「次の休日、どこに行こう?」
そう思ったとき、ついスマホを開いてしまう。何を食べて、どこへ行くか。SNSをチェックすれば、ハズさない1日のプランがあっという間に完成。便利で頼もしいけれど、その分、検索できる範囲のことしか体験できなくなっているのかもしれない。
今回は、思いきってスマホの電源をオフにして、自分の感覚と人から聞いたおすすめだけを頼りに旅をしてみることに。
一緒に旅をしてくれるのは、アーティストのxiangyuさん。観光客とローカルが交差する街・鎌倉を舞台に感覚を頼りに進むこの旅。果たして、どんな1日が待っているのでしょうか?
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xiangyu
2018年9月からライブ活動を開始したソロアーティスト。読み方はシャンユー。ブレイクビーツ、ボルチモアブレイクス、バイレファンキ、アマピアノなどを取り入れた新しいサウンドを披露している。2025年4月には七尾旅人、Kuro(TAMTAM)を迎えたアルバム「遠慮のかたまり」をリリース。
Instagram:@xiangyu_dayo
X:@xiangyu_dayo
HP:xiangyu
今回訪れたのは、神奈川県・鎌倉市。言わずと知れた観光地でありながら、地元で長く愛される喫茶店や昔ながらの市場も残っていて、観光客とローカルがゆるやかに混ざり合う街だ。

今回の旅人であるxiangyuさんにとっても鎌倉は、馴染みのある場所のよう。
「鎌倉は子どもの頃からよく遊びに来ている場所なんです。今年の正月も家族と鶴岡八幡宮にお参りしたり、屋台や小町通りで買い物しました。でも、定番なエリアしか行ったことがないので、どこに行き着くのか楽しみです!」とxiangyuさん。
この旅のルールは簡単。
伝言ゲーム旅のルール
①スマホは一切使用しないこと。
②街の人に聞いたおすすめを頼りに旅を楽しむこと。
つまり、検索も地図も使わず人から人へ「伝言」のようにつながった情報を頼りに旅をするというもの。
「スマホを使わない旅と聞いたとき、“え、Googleマップもナシ?”って正直びっくりしました。だからこそ街の人とちゃんと話したり、見逃しがちなときめきに気がつけるんだろうなって。……でも、やっぱり思い出はちゃんと残しておきたい〜」

そんなxiangyuさんの旅の記録を託すのは、「kyu camera」。
京都発のイメージングブランド・kyuが手がけたこの小さなカメラが1日に撮れるのは、最大27回1回最長9秒の動画だけ。映える動画や完璧な構図から少し距離を置いて、そのときの気持ちに素直に向き合うための仕掛けとして、あえて再撮影ができない仕様になっているとか。
使い方はとてもシンプル。ボタンひとつで“ときめいた瞬間”をすぐに記録できて、あとから専用アプリ「kyu app」で自動的に1本のvlogが完成。
「スマホだったらなんでも残せるけど、kyu cameraだとこれは本当に残したいって思う瞬間を噛み締められそう〜」


それではスマホの電源をオフにして、旅のスタート!
鎌倉のローカルが集う材木座へ
まずは、鎌倉駅周辺をゆっくり歩いてみることに。
「誰か話しかけやすい人、いないかな」
アンテナを張りながら散策していると、クルーザータイプの自転車を押して歩く女性を発見。自転車の後ろに取り付けられた大きな箱から袋に入った何かがちらりと見える。
「素敵な自転車。もしかして、何か販売しているのかな……?」
少し迷いながらも、思いきって声をかけてみることに。

xiangyu:こんにちは。もしかして、何か販売されてるんですか?
女性:ドーナツを売っているんですけど。ちょうど、今日の分は売り切れちゃって。
xiangyu:え〜、残念。ドーナツ大好きだから食べたかった(泣)。
女性:材木座にある「べつばらドーナツ」というお店で作ったドーナツを、自転車でも販売しているんです。
xiangyu:へえ〜、お店もあるんですね。
女性:お店には、まだドーナツがあると思いますよ。
xiangyu:本当ですか。ちょうど今日、スマホを使わずに旅をしていて、鎌倉のおすすめを聞きながら歩いてるんです。
女性:え、すごい企画(笑)。お店に戻る予定なので、よかったら一緒に行きますか?
xiangyu:やった! よろしくお願いします。
こうして、旅の最初の案内人である「べつばらドーナツ」のスタッフさんと共に、いざ材木座へ。
観光地として有名な鎌倉だが、観光客が集まるスポットと、ローカルな人が集うスポットでは、街の空気感が大きく異なる。材木座は後者で、落ち着いた住宅街の中に、昔ながらの商店や個人経営の飲食店が静かに息づく、地元に根ざした穏やかな場所だ。
「材木座はお父さんとサーフィンに来ていた思い出の場所だけど、いつも車で海岸に行くだけだったので、こうして街を歩くのは今日がはじめて。鎌倉って、こんなエリアもあったんですね」と、知らない鎌倉の景色に興味津々。

