思い描く仕上がりを求めて(抽出編)
コーヒーの抽出は自分と向き合える約3分のエンターテインメント
編集者であり、コーヒーをこよなく愛する澤村尚徳さんのコーヒー三部作。今回は“抽出”について語ってもらいました。

”おうちカフェ“のメインイベント、抽出
味を決めるのは「コーヒー豆7割、淹れ方3割」といわれるほど、コーヒーは豆が重要。豆のポテンシャルが高ければ、多少雑に淹れても美味しい一杯を飲めるのです。とはいえ、粉の量、挽き目、湯温、抽出スピード、そして抽出方法でコーヒーの味は確実に変わるため手を抜けないのも事実。



コーヒーを飲むのが目的なら、それらを制御してくれ、ほぼ失敗なく淹れられる高機能なコーヒーメーカーがあれば問題ないのではと思う向きもあるかもしれません。
ではなぜコーヒーメーカーではなく、自分の手で淹れることにこだわるのか。「コーヒーを飲む!」ための手段である抽出が、なぜ目的になっているのか…。
答えは簡単です。抽出は自分と向き合える、約3分のエンターテインメント。さまざまな器具を駆使して「自分好みの味に淹れるという行為」が、楽しいからにほかなりません。
コーヒースタンドのバリスタや喫茶店のマスターのように毎日何十杯も淹れるわけではないので、1杯1杯が勝負。毎回、同じ豆を、同じ味で抽出できるかどうかがプロと趣味との境目で、どんなに同じようにやっても、同じ味にならないこともあります。そこがまた探究心をそそるのです。
そしてまた、淹れている時間そのものが“ていねいな暮らし”を紡いでいるからなののです。
趣味としてのハマりポイントは、大きく器具(抽出方式)と、淹れ方の2つ。器具(抽出方式)によって、粉の量、挽き目、湯温、抽出スピードは異なり、器具に応じて淹れ方が変わります。


抽出方法は「落とす」か「浸けるか」
抽出方式には大きく、透過(とうか)式と浸漬(しんし)式とがあります。透過式は、コーヒー粉の上に湯を落とし、豆を透過させて抽出する方法。ハンドドリップやエスプレッソがこれに当たります。浸漬式は、コーヒー粉の入った容器に湯を入れ一定時間浸す方法で、フレンチプレスやコールドブリューなどが、よく知られるところ。最近は一定時間コーヒー粉を湯に浸した後で濾す、浸漬式と透過式を合わせたハイブリッド型も登場しています。
どれがいいということはなく、好みの問題。一般的に、ペーパーやネルを使う透過式は、雑味や油分が濾されるので味がクリアに。一方の浸漬式は、雑味や油分までを含めコーヒー本来の味を楽しめるといわれます。
粉の量と挽き目、抽出スピードは相関関係にあり、同じ湯量のとき粉の量を多くすれば濃く、挽き目が細かければ濃く、同じ粉量で同じ挽き目の場合、抽出スピードが遅ければ濃くなります。湯温は、熱ければ香りは立ちますが、苦味が増します。以上の関連性と、豆の焙煎度合との組み合わせを考えながら抽出していくのです。

自分に合った抽出器具を選ぶ
自宅での抽出で一番馴染み深いのはペーパードリップ。ドリッパーの形状には円錐形と台形があります(厳密にいうとカップケーキ型なども)が、カフェで多く使われ、世界的に人気なのはハリオ「V60」。スタンダードなのは3つ穴のカリタ「101」。ほかにメリタやコーノ、キーコーヒーなどからさまざまなタイプが登場しています。
インテリアにこだわる人には、MoMAの永久展示品になっているケメックスや、佇まいが美しいTORCHのドーナツドリッパー、味のあるグローカルスタンダードプロダクツのホーロー製ドリッパーを愛用する人もいるのではないでしょうか。
そして、透過式の頂点といえばネルドリップ。お店ではよく見ますが、自宅では難易度が高め。淹れ方もさることながら、ネル(布)の保管が大変(水を入れた容器に冷蔵庫で保管し、朝昼晩にその水を交換)で、何度か挑戦しましたが、結局いつも保管の壁に阻まれ断念。しかも、ネルドリップはペーパーに比べ、一湯一湯により真剣さが求められるため、毎日行うには相当の覚悟がなければ続きません。
一方の浸漬(しんし)式は、サイフォンとフレンチプレスが両巨頭ではないでしょうか。サイフォンは、器具自体がエンターテインメントで見ていて飽きないのですが、1回ずつアルコールランプに火を入れなければならないのでハードルは高めです。毎朝気楽にというわけには行きません。
フレンチプレスはコツさえ覚えれば、淹れ方は簡単。ただプレスした後にどうしても微粉が残るので色が濁るのと、舌触りの好みが分かれます。またペーパーがない分、抽出後のコーヒー粉の処理が若干面倒です。
そしてハイブリッドタイプは、エアロプレス、クレーバードリッパー、ハリオ「Switch」など、特徴のあるコーヒー器具ばかりですが、慣れると淹れるのは簡単です。


ドリップに必要な道具とは
さて抽出に必要な道具ですが、ハンドドリップの場合、抽出するだけならドリッパーだけでもOKですが、美味しく淹れる、毎回同じ味にする、もしくはデータを取るにはほかのアイテムが必要。
まず重要なのが、湯を注ぐコーヒーポット。いかに狙ったところに細く、ゆっくり、コントロールしながら注湯できるかで、味は大きく変わります。一度に速く注ぐとコーヒーの成分を出しきれず、薄味になってしまうから。

それ以外に欠かせないのが、コーヒー粉を量るコーヒースケール、湯温を測る温度計、コーヒースケールにタイマーが付いていない場合は、時間を計るストップウォッチ。量、温度、時間ともに正しく計測すれば、味が違った時に何が原因だったのかが分かるので、一度試してみてください。


そして購入すると、さらに深みにハマり、違うものを試してみたくなるのです。結局、コーヒーの沼にハマる要因は、無限に突き詰められることと、アイテムの多さなのかもしれません。
コーヒーの抽出に必要なもの、愛用している道具










