけ家族で見られる番組にした方がいいとか、お母さんがイケメン俳優のヒーローに感情移入できるようにした方がいいとか、ある程度のストーリー性を持って、大人でものめり込め、ソフトなどで繰り返し観られるようにした方がいい。

一方で、子供は単純にアクションを見ることも含めて楽しめるようにと、データやスキルを生かしていろんな要素を取り込んでいった結果が、シリーズの成功につながっていると思います」

かつての作品に込められたメッセージを現代的に再現

そして近年の「ウルトラマン」シリーズでは、親子視聴者を見込んだ制作手法がより明確に取り入れられている。ゴモラやレッドキングなど、過去の怪獣や宇宙人が登場するのは言うまでもなく、近年のシリーズではウルトラマンが歴代ウルトラマンや怪獣たちの力を借りてフォームチェンジしたり、アーマーとして装着したりという設定が盛り込まれている。また、過去の名作エピソードの後日談やトリビュート的な作品も作られるなど、親子で楽しめる仕掛けも多い。

image

「近年の作品は、一つの番組の中での多チャンネル化に対応していると思います。昔の番組を見ていた人にとっては思わずニヤリとさせられるようなオマージュ的な要素が随所に入り込みながらも、番組のフォーマットとしてはむしろウルトラマンの定番を崩すような、武器を持ったりアーマーを装着したり、いろんな姿にチェンジしたりという見せ方をしています。

今の若いファンは、ストーリーに織り込まれた昭和作品をそのオリジンのネタとして楽しんでいるという現象が起きています。ウルトラマンタロウの息子が出てくることから元の『タロウ』を見たり、オマージュ的に登場する昔の怪獣が初登場したかつての作品を見たりしているんですね。そこでフィードバック現象が起きていて、むしろ若い人の方が、両方を見て楽しんでいる気がします」

ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーといった昭和生まれの特撮シリーズが、令和の現在も活発な話題を提供し続けている背景には、かつてそうした作品に熱中し、魅了された世代が監督など制作の中心となったことが大きい。彼らは自分たちが受け取ったかつての作品のテーマ性を、現代の技術で再現することを目指している。

「ゴジラ」は前述のように、原水爆の恐怖の具現化として登場した。「ウルトラマン」シリーズには深いメッセージが込められたエピソードも多い。「仮面ライダー」の出発点は、悪の組織によって改造人間にされた主人公の悲哀だ。

一時は勧善懲悪の分かりやすい図式に押し込められて見えづらくなってしまっていたそうしたテーマ性を、より現実に即したストーリーの中で、最新技術を駆使して映像化する。これを最も体現しているのが、前述の庵野秀明監督だ。

先人の思いを継ぎながら「特撮映画」は広がっていく

「かつて、僕の親や学校の先生たちは、『ゴジラ』や『ラドン』、『モスラ』といった作品を、大人になってから劇場に見に行っていたんです。僕らで言うと『ジョーズ』とか、ちょっと後の『スターウォーズ』とか、ああいう作品を見に行く感覚で、一般の人が一般向けの娯楽として見に行っていた。

そういう時代に戻ってほしいという思いは昔からあって、84年の『ゴジラ』も平成ガメラもそこを目指していたんだと思います。内容的には一部実現しましたが、現実にはそういう客層にアピールしきっていたかというと、まだまだ出来ることはあるんじゃないかと思っていました。

そこから時が経ち、『シン・ゴジラ』とかハリウッド版シリーズの定着を見ると、ようやくそういう時代になってきたのかなと思えてうれしいですよね。特撮ファンにはウルサ型の人もいますが、根底では『特撮映画がもっと一般にヒットしてほしい』と常に思っています。なぜならヒットすれば、それだけ新作で、本格的な構えの作品が観られる機会が増えますからね」

今後、公開が控えている『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』、そしてこれからのハリウッド版ゴジラがどのような作品となり、どれだけヒットするか。それによって、特撮作品はもっと盛り上がりを見せるだろう。

また、今の子供たち、若者たちは、先人たちが特撮作品に込めたテーマ性やメッセージを、現代の特撮シリーズや庵野監督らの作品を通じて受け取り、また次の世代へ引き継いでいく。日本に生まれて日本で育ち、近年は海外でも定着している「特撮」文化は、世代も国境も越えて、これからさらに広がっていくことを期待したい。

撮影:下城英悟

author's articles
author's articles

author
https://d3n24rcbvpcz6k.cloudfront.net/wp-content/uploads/2021/07/096.jpg

ライター・編集者
高崎 計三

1970年、福岡県出身。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。格闘技・プロレスをメインに、近年は音楽をはじめ多方面でライター・編集者として活動。著書に「蹴りたがる女子」「プロレス そのとき、時代が動いた」(ともに実業之日本社)。
Follow us!!
Copyright © Connect Beyond. All Rights Reserved.