鎌倉駅から材木座へ歩くこと10分。住宅街に佇む「べつばらドーナツ」に到着。酵母で発酵させた生地を鉄鍋で丁寧に揚げるこだわりの製法。シンプルながらも絶妙なもっちり感が魅力で、地元の人々が足繁く通う隠れた名店だ。訪れた日も、朝から常連さんの取り置きがいくつもあり、昼前にはほぼ完売しそうな勢い。サーフィン帰りにふらりと立ち寄って、おやつに買っていく人も多いのだという。

店内にはシュガー・シナモン・チョコレート・ラムレーズン・レモンなど定番のフレーバーに加えて夏限定のパッションフルーツや金曜日限定のコーヒー味などさまざまな種類のドーナツが並ぶ。
「どれもおいしそう……選べない!」
目移りしながらxiangyuさんが選んだのは、コーヒー味と人気のシュガー味の2種を選択。

ドーナツを選びつつ、おすすめスポットを聞いてみることに。
スタッフさん:店の前を海岸の方に5分ほど歩くと、左手に「John」というカフェがあるんです。そこはウチのドーナツを持ち込んで食べることができますよ。古民家をリノベーションしていて、すごいおしゃれなんです。
xiangyu:最高すぎるコースです。ありがとうございます。
耳寄りの情報をゲットしたところで、ドーナツ片手に「John」に向けて出発!
🍩べつばらドーナツ
住所:神奈川県鎌倉市材木座1-3-10
営業時間:9:00〜売り切れまで
定休日:月曜日
Instagram:@betsubara_donuts
公式サイト:https://www.instagram.com/betsubara_donuts/
近所に引っ越して毎日来たい、古民家カフェ
「海の方に歩いて5分。お店の看板が目印……って言われても、どこにあるんだろう」
地図アプリを使えばあっという間につく5分の道のりも、今日はスマホなしで看板頼り。5分間の冒険だ。ドキドキしながら歩いていると「John」の文字が。
「あったー!」
看板を見つけた瞬間、思わず声を上げて駆け出すxiangyuさん。
看板を見つけて思わずダッシュ!
展示スペースを併設したカフェ「John」は、今年でなんと7周年を迎えたそう。コーヒーを中心にさまざまなドリンクと、日替わりで季節のスイーツが味わえる。ドリンクを注文すれば「べつばらドーナツ」のドーナツを持ち込んで食べることが可能で、ローカルの繋がりならではの連携も魅力のひとつ。
まずは、おすすめのハーブティーと一緒に「べつばらドーナツ」のドーナツでひと息。

続いてお店オリジナルのスイーツもいただく。この日のおすすめは、ベトナム風プリンとラムレーズンのシューアイス。今日は暑いのでシューアイスをいただくことに。「ザクザクのクッキー生地とアイスのコンビがたまらない……」とペロリ。ちなみに、気になるベトナム風プリンは、練乳でできたコクがある硬めのプリンに、コーヒーエスプレッソを掛けた一品だそう。

xiangyu:日替わりでこんなに美味しいスイーツがあって、古民家ならではのゆっくりと流れている空気が落ち着きます。近所にあったら毎日来ちゃいますね。もう引っ越したいくらい。
John:スイーツはどれも看板メニューなんですよ。建物は築100年近いもので、以前はおでん屋さん、その前は雑貨屋さんだったものを引き継いでいて、良いところを活かした空間にしています。

xiangyu:ちなみに、展示スペースではなにをやっているんですか? 洋服がたくさん並んでいて、めちゃくちゃ気になります。
John:今日は、祐天寺にある古着屋「HOLIDAY WORKS」さんのポップアップをやっているんです。リメイクの一点モノや、US古着がメインですね。
好みドンピシャなスポーツ系のアイテムや、ひと癖あるリメイクウエアがラックにずらり。「これも可愛い……! あ、こっちも!」と、目移りしながら1枚1枚丁寧にチェックしていくと、運命の1着を発見。

