夜に遊ぶといったらどんなことをする? いつものお店で飲むのも、カラオケに行くのもいいけど、たまには違うことをしてみるのはどうだろう。
この日はピザを片手に、気になっていた「哲学対話」に挑戦。なんだか難しそうなイメージがあるけれど、やってみると意外とラフにもできるかも。ほとんど初めましての4人が集まって行った哲学対話の様子をレポート!

田代伶奈
活動フィールドは、哲学、政治、アクティビズム。FRAGEN代表、クリエイティブディレクター。哲学対話や読書会などを開く。お喋りと料理が好き!
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濠うか
クリエイター/アーティスト。トランスジェンダーとして、社会の境界の上を歩んできた経験をもとに、執筆を中心としたさまざまな表現活動に取り組んでいる。
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金丸りりあん
インナーウェアブランド「one nova」の共同代表 / ディレクター。“Living with merinowool” を合言葉に、独自素材のインナーウェアを展開。Forbes 30 Under 30 Asia 選出。
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日比楽那
2000年生まれ。インタビュアー・ライター・エディター。今回は哲学対話に参加しつつ、この記事のテキストを担当。
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よく聞く哲学対話。難しそうと思っていたけれど実はシンプル

哲学対話とは、「考えたこと、思ったことを、なんでも自由に話し、聴き合う場」。「そんなの当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、実はそういう場って社会のなかに少ないんじゃないかと思います」と、今回ファシリテートしてくれた田代さんは話す。
そんな田代さんが最初に教えてくれた、今回の哲学対話で心掛けたいことはこちら。
哲学対話で心掛けたいこと
・知識ではなく自分の言葉で話そう
・問うこと、聴くことを大切にしよう
・意見の批判と人格否定は違うよ
・「人それぞれ」はなしにしよう
どうやら「いいことを言わないと」「上手く話さないと」と気負わずにいてもいいみたい。最初に決まりごとを共有できると、安心感もある!

ピザが到着。今日はピザを片手にゆるっと対話
この4つを共有して、まずはそれぞれ自己紹介として、夜のイメージについて話す。
田代:私はお酒を飲むのが好きなので、夜がかなり好きです。あとは、朝が来るとやらなきゃいけないことがある分、夜は自由な時間を手に入れたかのように錯覚するから、夜といえば「酒と自由」のイメージ。みなさんのイメージはどうですか?
濠:私は小さい頃から夜が好きで、親に遮光カーテンを買ってもらったくらい、暗いところも好き。日の光もだんだん好きになってきたけど、今でもやっぱり夜が更けるほど元気になって、なにかに包まれているみたいな安心感があります。
金丸:私は朝も夜も好きなんですけど、夜のほうが無責任でいられる感じがあって、なにをしても大丈夫だと思えます。夜のほうが、みんなも自分に無関心な気がして、解放感があります。
日比:私もお酒を飲むのが好きなので、田代さんが言うように、夜にお酒と自由のイメージがあるのはよくわかります。あとは映画館とか劇場とかライブハウスとか、暗いところに夜、遊びに行くのも好き。でも、寂しくなったり孤独を感じたりするのも夜なので、夜には楽しいイメージと寂しいイメージの両方があります。

乾杯してスタート!
夜は寂しさも開放感もある時間?
夜好きのメンバーが集まった今回、ふたつのテーマをもとに哲学対話をやってみた。ひとつ目のテーマは、「夜になると寂しくなるのはなぜ?」。一人でぐるぐると考え込んだり、急にふっと寂しくなる夜、経験のある人も多いのでは?
テーマ①
夜になると寂しくなるのはなぜ?
田代:夜に対して、みなさん結構ポジティブなイメージを持ちつつ、寂しいという言葉も出てきましたが、「夜になると寂しくなる」ことにみなさん同意しますか?
濠:夜になると寂しくて泣いたりすることもあるけど、夜になったから寂しいというよりは、自分のなかに常にある寂しさが夜になると出てくるというほうが近いかも?
田代:夜になると寂しくなるんじゃなくて、夜になると寂しくなってもいいと思えるんですね。
金丸:私は1人で家で過ごしたりお散歩したりする夜は楽しめます。でも、寂しい夜ってどんなときだっただろうと考えると、パートナーと喧嘩して相手が先に眠ってしまったときとか、取り残された気分になるときだったと思って。
日比:たしかに、1人でも寂しくないときがあれば、1人が寂しいときもあるし、誰かといるから寂しくないときもあれば、誰かといるのに寂しいときもありますよね。