「ビビッと来ちゃいました。このアイテム買います」とレジに向かうxiangyuさん。

「もともとユニホーム系のアイテムを集めていて、試着したら気に入っちゃって! 古着って出会いっていうじゃないですか。何か運命を感じました(笑)」と早速着替えて、次のスポットへ。


着替えちゃった〜、kyu cameraでも記念にパシャリ!
☕John
住所:神奈川県鎌倉市材木座1-6-22
営業時間:
カフェ 11:00〜18:00(L.O 17:30)
ギャラリー 11:00〜19:00
定休日:水曜日
Instagram:
@john_cafe_kamakura
@john_kamakura
オーナーの好きだけを集めた「STOVE」
次に訪れたのは、「John」でおすすめされたお隣の雑貨・インテリアのお店「STOVE」。ここは「John」のオーナーの旦那さんが営むお店だそう。
「STOVE」は、2018年にオープンしたオリジナルのオーダーメイド家具と日用雑貨を取り扱うお店。「愛着が湧くこと。長くつかえること」をコンセプトに、デザイナー兼設計士でオーナーの石川隼さんが、こだわりを持って厳選した商品が揃う。

xiangyu:店内にある家具は、石川さんがデザインしたものなんですか?
石川:そうですね。たとえばそのソファーやテーブルは僕が設計しました。ビンテージ家具も取り扱っています。
スタイリッシュで温かみのある空間に並ぶおしゃれな家具や水着、洋服にまたもや誘惑されながら、「さすがに2着目の着替えは、やめときます(笑)」とぐっと我慢。
レジ前に目をやると、鎌倉のさまざまなお店のショップカードやフライヤーがずらり。思わず手にとって眺めていると、石川さんが声をかけてくれた。

石川:鎌倉には個人的に面白いお店が結構あるんですよ。そういえば、隣町にできた「BELLEDE」という古着屋さん、ご存知ですか? ヨーロッパ系の古具を中心にセレクトしたお店で最近オープンしたお店でおすすめですよ。
xiangyu:気になりすぎます、好みの波がまた来たかも〜!
即決で次の目的地が決定。新たな出会いを求めて、鎌倉の街をもう少し歩いてみることに。
🪑STOVE
住所:神奈川県鎌倉市材木座1-6-24
営業時間:平日12:00〜18:00/週末11:00〜18:00
定休日:水曜日
Instagram:@stove_kamakura
徒歩15分が大冒険、隣町へ
この企画の醍醐味でもあるスマホなしでの場所探し。「STOVE」で教えてもらった目印を頼りに、次なる目的地「BELLEDE」を目指す。伝言ゲーム旅史上、最長距離となる徒歩15分の道のり。踏切を超えて、T字路を右に真っ直ぐ進み、交差点を越えて左手にお寺……。スマホが使えない分、角を曲がるたびにちょっとしたドキドキを感じながら歩いていくと目的の古着屋が見えた。


「あった〜!」ちゃんと辿り着けたことに感動。
「BELLEDE」は、2023年に東京・富ヶ谷のエリアにオープンした古着屋。2024年10月に鎌倉・大町へと移転し今に至る。東京のファッション業界に長く従事してきたオーナーの串崎さんの視点でヨーロッパのビンテージウェアを中心に選りすぐりのアイテムが揃う。

「可愛いものばっかり! このパンツとかライブで着たらいいかも」と、ライブ衣装も自身でプロデュースしているxiangyuさんに刺さるものばかりのようだ。中でも気になったのは、細身のレザーのパンツ。ここでも、もちろん試着。

xiangyu:このお店、「STOVE」さんから紹介していただいたんですけど、やっぱり好みドンピシャで素敵すぎます。私服もライブ衣装も古着ばかりで、こうして素敵な洋服屋さんと出会えるのが嬉しいです!
串崎:ありがとうございます。実は、鎌倉に移転してすぐに「STOVE」さんでポップアップをやらせてもらったことがあって。そのご縁で、また素敵な出会いが繋がっていくのが嬉しいです。鎌倉に移って、本当に良かったと思っています。

ひとつのお店から次のお店へ、人と人を通じて繋がっていくことで生まれる偶然のルート。その土地に根づいた人たちとの対話と、小さな発見の連続が「伝言ゲーム旅」を特別なものにしている。
「駅の近くに美味しい餃子屋さんがあるんです」と、串崎さんのオススメを聞いて最後の目的地が決定!
👗BELLEDE
住所:神奈川県鎌倉市大町2-8-15
営業時間:11:00〜18:00
定休日:火、木曜日、第2・第4月曜日
Instagram:@bellede___
大好物の餃子でゴールって奇跡!?
串崎さんのおすすめのお店は、鎌倉駅西口を出た先にある御成通りの餃子専門店「山本餃子」。
「最後に餃子って、奇跡じゃないですか…!」
餃子の曲を作るほど餃子が大好きなxiangyuさんにとって、「山本餃子」はまさに理想のラストスポット。
お店へ向かう道すがら、ふと目に入ったのは、路地にぽつんと置かれた無人の野菜販売や、本を自由に寄付・持ち帰りできる本箱。地図アプリを見ながら一直線に歩いていたら、気がつかずに通り過ぎてしまっていたかもしれない景色ばかり。
「えっ、あれ野菜売ってる!? かわいい〜〜!」
「こっちは本の交換箱だって。うわ〜本持ってくればよかった〜。普段はバッグに1冊は入れているのになあ」
スマホを使わない旅だからこそ、いつもよりも“ときめき”に敏感になる。何気ない風景に心が動いたその瞬間、ポケットからkyu cameraを取り出してシャッターを切る。そんなふうに残した記録を、あとから見返すのも旅の醍醐味だ。
kyu cameraで撮影した動画を専用アプリkyu appに読み込むと、あっという間にvlogが完成!
鎌倉駅を越えて、西口の方から御成通りへ。飲食店がひしめくこのエリアでは、お目当てのお店を見つけるのもひと苦労。看板を見ながら位置を探してみると「山本餃子」を発見。


タフで元気いっぱいのxiangyuさんでも、炎天下の中で歩き続けたらさすがにヘトヘト。まずはざくろ酢ソーダでクールダウン。

うんま〜! 歩き疲れた身体に沁みる
そうこうしているうちに、カウンター越しに香ばしい香りが漂ってくる。
「わ……餃子の美味しそうな匂い、やばい。」
焼きたての餃子が目の前に置かれ、早速一口。
xiangyu:すっごく美味しい! さっぱりしていてどんどん食べられる。あれ? もしかして、ニンニク入っていない?
山本餃子:そうなんです。うちの餃子は、ニンニク・ニラ・化学調味料不使用なんですよ。だから、お子さん連れの方やお仕事中の方にも人気なんです。
xiangyu:軽いのにちゃんと旨みがあるし、パクパクいけますね。

🥟山本餃子
住所:神奈川県鎌倉市御成町9-6
営業時間:11:30~19:30
※18:30L.O 売切れ早じまいの場合があります
定休日:月、火曜日
Instagram:@yamagyo
スマホの電源をONにして旅は終了
運命の1着に大好物の餃子、そしてあたたかい鎌倉の人たちとの出会い。たっぷり鎌倉の街を味わい尽くしたxiangyuさんに、旅の締めくくりとして、今回のスマホなしで巡る「伝言ゲーム旅」を振り返ってもらった。
「子どもの頃からよく遊びに来ていた鎌倉に、こんな一面があったんだって思える旅でした。鎌倉といえば、鶴岡八幡宮に行って、小町通りで買い物して帰るのが定番コースばっかりで、それ以外はあまり知らなかったんです。でも今回は、魅力的なお店がたくさんあることを知れて面白かったです。
“鎌倉・ドーナツ”って検索すれば『べつばらドーナツ』までは辿り着けるかもしれないけど、そこから『John』に繋がって、『STOVE』から隣町の『BELLEDE』に行って、最後は『山本餃子』に……なんて流れには、きっとならないと思うんですよね。
今回こうしてスマホを使わずに、人と話しながら街を歩いたからこそ出会えたなあと感じています。私は音楽を通してたくさんの人たちとコミュニケーションを取りたいと思って活動しているんですが、やっぱり人と話すことが大好きなんだなって、改めて思えた旅でした!」

日々、当たり前のように手にしているスマホ。少しだけ距離をとってみることで、日常で忘れがちな感覚を取り戻すきっかけになるかもしれない。たまにはスマホをオフにして気になる街へ出かけてみてもいいではないでしょうか。