田代:1人=寂しい、ではないですよね。むしろ人といるときのほうが寂しいことがあるのはわかる気がするな。よくわからない大人数の会合に呼ばれて隅っこにいる寂しさとか……。
濠・金丸・日比:わかる……(笑)。
濠:でも寂しいって、嫌な感情ではないかもしれない。私は家族と暮らしているんですが、夏は日中暑いからまさに夜、1人で出かけて、寂しさを感じながらもそれが自分と向き合う時間になる。
金丸:いい時間ですね! 私は前に、友達のライブに行ったとき、会場にいたみんながちょっとずつ知り合い同士だけど自分だけ知り合いがいなくて孤立してしまったことがあって、どんな顔でそこにいたらいいのかわからなくなって前座の間に帰ってしまったことがあったんですけど。会場を出るときに「これから夜が始まる! どこへでも行ける!」と思ったわくわく感が忘れられないんですよね。
田代:今の2人の話を聞いて、寂しいことは悪いことじゃない、悲しいことじゃない、と感じました。
日比:夜のほうが感情が溢れやすくなって、自分の思いに気づくきっかけになることもあるのかな。私の場合は、特に日中は、すごい量の情報に晒されていてやらなきゃいけないこともたくさんあるから、自分がなにを思っているかわからなくなってしまうんですけど……。
田代:たしかに。一方で、延々とSNSをスクロールしながら自分で自分を無駄な寂しさに追いやっているようなときもあって。だから、いい寂しさと無駄な寂しさがある気がします。

「夜」と「寂しさ」の関連について考えつつ、さらに夜の持つ性質や、一人ひとりの夜との距離感を言葉にしていきます。
田代:濠さんは、なんで暗いところが好き?
濠:父が鹿児島出身で、太陽を燦々と浴びて育った人で、風通しいいのが正義、みたいな、閉まっているものは全部開けてしまうタイプなんです。
でも、私にとっては朝日とか太陽ってポジティブすぎるというか、すべてを照らして、すべてを明るみに出してしまう感じがあって。私は自分のフィールドを守りたかったし、暗闇のなかで、自分の想像力次第でなににでもなれる気がするのも好きでした。父は私の部屋のカーテンや窓も開けようとするので、子どもの頃からその攻防はありましたね。
田代:夜に想像力が掻き立てられるのとか、すごくわかるけど、だからこそ夜になると自分が狂いそうでこわいというか……(笑)。急に涙が出たり、自分が自分でなくなっちゃう感じがする。やっぱり日中のほうが自分で自分を律して動いている気がします。
金丸:朝になって冷静になって、あれなんだったんだ……と思うときありますよね。
濠:私は朝、パッと目覚めることがなくて、ぼーっとしながらとりあえず着替えて、どこかに行かなきゃとか、なにかをやらなきゃ、ということに動かされてるけど、夜にかけて自分自身がだんだん目を醒ますみたいな感覚があります。
日比:私も、社会的な自分なのは日中で、個人的な自分なのが夜、という感じがします。

「本気の夜更かし」と徹夜の違いに辿り着く
ふたつ目のテーマは、「なぜ夜更かしは楽しいの?」。翌日に仕事や学校があろうと、夜更かしをする時ってなぜかワクワクする。それはどうしてだろう……?
テーマ②
なぜ夜更かしは楽しいの?
田代:みなさん、夜更かしは好きですか?
日比:基本的には好きです。でも健康的な夜更かしかと言われると……。夜更かしは後先考えずに「どうにでもなれ!」という気持ちでするほど楽しい。週末に飲んでて、「このまま朝まで遊んじゃう!?」ってなる瞬間はすごく楽しいけど、まあまあすぐに眠くなって帰りたくなるとか、のちに後悔するとかしょっちゅうあります。
金丸:たしかに、朝来ちゃいますもんね~。でもやっぱり、「ここからはなにをしてもいいんだ!」っていう、夜更かしの始まりが一番楽しいですよね。普段の生活ではそんな「わくわくチャンス」あんまりないから。朝起きて友達から「海行かない?」ってLINE来るとかたまにしかないけど、夜のほうがそういう「わくわくチャンス」が降り注いでくる感じがします。

田代:夜更かしが楽しいんじゃなくて、夜更かしをしようって思った瞬間が楽しいってことですね! 日比さんが言ってた「どうにでもなれ!」とか、金丸さんが言ってた「ここからはなにをしてもいいんだ!」とか、その瞬間がクライマックスというか。「夜更かしするぞ!」が夜更かしの頂点。
金丸:今からコンビニ行っちゃう? とか。
日比:アイス買っちゃう? とか!
田代:きっと、そのアイス食べなくても楽しいんですよね。
濠:私は小さいときから夜更かしする子どもで。その頃、夜が来る度に感じていた「私の時間が来た! 私が私を独り占めする時間!」と思う感覚や、「こんな時間まで起きてた!」と思ってわくわくした夜更かしの楽しさを、今も感じます。大人になっても、夜更かしには非日常的な楽しさがあるのかな。
田代:夜って毎日来るのにまだ非日常に感じるの、わかります。誰もが「早寝、早起きしなさい。夜更かししちゃだめ」と言われて育ったから、それがまだうちらのなかに残ってるんだろうな。いまだに本当はダメなことをしてるって思ってるから、わくわくするのもあるのかなと思いました。
あとは、日中はルーティンをこなすことが多いけど、夜は多様というか。今日の夜と明日の夜が全然違う夜であっていい。自由自在にカスタマイズできる感じがあるのが夜なのかな、とも思いました。
金丸:学生の頃、課題をやっているうちに午前4時くらいになって、起きていた友達と「今って昨日? 今日?」「私はまだ昨日が終わってない」「私はもう今日が始まってる」ってやりとりしたことがあったのを思い出しました。

田代:夜更かしって何時までなんだろう!
日比:4時はちょっと朝っぽい……!
金丸:明るくなるとともに夜更かしに終わりを告げられる感じありますよね。
田代:夜更かしと徹夜は違う?
濠:時間によるのかな? 気持ちによる?
金丸:なんのための時間かによる気がしてきました。
田代:仕事とか勉強とか、やらなきゃいけないことをやるのは徹夜で、遊んだり自由な時間を過ごしたりするのは夜更かし?
濠・金丸・日比:そうかも!
濠:私たちは日中働いて夜眠るという日常生活を前提で話しているけど、夜働いている人からしたら、自由時間が日中になるから、朝や昼に夜更かしの気持ちでいる人もいるのかな。

田代:普段夜勤の人が3日休みがあったらそのなかの夜はどう過ごすんだろうとか、気になりますね。
日比:私は週に1回、新宿ゴールデン街のバーでお店番をしてるんですけど、基本的には夜に眠るリズムを崩さないようにしていて。でもお客さんも、多くは翌日も日中に仕事がある人たちだから、それでも夜な夜なお店に来てくれて、もはや遊びじゃないな、本気の夜更かしだな、と思います。
田代:本気の夜更かし!
金丸:田代さんも本気の夜更かししますか?
田代:本気の夜更かし、しますね。でもここまで話して、昼と夜って本当に違うのか、私たちが意味を持たせているだけなのか、気になってきました。夜に過度の期待をしている気もするんですよ。夜更かしは好きだし、お酒も好きだし、夜飲みながら本音を話せるって思うこともあるけど、私は普段、朝から哲学対話をしていて、朝も本音は話せるし……。
濠・金丸・日比:過度な期待、してるかも。
日比:でも夜のほうが無限な感じがするからでしょうか。あんまり終わりがないように思えるというか。
田代:無限な感じがするのと同時に、朝になったらリセットされるというのもあるかも。朝になにかやらかすと昼も夜も抱えていなきゃいけないけど、夜だったら、って、結局うちらは夜に甘えてるんですよ!
濠:朝も夜も実は変わらないけど、夜のほうが懐が深いという共通認識がある。オールした後の朝日と、早起きしたときの朝日とか、同じはずなのに全然違います。オールして迎えた朝は、全部朝のせいにしたくなる。「朝、なんで来たの!」って。

……話は尽きないけれど、哲学対話の終わりは時間制限によって、唐突にやってくるものだそう。まとめをしたり、結論を出したりしないのも哲学対話の良さだ。次々に新たな問いが生まれ、対話はまた、それぞれの毎日のなかで続いていくのだろう。
「初めまして」の夜こそ哲学対話で打ち解ける
最後に、参加メンバーに感想を聞いてみた。

ファシリテーター・田代さんによる対話のメモ
金丸:いろいろなことを思い出したりしながら話せて楽しかったです。ひとつの話題が開くと、ほつれるように考えが広がっていって、ぷつっと終わってそれぞれが余韻を持ち帰れるのもいいですね。
濠:夜が好きな気持ちとか、待ち遠しさとかはあったけど、あらためてここまで考えることってやっぱりないから、話してみて気づいたことがあったり、質問されて反射で出てきたことがあったりするなかで、自分の考えの輪郭がたしかになるのがおもしろかったです。それから、私は夜が、めっちゃ好きなんだなと思いました。
田代:長く哲学に携わってきたからといって、特定の概念を人より深く理解しているとかっていうことはないんですよね。私自身、夜についてこんなに深く考えたのは初めてでした。
あとは、普段のピザパでも、タコパでも、鍋パでも、「なんで夜更かしって楽しいんだろうね~」なんて問いから雑談を始めると、今日みたいにみんなからおもしろい言葉がいっぱい出てくるんじゃないかと思います。初めましての人たちが集まった場でこそ、哲学対話をしてみるのもいいんじゃないかな!
ただ、きっと「なんで?」と言われると身構えてしまう人も少なくないですよね。それはおそらく、「なんで宿題やってこなかったの」とか「なんでわかってくれないの」みたいに、理由を説明しても結局怒られてしまう、咎めたり責めたりするために「なんで?」が使われる場面があったり、理由を聞かれるのに慣れてなかったりするから。それでも今回みたいにポジティブに、「なんで?」と問いかけて聴き合うことから、いろいろなことを考えられたらいいなと思います。

身近な「夜」に関する問いから、ピザや飲み物を片手に、話し始める夜。普段から気になっていたことをちょっと深めるきっかけに、誰かの価値観をちょっと知るきっかけに、あるいは、明日からの日々の解像度をちょっと上げるきっかけに、新たな夜の楽しみ方として、小さな問いをみんなで囲んでみるのはどうだろう。